板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「モノよりサービス」

「NTT営業益一位」です。
もちろん、ドコモのおかげです。
彼らは基本的に「モノ」を売っているわけではありません。
彼らが提供しているのは通信サービスです。
(もちろん、ケータイ端末販売が利益に貢献していますけれど)

NINTENDOは、「カタチ」としての「モノ」を売っています。
けれど、顧客が求めているのは、Wiiの「筐体」ではないですし、物質としてのDSのかっこよさではないですよね。(事実、DSってモノとしてはカッコ悪いですよね(笑))

既に何度も書いていることですが、特に先進国では「モノ」や「機能」が溢れています。
それでも、景気が良く、消費者のキャッシュフローに継続性が見えていれば、本当は必要の無い「新しい機能」を手に入れることの「楽しさ」のために消費が進みます。
簡単に表現すれば・・・

「カネあるし、カネが入ってくるから、何か新しいモノを買おう」
ってことです。

しかし現在のように、将来の収入に対するリスク(←不確実性)が高まれば、「手元にカネがあったとしても」、その使い方が慎重になります。そして、気がつくわけです・・・

「モノによる満足って、実は支払う価格に見合っていない」と。

<たとえばホテル>

僕は、お台場のホテル日航東京をしょっちゅう利用しています。
このホテル、このご時勢でも稼働率80%程度を誇ります。
(ただし、各種割引サービスのおかげで、ADR(平均客室単価 = 客室売上/販売客室数)は落ちています。)
ブライダル件数は、都内一位です。
僕は、このホテルの一つの「売り」である「スパ然TOKYO」の会員になってかれこれ8年。
昨年から会員制度が見直され、「スパの会員」から「ホテルのブラック会員」という位置づけに変わりました。
新制度では旧制度以上の年会費を支払う必要がありますが、その価格以上の様々な特典という価値が増大したので、僕のような利用形態の人にとっては、明らかに「価値 >> 価格」の会員制度です。

ブラック会員になると、それこそ「ブラックカード」が得られます。
僕はこのホテルのかなりの「顔」ですから、実際にこの会員カードを提示する機会はほとんどありません。
けれど、このカード、実はルームキーの役目も果たします。

チェックインの際、ブラックカードをフロントに提示すると、カードに部屋のロックを解除するための磁気信号が書きこれまれ、指定の部屋のルームキーとして利用できるわけです。

でも、それじゃ何の意味も無い。
ただ、フツーのゲストと、ルームキーの色が違うだけ。
フツーのチェックインなら、ルームキーをもらうだけだけれど、ブラックカードをルームキーにするためには、わざわざ財布からカードを取り出し、フロントマンに預け、磁気信号を書き込んでもらう「手間」が増えるだけ。
その「機能」がまるで付加価値になっていない。と思ったわけです。

僕は、早速GMに質問をしました・・・
(General Motersではなく、General Managerです念のため(笑))

このホテルの各部屋のドアロックは、コンピュータで繋がってるの?
(はい、繋がっています。)

このブラックカードには、磁気信号として会員番号が記録されてる?
(はい、記録されています。このカードには三つの磁気メモリがございます。)

なるほど・・・少し考えて、気の利くサービスを思いつきました・・・そしてGMに提案しました・・・

まず、会員専用の電話番号を用意しましょう。
会員が部屋を予約するときには、この専用電話番号にかけてもらうことにしましょう。
部屋が取れれば、部屋番号を会員に伝えましょう。
それと同時に、ドアロックのコンピュータに「この会員番号のカードで、この部屋を開錠できる」と設定しましょう。
そうすれば、会員は、フロントを経由せず、チェックイン作業も無く、ダイレクトに部屋に入ることができるようになります。
ほら、わかりますよね。フロントでのチェックイン手続きが面倒なことや、そもそもフロントを「通りたくない」事情って。(笑)
何というか、女性を待たせて、わずらわしいチェックイン作業(それでも会員の場合は何も記入しなくて良いから簡素ではありますが)をしているあの「間の悪さ」が嫌だって感じ。

それに、会員だから身元がわかっているわけだし、チェック・アウトだけエクスプレスチェック・アウトをすれば顔の確認もできるわけだしね。

(それ、できるかもしれませんね。相談してみます。)

このサービスを、普段六本木ミッドタウンの「世界一のゲストサービス」を誇る The Ritz Carlton をメインに使っている夜遊び友達に話したところ、皆口をそろえて、「それなら橋を渡っても利用する!」という意見でした。

このサービスの実現のためのコストって、ほんのわずかです。
インフラがこのサービス実現のために十分であれば、ソフトウェアの「ちょっとした書き直し」と、「チェックイン端末の機能追加」で済んでしまうわけです。
つまりホテル側は、大した投資を必要としません。
けれど、(僕のようなエロオヤジの)顧客の側に提供できるサービスの価値は、結構高まるわけです。
したがって、ホテルにとっても、

「増加するキャッシュフローの割引現在価値」 > 「サービス実現のための投資」

となりえると思うわけです。あくまでザックリですけれど。

以上の例は、「既にあるインフラ」の上手な利用によって、サービス価値を向上させ得る一つの例です。
世の中、とにかくインフラやモノや機能に溢れています。
けれど、それが上手に利用されていないケースがたくさんあります。
企業側のわずかな投資で、大きな顧客満足を得られる可能性がたくさんあります。
したがって企業も大きなリターンを得られる可能性だってたくさんあります。

このサービスが実現できるかどうかは、僕にはわかりません。
そもそもホテル側がやろうと思うかどうかも、僕にはわかりません。
けれど、実現できたらいいなぁ~と、一顧客として思います。
顧客も、企業の利害関係者の重要な一員です。
顧客が商品を育てるケースは、たっくさんあります。

<たとえばGoogle>

言うまでもありませんが、彼らが提供するサービスは、既存のハードインフラを上手に利用したサービスです。
ソフトウェアほど、「人が人にサービスを、レバレッジを効かせながら提供できるビジネスモデル」はないですよね。

彼らのサービスによって、個人や個別企業が、自前のサーバーなどへのハードインフラへの投資を必要としなくなりました。

企業にとっても、彼らのサービスを利用することによりオフバランスとメンテナンスコストの削減が実現できるわけです。
(もちろん、その分の顧客企業側の人員は削減されてしまいますけれど)

<たとえば介護>

これ、言うまでも無いですよね。
要介護の人口は増え続けます。
一方で、介護サービスを提供できる人材は不足しています。
東京都では、介護の資格を取るまでの学費すべてを都が負担する制度まであります。

世の中に「仕事が全く無いわけではない」のです。
ただ、今までと同じで、楽な仕事が減っているだけです。
やはり、努力しない人は、報われなくて当然だと思います。

<サービス業こそ雇用問題を解決できる>

具体例は、キリが無いので、これまでとしますが、サービスとは、基本的に、従業員という人間が顧客という人間に対して、価値を提供するビジネスです。
したがって、すばらしいサービスが実現され、サービスの需要が増えれば、自ずと雇用が発生します。
もちろん、「誰でもできる」とはいえません。
それなりの能力を必要とします。
けれど、それは仕方の無いことです。

巷に溢れる「モノ」や「機能」は、アイデア一つで、今以上の価値を生み出す「道具」になりえます。
工場を作ったり、ビルを建てたりする設備投資は、モノを生産することに比べ極端に少なくて済みます。
そして、真っ当なサービスであれば、顧客を満足させることができます。

「生産」より「サービス」。先進国のビジネス(特に内需)はこうあるべきだと思います。

今こそ、既存のインフラ、モノ、機能を、もっと生かすアイデアをベースに新規事業を始めてみる良い機会では無いでしょうか。

2009年2月3日 板倉雄一郎

PS:
それにしてもThe Ritz Carltonのサービスはすばらしいですよね。
わがまま顧客の要求をほとんどすべてやってくれます。
エントランスに乗り付けて、ポーターにキーを渡して、「停めといて」。
出てくるときには、「車持ってきて」。
(もちろん、おんぼろmiraで乗り付けて、そんなことを言う客は嫌われるでしょうけれど(笑)そのあたりの自粛もまた、顧客に求められる態度ですよね。せめて新車価格1500万円以上、時価800万円以上の車でやっていただかないと、ホテルの品格が落ちてしまいます。「竹やり出っ歯」(←ごめんかなり古い表現)がリッツのエントランスに停めてあったら、客が逃げちゃいますからね(笑))

彼らは極めて賢いと思います。
ホテルの従業員のコストは「固定費」です。
したがって、わがまま顧客の要求にこたえることが、経費増にはならないわけです。
(もちろん、僕みたいなわがままが増加すればするほど、人員を増やさなければならないですから、固定費増にはなりますが、一方で、僕のようなわがまま顧客は、結構お金も落としますから、売り上げ増にもなりえます。)

インチキサービスのおんぼろホテルの場合に、ほら居るじゃないですか、何にもしないでただボーっと突っ立ってる従業員が。
何か要求しようモンなら、嫌そーな顔して断る。
あれが無駄なんですよ。無駄な上に顧客の満足を得られないから、ジリ貧なんです。

サービス業において、最も重要な価値は、「顧客の声」です。
過去のどこかのエッセイで書いたことですが、ホテル日航東京の駐車場の警備員の態度がやたらと悪かった時期がありました。
僕は早速GMに文句を言いました。

「このホテルの立地と顧客層からして、車で訪れる顧客が多いはず。
 だとすれば、最初にホテル側の人間と接するのは、駐車場の警備員
 の可能性が高い。
 確かに警備員は、ホテルの直接の従業員では無いのだろうけれど、
 顧客にとってはそんなことは関係ない。
 彼らの接客態度を改めさせることが望ましい。」と。

これ、経費増大になりますかね?

なら無いですよね。

チョットした教育を施すだけで、ホテルの印象が断然良くなるはずです。
その後、駐車場の警備員の態度は、「以前よりは」マシになりました(笑)

一流のサービスは、一流の顧客が育てます。

間抜けなサービスしか提供できないのは、顧客が間抜けか、顧客の声をしっかり聞いてこなかったからです。

サービス業って、面白いですよ。 

PS^2:
そういえば、ちょっと前のある自動車会社のワンボックスカーのテレビCFで、キャンプか何かに子供と出かけた風景を写しながら・・・

「モノより思い出」

という台詞が流れるのがありました。

モノ売るCFで、「モノより思い出」って、どうよ?って思いましたが、あれですよ。
人が本質的に求めているのは、先進国であればあるほど、「モノ」より「心の満足」だと思います。





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