板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「ドッグイヤー」

先日AppStoreから発売開始した「失敗から学べ」(電子本)は、その初版が2002年7月です。
今回の電子書籍版は「敢えて」当時の文章をそのまま残すことにしました。
その一節を以下に抜粋します・・・

第1章-4:打って出なければ勝利はない


 たとえば、家庭用ゲーム機市場においては、ROMからCD-ROMへの技術革新というトリガーによって、市場占有率の大きな移動があった。任天堂の1社独占体制から、ソニーコンピュータエンタテインメントの参入で、一気に競争が激化したのは、みなさんの記憶に新しいことだろう。ゲームソフトの記憶媒体をより容量の大きいCD-ROMにすることで、「ゲームでできること」の幅は飛躍的に広がったし、ゲームソフトメーカーにとって、より量産コストの低いCD-ROMへの移行が、マーケットの変化に直結したわけである。

 また、パーソナルコンピュータのOS(オペレーティングシステム)市場では、8ビットから16ビットへ技術革新をうまく利用したマイクロソフトがある。かつていちいちアルファベットと数字によるコマンドの打ち込みをしなければ作動しなかったパソコンが技術革新により、アイコン=絵文字をマウスでクリックするだけでさまざまな作業をこなせるようになった。インターフェースにアイコンを活用した、ウインドウズOSの普及は、だから、パソコンの技術革新があって初めて実現できたことなのだ。

 ただし、こうした家庭用ゲーム機やOSの市場では、参入企業の順位が入れ替わるのに数年を要している。というのも、ハードウェアの開発や販売、ソフトウェアの開発にまず時間がかかるからである。それに消費者がプラットホームを乗り換えるときに大きなコストがかかる。とりわけパソコンだと数十万円の出費を強いられるから、たとえばNECの9800シリーズからウインドウズマシンに乗り換えようとしても、大半のひとはすぐにできるわけではない。買い替えにはある程度の時間がかかるわけである。

 その点、いわゆるWEB上で展開されるサービス業、いわゆる「ドットコム・ビジネス」の場合、変化のスピードは著しく高くなる。

 ドットコム・ビジネスの場合、事業アイデアを実際にビジネスにするときに必要なのはWEBの開発とマーケティングのふたつ。膨大なコストもいらないし、時間のかかるハードウェア開発もいらない。消費者が利用する商品を乗り換えるときのコストもほとんどない。だから、ドットコムビジネスの場合、市場占有をめぐる企業間の戦いは、あっという間に勝敗が決まるケースが多い。

 経営学者ピーター・ドラッカーの説によれば、いわゆる重厚長大産業の市場占有率の割合は、1位企業が市場全体の50%前後、2位企業が25%前後、3位以下は同様に残り市場の半分ずつとなり、市場占有率の上位4社ほどがひとつの市場で生き残ることができるという(ピータードラッカー『現代の経営』より)。

 けれども、現在のように情報通信が発達し、メディアからあらゆる商品情報が提供され、それぞれの企業のマーケティング手法の発達も手伝って、消費者の「乗り換え」が加速すると、面白いことに、ひとつの企業の「寡占化」の方向に向かいがちである。つまり、ある商品カテゴリーにおいて、「圧倒的な市場占有率をもつ1位企業とそれ以外の多数の2位」という構図が顕著に表れるのだ。

 世間でよく知られている例としては、インターネットの検索エンジンというカテゴリーだろう。第1位の「YAHOO!」が圧倒的な強さを見せ、2位以降の企業は、どんぐりの背比べである。

 ただし、勘違いしてはいけない。1社寡占化が起きやすいのは事実だが、この1社がずっと1位にいるとは限らないのが、ドットコムビジネスのような「変化の激しい市場」のもう一つの特徴なのである。

 現在、ネット関連ビジネスの大きなトリガーは、「ブロードバンド」という革新的な技術である。ブロードバンド化は、ネット関連ビジネスの「道路」である通信回線が、田舎のじゃり道から、一気に「片道3車線」の高速道路に変わるような、ドラスティックな変化である。その変化を甘くみて、現在のプロバイダーが、「いまのプロフィットモデル」に固執すれば、リスクテイクを惜しまない新規参入者による大逆転をくらう可能性は、十二分にある。

 いずれにせよ、企業にとって、リスクとはいったい何か、を改めて考えてほしい。目の前のリスクを回避することが、将来にもっと大きなリスクを生むことになるかもしれないのだから。

 逆にいえば目の前のリスクをとる、ということは、将来、市場を一気に寡占し、巨額の売上とキャピタルゲインを得る可能性を追求することに他ならない。これが、ベンチャーという、一見無謀な博打のように見える「リスクをとる経営」を行う合理的理由なのだ。

 誤解を恐れずに簡略化すれば、「打って出るのはリスキーだが、打って出なければ永遠に勝利は無い」のである。


抜粋終わり。

この文章は僕自身が「わずか」8年前に書いた文章です。
ですが、一つ一つのケースで使う「呼称」や「具体的固有名詞」を読むたび、一昔も二昔も古い話のように感じますよね。
もちろん、そういった名称をのぞけば、この本の内容が現在でも十分価値を持つと著者の僕自身が判断した結果が「敢えて」当時の文章をそのまま残す」ということの理由でもあります。

上記の文章の中で特筆すべきは、以下のフレーズでは無いでしょうか・・・

世間でよく知られている例としては、インターネットの検索エンジンというカテゴリーだろう。第1位の「YAHOO!」が圧倒的な強さを見せ、2位以降の企業は、どんぐりの背比べである。

 ただし、勘違いしてはいけない。1社寡占化が起きやすいのは事実だが、この1社がずっと1位にいるとは限らないのが、ドットコムビジネスのような「変化の激しい市場」のもう一つの特徴なのである。


抜粋終わり。

このフレーズに「Google」は一度も出てこないのです(笑)
当時のGoogleは産声をあげたばかりでしたから、ケースとしての引用には適さなかったことは言うまでもないのですが、ヤフーの市場独占が「長くは続かないよ」などと、当時の僕はヘーキで公の文章にしていたんですよね。
この予想は、それこそ「予想より早く」現実に成ったわけですが、それまでわずか8年。

まさにドッグイヤーを感じます。

今、成功している人。
今、イケてない人。

今のやり方次第では、3年後、5年後、どうなっているかわからないですよね^^

2010年12月19日 板倉雄一郎


PS:
今回のエッセイは日曜日執筆~アップなので日曜日モードということで軽めにしました。




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