板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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サムライ会計 第22回「GM倒産と後発事象」

(毎週木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

皆さん、こんにちは。板倉雄一郎事務所パートナーの木村です。

GMが今月1日、ついに日本の民事再生法に相当するといわれる米連邦破産法11条(capter11)の適用を申請しました。ただし、以前よりcapter11の適用を見据えた周到な準備が行われており、クライスラーで予行練習(?)も行っていたことから、適用申請後の混乱は、GMの規模を考えると、限定的であったのではないかと感じます。

気になるのはやはり日本の部品メーカーなどへの影響です。日本自動車部品工業会によると、主要な部品企業82社合計の2009年度の営業損益が調査開始以来初めて赤字になる見通しだという発表がありました。世界的な自動車市場の縮小により苦しむ中、さらに追い打ちをかけるようにGM破産の影響があるとなると、まさに「泣きっ面に蜂」状態といえます。

本日は、いすゞ自動車を例に、GM倒産の影響について考えてみたく思います。宜しくお付き合いください。

まず、いすゞ自動車の直近の決算を振り返ってみましょう。

2009年5月11日付けのいすゞ自動車の2009年3月期決算説明資料をみると、トラックやピックアップなどの製品において、国内、北米、アジア及びその他の地域において、売上高が前年比マイナスとなっています。その結果、2009年3月期の連結売上高が1兆4,247億円(前年同期1兆7,916億円)、経常利益152億円(前年同期1,140億円)と減収減益の決算になっており、連結ベースでの最終利益も赤字に転落しています。(決算説明資料はこちら

今月2日のニュースでは、GMといすゞ自動車がディーゼルエンジン合弁などの提携関係を継続することで合意したとの報道もある一方で、今月9日の報道によると、いすゞ自動車がGMの中型トラック向けエンジンの供給を停止することを明らかにしたとのニュースもあり、引き続き注意して状況を把握する必要がありそうです。これらと合わせて考えなければならないのが、売掛債権の回収です。

帝国データバンクの特別企画によると、GMの得意先102社に売掛債権があり、回収リスクが懸念されるとの発表がありました。

このうちほとんどの日系企業が、一定の条件を満たせば対象になるオバマ政権の自動車部品業界支援プログラム(ASSP)を申請しているとのこと。ただし、申請すれば全ての債権が保全される訳ではなく、アメリカ政府が準備している50億ドルを大幅に上回る200億ドルの売掛債権があるとも言われていることから、予断を許さない状況にあります。

このリリースを企業別にみると、いすゞ自動車が保有する対GM売掛債権が他社に比べ圧倒的に多く、100億円となっていますが、いすゞ自動車の6月2日付けのプレスリリースをみると、5月末のGMに対する売掛債権が16億5,000万円と減少しているようです。本プレスリリース内には、「上記債権の取立て不能又は取立て遅延につきましては、現在精査中であり、公表しております業績予想値の修正が必要となる場合は、速やかに開示いたします」とあります。

このような決算日後の主要取引先の倒産は、会計上の「後発事象」に該当するケースとなります。

監査・保証実務委員会報告第76号によると、後発事象の定義として、

「後発事象とは、決算日後に発生した会社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす会計事象をいい、そのうち、監査対象となる後発事象は、監査報告書日までに発生した後発事業をいう」とあります。
また、後発事象の分類として、修正後発事象と開示後発事象の二つの分類が行われており、それぞれ下記のように定義されています。

後発事象(会計事象)

1 修正後発事象…発生した事象の実質的な原因が決算日現在において既に存在しているため、財務諸表の修正を行う必要がある事象

2 開示後発事象…発生した事象が翌事業年度以降の財務諸表に影響を及ぼすため、財務諸表に注記を行う必要がある事象

要は対象期(今回のケースであれば2009年3月期)の財務数値を修正するか、修正はしないが情報を開示するか、の違いです。

重要な取引先の倒産については、修正後発事象または開示後発事象の両方に該当する場合があり、これが修正後発に該当する例示として同基準では
「決算日において既に売掛債権に損失が存在していたことが裏付けられた場合」
とあります。

形式的にみると、GMがchapter11を申請したのが6月1日であることから開示後発事象に該当するものと考えられますが、このあたりは実態も合わせて判断が必要となり、実際の会計監査の現場でも大きな論点になることがある事項です。

ただし、いすゞ自動車(またはルックスルーした場合の同社株主)にとっては、2009年決算を修正するか注記で開示するかということよりも、キャッシュインフローの減少つまり「とりっぱぐれ」があるのかどうか、というのが当然ながら重要な問題です。

目先のニュースや財務数値に振り回されることなく、冷静に将来のキャッシュフローについて考える必要があります。オバマ政権は日本の部品メーカーも自動車部品業界支援プログラムの適用対象になるとは言っていますが、先日のバイ・アメリカン条項のように自国の利益のみを優先し他国に損を押し付けるような不合理な結果とならないよう、政治の動向も合わせて注意深く見守りたいと思います。

今日の一言;
「GM倒産によるロシアンルーレットの結末は」

2009年6月11日 T.Kimura
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