板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「日本モデル・成長よりモデル改革」

「格差是正より貧困対策のためにも成長戦略を!」とか、
「年率2%程度の成長によるデフレ克服と雇用安定を!」とか、
要するに、この国における雇用、社会保障、貧困、財政など様々な問題を解決するために「成長戦略」が必要だ!とする意見があります。

少しずつでも「パイの拡大」を期待できるのが、経済的な諸問題を解決するための前提だとする意見に異論はありませんが、その前提は、少子高齢化、人口減少という「パイのベースの減少」を前に、実現可能なのでしょうか。
実現するためのなんらかの手段があったとしても、その手段にかかるコストに見合った成長成果を現実にできるのでしょうか。

僕には、「成長戦略による問題解決」という策・・・つまり「底上げ策」は、現在の日本モデルを維持する以上、限界ではないかと思います。

 

昨日(2009年9月10日)のテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」で・・・

「川上インフレ、川下デフレ」というテーマについて語られていました。

その原因は・・・
1、中国をはじめとする人口の極めて多い国によるバラマキ⇒内需拡大戦略による資源需要の急増⇒資源価格インフレ
2、日本国内における雇用不安や社会保障不安による消費者の購買意欲の低下⇒川下デフレ
そしてその結果、原材料価格の高騰と販売価格の低下を企業が吸収することによる企業業績の悪化懸念となりえるわけです。

これ、ドンドン源流を探っていくと、やはり(くどいようですが)現在の日本モデル=資源の海外依存⇒輸出依存、つまり「自給率の低さ」に起因するわけです。

たとえば、高騰する原材料を海外から輸入⇒国内での価値付加⇒(たとえば中国などに)輸出というスキームだけ観れば、高騰した原材料価格分を輸出価格に上乗せすれば済むことです。
どうやら現在のバラマキ天国中国では、自らの需要によって高騰した原材料費分が彼らの輸入価格に上乗せされても「今のところ」需要が減少するような局面ではなさそうです。
(それどころか、過剰な金融緩和によってダブついたマネーが不動産や株式に向かい、バブル傾向にさえあります。)
けれど、日本国内で最終消費される部分については、「原材料価格高騰分の消費者への価格転嫁」は容易くありませんし、仮に価格転嫁が実現できたとしても、資源を海外に依存する日本モデルの下では「国富の流出」に直結してしまいます。

冒頭で書いたような「成長戦略」とは、企業に置き換えれば、業績悪化に苦しむ企業の単細胞経営者が、

「とにかく売上増やせぇ!!!」

と怒号を飛ばすような方法に過ぎないと僕は思います。

企業と国家の違いのひとつとして、「利害関係者の削減というオプションが国家には無い」わけですから、働かない/働けないヒトも考慮すれば怒号する気持ちがわからなくもありませんが、人員削減というリカバリー手法しか持たない経営者より賢い経営者も世の中には多数存在します。
彼らが取るリカバリー手法は、「ビジネスモデル改革」です。

僕は、成長戦略一辺倒より、(現在の民主党が掲げる)国内配分調整より、日本モデルの改革が最も効果的で、最も現実的で、最も国民が将来に対して希望を持てる手段ではないかと思うわけです。

様々な資源の自給率がアップすれば、諸外国の経済の影響を現在ほど受けなくて済みますし、そもそも自給率アップのための新たな雇用も生まれるはずです。

自給率アップの手段とは、原油に代わるエネルギー比率の増大などの「代替」でもあり、電気自動車や省エネ家電の普及でもあり、農地改革でもあり、原材料のリサイクルでもありと、一つ一つは現在も「他の名目の下」で実現されつつありますが、そのベースになるのが国民全体の意識だと思うわけです。
国民全体の意識を、郵政がどうしたとか、そもそも運用ボロボロで実態はどうにもならなくなっている公的年金の絵空事(←めちゃくちゃひどいです。年金なんてまるで充てになりません。)とか、そんな「些細な(←あえて言わせていただきました)」ことから、日本モデルの改革によって存続可能なニューモデルの構築というヴィジョンへ向かわせることが必要条件だと思うわけです。

「地球温暖化対策」なんていったところで、ぶっちゃけ誰も「実感」してないわけです。
金融危機による経済不安の原因は、「他国の行き過ぎた金融政策」にあったわけですから、そのリカバリーのために「グリーンだ!」と叫んだところで、国民の心には届かないと思います。

今、目の前に起こっている経済的不都合の原因そのものに対する新たなヴィジョンを示すこと、そしてそのヴィジョンに基づいた各種政策を提案すること、それが最も重要では無いでしょうか。

 

僕は、「鎖国政策」を訴えているわけではありません。
生活するうえで必要最低限の物資の自給率を高め、輸出による利益は、「海外のモノやサービスなど贅沢というオマケに使う」という位置づけに日本モデルを改革できれば、その過程でも、その結果においても、現在の日本モデルにおける様々な問題をかなりの部分解決できると思うわけです。
少なくとも、
「せっせと働いて諸外国にモノを買ってもらって、そのお金で生活に必要な物資を輸入し続けなければ生きることさえ満足にできず、ちょいと諸外国の経済が凹んだら経済が大ダメージを受け自殺者が増える」なんていう現在の日本モデルじゃだめじゃないですか!

日本の労働力は長期的に減少します。
そして、現在の日本は既に経済成熟国です。
そんな国が、「成長戦略」しか見出せないでいるなんて馬鹿げたことだと思いますし、成長戦略しか解決策が無いとしたら、「これまでと同じ」であって根本的な解決にはなりえないわけです。
そんな馬鹿げた発想が、「円安歓迎」なんていうこれまた馬鹿げた意識を生み出すわけですし、その結果として自国通貨が高いことが経済にマイナス!なんて、とんでもなくおかしなことです。
そんなモデルは、現在の中国をはじめとする新興国にとって合理的なだけなはずですが。

 

2009年9月11日 板倉雄一郎

 

PS:
電気自動車やハイブリッド全盛です。
確かにそんなブームのおかげで、一部車種の売れ行きは良いようです。
そして、結果として自給率アップのバイアスにもなります。
でも(足元の)経済全体にとってどうでしょうか・・・

「僕の資産(の一部)がデフレってるよ!」

つまり、僕の資産の一部であるところの自動車(3台ありますがガソリンエンジンです)のリセールバリューが、このところエコカーに押され、ドンドン低下しています。

先日、中古のメルセデスベンツ(2002年型、E420セダン、AMGルック、5万km)をオークションで買った友人からオークション成約価格を聞いてぶったまげました。
なんと、45万円!!!!!!うそぉ!
(ボディーカラーが不人気のシルバーで、排気量が大きく燃費が悪いという特別な条件ですが)

つまり、自動車保有者のバランスシートにおける資産デフレです。
フロー減少ではなくストック目減りですから、さほど問題にはなっていないですし、メディアも伝えません。
そもそも個人は、バランスシート感覚をあまり持っていない場合が多いですから。
不動産価値下落に比べればその影響は小さいでしょうけれど、保有する自動車のリセールバリュー低下は、明らかに乗り換えする上での障害にはなります。

どこかが出れば、どこかが凹むんですよね。

あーあ、僕の車と同型同品質の車のオークション価格なんて、見たくない・・・僕らしくないけれど。

と、それこそひじょーに些細な話でした。

 

PS^2:

久々の「オープンセミナー」募集中です。
現在、定員に対して半分ぐらいの席のお申し込みをいただいています。
ありがとうございます。
もっとたくさんの方々とお話したいです。
よろしくです!

そして、僕の講演テーマの「中心」は、本日のエッセイのような内容が相応しいかなと思います。

 

PS^3:

秋ですねぇ! 雲が高いです。
僕が最も好きな季節です。
オープンカーの季節です。
5.5リッターの排気量にコンプレッサーまで付いた今時マヌケなオープンカーでガソリンバラマキながら秋のドライブを満喫しようと思います。
とは言っても、週に1度、100kmぐらい(ガソリン20リットル程度)しか乗りませんけれど。





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