板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURA’s EYE 「蛸が蛸の足を食う」

クレジットカード業界の損失の話に注目しています。

クレジットカード業界は、銀行の場合の預金のような通常業務としての資金調達手段を持っていない代わりに、カード利用者に対する債権を証券化して投資家に売却することによってそれとしています。

このところ、カードの焦げ付きの拡大を背景に、上記の証券化とその売却に滞りが出ているようです。

そこで、アメリカ政府だか、中央銀行(FRB)だか、(このエッセイのテーマではどっちでも同じことなのですが)、カード会社の発行する債券に対する保証をつけるとか、買取をするとか、そんな「ありえない方法」が施行されるようです。

これ、ルックスルーすると、どういうことを意味するかというと・・・

「国民が、毎日の生活や遊びで消費するお金を、国民全体から借りて、その債務を国民全体で保証する」

ということを意味します。

政府や中央銀行という「人」は、この世に存在しません。
政府や中央銀行のお金とは、要するに国民のお金(または、将来国民が支払う税)です。
また、特にアメリカでは、クレジットカードは万人が、毎日、どんなものでも利用するわけです。
これら二つを鑑みると、上記のように、国民が国民から借金して消費し、その債務を国民が保証するという構図がよくお分かりになると思います。

まさに、蛸が蛸の足を食うような構図です。

つまり、「だれも担保しないし、誰も担保されない」わけです。

同じように、ひところ騒がれた「日本の財政」においても、(過去のエッセイで散々書いてきましたが)、日本国債の保有者(←つまり債権者)は、日本人がほとんどで、且つ、円建てですから、これまた、日本人が日本人にお金を貸し、そのお金で作った道路などを日本人が使っている、ということになります。
日本の場合は、幸いです。
家庭内で、父ちゃんが母ちゃんにお金を貸しているに過ぎないわけですし、その上、それを担保する「国民の金融資産」は、日本国債の残高を上回っています。

話しそれましたが、米国のクレジットカードの場合は、つまるところ、それを担保する人が「誰も居ない」に等しいわけです。

一説によると、カード会社の損失は、全世界で数百兆円、大きく見積もる人は1000兆円!という見積もりもあります。

アメリカの場合、政府や中央銀行がクレジットカード会社の手助けをしたところで、「問題の先送り(←まさにクレジットカード(笑)」にはなりますが、本質的には何も解決しないわけです。

(それでも、その対策が施行されることになれば、ニュースフローに踊る投機家によってちょいと株価も上昇するでしょうけれど)

政府や中央銀行による手助けは、その対象が、「ある一定の業界」や「ある個別企業」という「部分への手助け」の場合には、それなりの効果があります。
しかし、クレジットカード業界全体ということになれば、クレジットカードが普段の生活に広く浸透している社会の中では、「全体が全体への手助け」をする行為は、効果的ではないわけです。

たとえば、10人居る割と閉鎖的な村があったとします。
そのうちの一人が農作業をサボった結果、食べることができなくなったとしましょう。
この場合、他の9人が作った農作物を一時的に提供し、「しっかり仕事せえよ!」としかりつければ、何とかなるわけです。
この場合の「他の9人」とは、国家に置き換えれば政府であったり中央銀行であったりするわけです。
しかし、天候不順で10人すべての収穫がなくなってしまえば、「10人全員で10人全員を手助けしよう!」といったところで、どうにもならないわけです。
現代の国家では、そこに「金融」というクッションがあるおかげ(?)で、直ちに問題が顕在化しないことが実は大きな問題です。
すぐには危機的状況に気がつかないわけです。
しかし、証券や金融とは、あくまでお金の「媒体」に過ぎず、それぞれの証券には必ず実態の担保があります。
実態の担保が不足すれば、いずれそれは顕在化します。

これらの顕在化は、「これから」です。

上記の村の比ゆの場合でも、他の村からの手助けがあれば、何とかしのげるでしょう。
けれど、今、「他の村」って、宇宙人でも来ない限り無いですよね。

脅かしたいのではありません。
状況をしっかり把握することから、すべての解決が始まるということを伝えたいわけです。

企業倒産を経験した僕の大きな反省点の一つに、「現状認識の不足」があります。

今は、経済に参加する人(←つまりすべての人間)が、世界の現状を認識することが大切だと思います。

2008年11月28日 板倉雄一郎

 





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