板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「資本市場インフレ」

「お金バラマくから消費してくれ!」

世界の政府や中央銀行は、そう訴えながらバラマキを行っています。
けれど、消費は一部の新興国を除き、一向に改善しません。

当然です。
人が、「生活必需以上の消費」を行う必要条件とは・・・(何度も書いていることですが)

「今、手元にどれほどのキャッシュがあるか(=純資産がどれほどであるか)」より、

「今後、どれほどの安定的なキャッシュフローが見込めるか」に依存するからです。

現在のように、(仮に手元にどれほどのキャッシュがあったとしても)、将来のキャッシュフローに対するリスク(=不確実性)を多くの人が感じれば、生活必需以上の消費を行おうとはしないわけですから、仮に「一時的な」キャッシュをバラマかれたとしても、それは有利子負債の返済に回されるか、純資産の増加・・・つまり貯蓄に充てられることになるわけで、消費が改善することに直接結びつくわけ無いのです。

(そもそも、地球温暖化ガス排出対策を訴える一方で、「消費してくれ!」と訴えること自体、ちょー矛盾かつ意味不明なわけですが)

 

しかし! 他方で世界の株価は上昇トレンドにあります。

本来、株価とは、当該企業の「将来キャッシュフローと資本コスト」によって企業価値が算定され、有利子負債を差し引いた結果として「妥当な株価」が得られるわけですが、現在の株価上昇トレンドは、そのような「株価を担保する株主価値」をまるで無視し・・・

「バラマカかれたお金が、消費されない結果、あまり、あまったお金が運用先を求め、株式に向かった結果」に過ぎないと、少なくとも僕は思います。

公的年金や政府の特別予算によるPKO、そして個人の「運用期待」によって形成された株価は、既に、「株価を担保する株主価値」を無視した水準にあると思います。

 

一般生活者の「将来に対するリスク認識の高まり」によって、
消費は必要最低限に抑えられる傾向にあり、
そのニーズを捉えた企業(・・・たとえばファーストリテイリング)などによるデフレ圧力があり、
他方で、「あまったお金の運用」として、根拠無き株価上昇トレンドが続くという、

「資本市場インフレ」

が徐々に始まっていると観測できます。

 

そもそも、世界の「失業率増加」を勘案すれば・・・

「一体誰がその商品を大枚はたいて買うんですか?!」

ってことになるわけなのですが、株価は「一人歩き」しているわけです。

 

また、「長期金利上昇」は、益々上昇するとはいえないまでも、各国の国債増発見込みから、「高止まり」は免れないと思います。

長期金利上昇は、あらゆる企業や個人の「資本コスト上昇」に直結し、資本コスト上昇は、企業価値、しいては株主価値の下落要因となります。
(ファイナンス的には、企業価値を計る上での将来キャッシュフローの割引率として長期金利が因数となります。)

「個人や公のお金が余っている」ということ以外に、現在の株価上昇トレンドを説明することはできません。

 

「消費は極力抑える。しかし運用はする」・・・これ、

人々の「将来のインフレ期待の上昇」と捉えることもできますが、大多数の生活者が消費を抑えて、その結果あまったお金を運用することは、その昔、何の経済的根拠の無いチューリップが高騰した背景に非常に似ていると思います。

 

経済が成長するためには、経済のあらゆるセクター(政府、金融、企業、個人)のキャッシュフローが潤滑に回ることが必要条件です。
金融システムの最悪期を脱したとは言え、金融危機が原因となった実体経済は、底這いという見方はできますが、いぜん回復の兆しがありません。

現在の株価上昇トレンドは、根拠無き(というか行き先の無いお金)の「しかたない結果」に過ぎないと思います。

マネーはインフレート(=膨張)しているが、将来に対する不安から、消費には回らず、運用に「だけ」回る・・・その結果の資本市場インフレが、時間経過と共に徐々に実体経済に波及するのかもしれませんが、それは、「たちの悪いインフレ」といわざるを得ません。

そのとき、積み上げたバラマキの結果、「市場への影響力を失った中央銀行」、による、「制御棒」は、あまり役に立たないでしょう。 

2009年6月3日 板倉雄一郎





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