「日経ヴェリタス」の9月28日号の8面に、バフェット氏に関する記事があります。
記事中に・・・
「1980年代には当時の有力証券ソロモン・ブラザーズに出資。91年、米国債の不正入札事件をきっかけにソロモンが経営危機に陥ると『年俸1ドル』でソロモン会長に就き、同社の信頼回復に一役買っている。」
というフレーズがあります。
この逸話、確かに有名な話ですが、多くの方々がかなり誤解していることでもあります。
特に、「1ドル報酬」が話題のシンボルですので、ヴェリタスの紙面でも、「わざわざ括弧書き」になっていたりしますが、これ、バフェット氏が、「偽善者」なわけでもなければ、「他人のために尽力する僧侶のような人」なわけでもありません。
単なる「経済的合理性」に過ぎません。
バフェット氏は、当時ソロモン・ブラザーズの「大株主」でしたから、経営危機を救うのは、「自らの経済価値の維持」という意味において当然のことですし、それに対する報酬を、もし役員報酬のカタチで受け取れば、それは、「自分から自分へ報酬を支払うこと」であって、経済的な意味は全くありません。
それどころか、もし役員報酬として受け取れば、「所得税」を支払わなければならないわけですから、経済的合理性から考えれば、「1ドルだってもらわない方がいい」わけです。
「高い税金を支払うリターンより、税率の低いリターンを選択しただけ。」
(↑ キャピタルゲインであれば、利益確定するまで無税ですし、利益確定の場合も所得税より税率が低いわけです。)
バフェット氏は、僕にとっても、最も尊敬する人の一人です。
しかし、この逸話については、以上からお分かりの通り、「わざわざシンボル化するほどのことではない」と思いますし、もしシンボル化するなら、上記のような「なぜ1ドル報酬にしたのか」についての合理的な考察も加えるべきだと思います。
そうすれば、彼の本当の賢さについて、読者に伝わるでしょう。
この逸話について書かれている文献はたくさんありますが、以上のような経済的合理性に基づいた解説はお目にかかったことがありません。
(↑ もしかしたら、僕の知らない文献にて解説があるのかもしれませんが)
バフェット氏は、日本ではあまり有名ではありません。
このところ、突然、この日本でも有名になりつつありますが、彼に対する大きな誤解が蔓延している感じがします。
以上、ちょいと気になったので書いてみました。
2008年9月29日 板倉雄一郎