板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「今、と、将来のバランス」

言うまでも無く、資産運用において、複利と消費のバランスは極めて需要です。

事業であれ、投資であれ、ある年に得られた「益」のすべてを将来のために再投資すれば、予測される将来の資産は極めて大きくなります(同時に割引現在価値も増加します)が、一方で、今使える資金はゼロになってしまいます。
逆に、ある年に得られた「益」のすべてを今消費してしまえば、今の満足は得られますが、予測される将来の資産は、全く増加しないわけです。
そして、私たち人間は、「いつか死んでしまう」わけですし、死ぬことまで考えなくても、年老いていく過程で、「できること」の選択肢がどんどん減少していきます。
さらに言えば、「いつ死ぬかわからない」わけですし、「いつ、できることの選択肢が減るのかわからない」わけですから、これらを考慮すれば、「今と将来のバランス」を取ることは極めて難しくなります。

以上のことは、資産運用に限ったことではありません。

若いうちにできること、を、積極的に行えば、若いうちの自己実現は可能になりますが、知識と経験の少なさから、その支出が効率よく自己実現の成果に結びつくとは限りません。
年老いてから、やりのこしたこと、を実現しようとすれば、知識と経験が若い頃に比べ豊富ですから、支出を効率的に自己実現に結びつけることができる可能性が高まりますが、一方で、「もうできない」になってしまっている可能性もあります。

そんな大げさな話ではなくても、たとえば風邪を引いたとき、一日休んで体力を取り戻し、明日からの仕事の効率を追求すべきなのか、それとも無理して今日を働くのか、どちらがアウトプットを増大させるのか、簡単にはわかりませんし、どちらを選択したとしても、他方を選択した場合との比較をすることはできません。

つまるところ、私たちは毎秒、毎分、毎時間、毎日、毎月、毎年、「今と将来のバランス」の選択を迫られているわけです。
そして、ある選択が他の選択に比べ、『自らの選択がある事象の結果に大きく影響しない場合を除き』、良かったのか悪かったのか、実は判断できないものです。
(↑ たとえば、投資資金が日々の出来高に対して極めて少ない場合の投資活動においては、自らの投資行為が市場価格に与える影響が極めて少ないですから、後にその売買が正解であったかどうかが判明します)

僕の場合、投資活動とそれに伴う事業が仕事の大部分を占めていますから、一見、「今より将来」と思われがちですが、本当のところは、「将来より今」が大切です。

このように書くと、複利効果が得られないように思われるかもしれませんが、そんなことは全然ありません。

「今の気持ち」とは、現時点で予測した「将来の見通し」をも含めて「今の気持ち」なのですから、たとえば持てる資源の大部分を今消費してしまえば、その瞬間の顕在なハッピーが得られると同時に、「明日から厳しくなる」という気持ちを「今抱える」ことになり、結果として「今のハッピー」が十分でなくなってしまいます。

何かのディシジョンをするとき、僕はこう考えます・・・

①今:70%、将来30%・・・今が気持ちいいか、いや気持ち悪い。
②今:50%、将来50%・・・今が気持ちいいか、割と気持ちいい。
③今:30%、将来70%・・・今が気持ちいいか、すごく気持ちいい。

となれば、③を選択することによって、実は「今の気持ちよさ」を選ぶというわけです。
もちろん、上記の「配分絶対値」は、具体的な事象によって異なります。

たとえば、「むちゃくちゃ好みの女性」が目の前にいれば、明日の仕事などそっちのけで、「今:100%、将来:0%」を選択するのは間違いないですし(笑)、たとえば中古自動車のように相場変動があり、且つ、時間経過と共に価値が減少するモノの場合には、「もうちっと待とう安くなるはず」と「今:0%、将来:100%」を選択する場合もあります。
(↑ 中古自動車の場合、自らが所有して利用することによる価値下落以上に、市場価格が下落する見通しがあれば、購入を差し控えるという意味です。)

結局、「今の選択に今の自分が心から納得するか否か」が全てではないでしょうか。

だから、今と将来の配分がどうであれ、「えいやぁ!」という選択だけはしたくない、という結論になるわけです。

まれに、そういったイイカゲンな選択が功を奏する(と後に認識できる)場合もありますが、本当に功を奏したのか否かは、実は検証できないわけですから、やはり、「今の選択に今の自分が心から納得するか否か」が少なくとも僕の場合の判断基準ということになります。

ただし!

このようなある意味「気分任せ」の判断は、その個人の「性根」に強く依存します。
性根が「今さえ楽しければいい!」と、今の便益に偏っている場合、複利効果が得られるような判断はまずできないわけです。
このような人、よく見かけます。
このような人、いつもお金に余裕がありません(笑)
お金に余裕が無いから、今のことしか考えられないというわけです。
一緒に遊ぶには楽しいですが、仕事上のパートナーや(女性の場合なら)生活のパートナーにしようとは思いません。
このような傾向のある人は、細かい事柄の判断においても、「今と将来」を考えてみる「癖」を普段から身に着けるようにする時期を設ければよいと思います。
ある期間(たとえば1年だとか)、その訓練を行えば、後は心が勝手に判断できるようになると思います。

ファイナンスの知識が、普段の生活に生きることと同じように、ある時期の知識習得や気づきによって、その後の将来に大きなプラスを与えると思います。

以上、当たり前のことばかりで、何の参考にもならないかもしれませんが、書いてみました。

2008年9月8日 板倉雄一郎

PS:
なんだか「計算高い」と思われそうですが、
「明日のことなど『全く考えない』で、今日を過ごす」
そんなことを100%実現できるヒトって本当に居るんでしょうか?

そんなことができたら、その瞬間は確かにハッピーなのでしょうけれど。

PS^2:
今利用する資源とは、ざっくり、「お金」、「体力」、「知識と経験」、「社会的地位」などですが、この中で、「知識と経験」については、少なくとも「消費」されないですよね。

だから僕は、知識と経験を蓄えている瞬間の自分が大好きだったりします。
今も楽しいし、同時に、将来のためにもなる。

学ぶことって、本当に合理的で、楽しいことだと思います。





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