板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「スタグフレーション」

このところ、新しい事業のミーティング、買い物、お食事会、デートの出迎えなどで、自宅の千葉県船橋市から東京都心や郊外へ車で移動する機会がたくさんあります。その旅程で感じることですが、

「道が空いている」

船橋から都心へ向かうには、主に「京葉道路」⇒「首都高速7号小松川線」を使うことになるのですが、船橋で暮らすようになってからの10年、特に夕方の小松川線上り、両国⇒錦糸町⇒箱崎のあたりまでは、「必ず渋滞」していました。ところがこの数ヶ月、特にこの一ヶ月は、このあたりの渋滞が「ほとんど無い」状態が続いています。
(おかげで、僕の車移動における燃費は、20%ほど改善していて(重たい車の場合、一定速度で走るのと、ストップ&ゴーで走る場合との燃費の違いが大きい)、結果としてガソリン価格上昇の多くの部分を個人的には相殺できています。)

原油価格高騰によるガソリン価格高騰が直接の原因ですし、また、原油価格高騰は、世の中のあらゆる商品の原材料、製造過程、または、輸送過程のコストを押し上げ、経済成長(特に労働配分=賃金上昇)が期待できない状態では、消費が抑制されます。

トヨタが北米の現地生産工場の生産調整を発表しました。大型SUVなどの燃費の悪い車の生産から、小型車やプリウスなどのエコカーへの生産シフトが主な内容です。
(↑ 短期的な株価はどうであれ、このオペレーションは、市場環境の変化に対して迅速で高く評価できると思います。)

原油価格高騰による「恩恵」を受けるはずの石油元売企業の利益も、これだけガソリン価格を上昇させても、原材料価格高騰のすべてを販売価格に転嫁できておらず、減益が予測されています。
(↑ 中長期的には、原油価格高騰の「おかげ」で、代替燃料や新油田の開発などが促進され、いずれ業績回復に向かうのだろうと思います。)

イオングループも、これまでの「郊外大型店舗」を縮小する計画を発表しました。
(↑ 大型店舗に限らず、車での来客を前提にした店舗は、「アルコール規制」と、「ガソリン価格高騰」によって、売り上げ利益共にかなり減少しています。ますます「駅周辺(または都心)」の不動産価格がその他の地域に対して相対的に上昇し、価格格差が拡大するでしょう。)

一方、ユニクロを運営するファーストリテイリングは、消費者が安い衣類を求めた結果、業績上向いています。
(↑ 今のうちは、消費者の「節約」による恩恵を受けるでしょうけれど、現在の経済状態が続けば、いずれ「安くても必要ない」となる可能性が高く、好業績が継続するとは思えません。)

企業物価が5.6%!!!上昇したそうです。
(↑ これいずれは、川下=つまり私たちの消費者物価に、今以上に転嫁されることになるでしょう。)

まさに、スタグフレーションの兆しです。

原油などの原材料価格高騰は、需要減、または、供給増となり、さほど長い時間をかけずに価格が調整されるのが一般的です。確かに、欧米日本などは、明らかに需要減が進んでいるわけですが、中国やインドなどいわゆる新興国の場合、たとえ彼らにとっての外需が多少減少しても、たとえインフレ抑制のための政策(金利上昇、通貨切り上げ)によって経済減速が発生しても、たとえ日本の省エネ技術を積極的に導入したとしても、そもそも人口が極めて多いですから、今後エネルギー資源をはじめとする需要が減少傾向になる、なんてことは考えずらいです。もちろん、近い将来、新興国の経済減速が明らかになったときには、「一時的に」は、原油価格をはじめとするコモディティー価格は大幅に下落する局面もあろうかと思いますが、長期的には、彼らの消費は拡大傾向にあり、したがってコモディティー価格は上昇の一途をたどることになろうかと思います。

しかしながら、コモディティー価格の長期的な上昇トレンドが続くとしても、スタグフレーションが長期的に続くなんてことは「ありえない」と思います。

原油価格高騰の「おかげ」で、代替燃料の開発は急速に進むでしょうし、
(↑ そもそも原油は「安かった」ことが、世界中で使われている原因ですから、「高い」となれば、それまで採算の合わなかった代替燃料の開発も採算が合うようになります)

社会構造は、原油価格高騰にあわせて変化するでしょうし、
(↑ たとえば、自動車利用は減少するでしょうけれど、一方で、エコカーへのシフトは進むでしょうし、省エネ家電製品へのシフトも進むでしょう。)

そして何より、コモディティー価格の上昇の「おかげ」で儲かっている資源国が、「その金を何に使うのか」という点が重要です。結局彼らが買うモノとは、先進国、とりわけ日本の技術や設備などの商品になるのではないでしょうか。

それらの社会構造の変化は、その技術を持つ企業、そしてその企業の利害関係者の多くが暮らす国を潤わせる可能性があります。

投資活動に関していえば、益々日本企業(←企業の利害関係者の内、顧客以外の利害関係者の多くが日本で暮らす人間で占められている企業)、とりわけ輸出企業は、「買い」だと思います。

ただし!あくまで、「価値 > 価格」の状態での投資でなければ多くのリターンを得ることはできませんのであしからず。
(↑ 「今、投資すべきだ!」と言っているわけではありませんし、すべての輸出企業が「買いだ」と言っているわけでもありません。)

オイルマネーが、ニューヨークの高層ビルを買収しています。かつて、日本の不動産バブルの頃と非常に良く似ています。

日本企業がロックフェラータワーを買収したとき、米国人は言ったそうです、

「一旦売ってやればいい、どうせ持って行くことはできないんだから」

その後、日本のバブルが崩壊し、買った価格より安い価格で、手放すことになりました。

今、日本人ビジネスマンが考えることは、

「一旦稼がせておけばいい、どうせその金で買うのは我々の商品なのだから」

世界経済は、深くつながっています。
結局、お金は、世界をぐるぐる回っているだけです。
そのうち、私たちに「順番」が回ってくるはずです。
投資活動におけるチャンスを見逃さなければ、絶好のチャンスがやってくるように思います。

ただし、社会構造の変化を前提にすれば、すべての企業、とか、株価指標への投資チャンスがあるとはいえません。あくまで、社会構造の変化を吸収できる、または、社会構造の変化によってビジネスチャンスを迎えることのできる「個別企業」です。

2008年7月11日 板倉雄一郎

PS:
現在募集中の「実践・企業価値評価シリーズ第31回2日間セミナー」の募集は、あまり芳しくありません。
板倉雄一郎事務所としては、トホホな状況ですが、受講を検討されている読者にとっては、「少ない人数で密度の濃い学習のできる機会」です。
どうぞよろしくお願いいたします。





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