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サムライ会計 第9回「値下げと景気後退」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

皆さん、こんにちは。板倉雄一郎事務所パートナーの木村です。

株価下落に歯止めがかかりません。
欧米を中心とした協調利下げも空しく、G7会議を前にした先週金曜日の日経平均の終値が8,276円と、7日連続の株価下落となりました。

前回前々回と、「値上げ」についての話を書きました。
本日のエッセイでは、景気後退局面における「値下げ」について取り上げたいと思います。

イオンが今月9日、グループ全店にて食品や衣料品などの生活必需品を対象にした値下げを発表しました。対象となる商品は、「トップバリュ」などのプライベートブランド商品(150品目)とナショナルブランド商品(850品目)と合わせて約1,000品目。

現状の店頭価格から10%~30%(平均約20%)という大きな値下げ幅で、期間は今月18日から来年の2月末まで。
(ニュースリリースはこちら

この値下げ発表の前日に発表された中間決算の内容をみると、営業収益は前年同期比3%増の2兆6,069億円。営業利益は前年同期比13%減の586億円となっており、食品やプライベートブランド商品は好調であったものの、衣料品の不振や原材料の高騰などにより、増収減益の決算になっています。

また、上半期で35店舗の閉店があったことや、不採算店舗の減損損失の計上などにより、最終利益がマイナス160億円と赤字へ転落しています。

このようなタイミングでのイオンの「値下げ戦略」について考えてみたいと思います。大幅値下げに踏み切った理由のひとつには、2008年8月中間期の業績不振により、早急な対応が必要になったことがあると考えられます。

景気後退局面においては、需要自体が減退し、また、生活必需品についての価格感応度が高まります。生活必需品で約2割の値下げというのは、この不景気の中、消費者にとって小さくないインパクトがあります。中間決算発表時における同社の2009年2月期の業績予測を見ると、売上が5兆4,000億円(前年同期5兆1,673億円)、営業利益が約1,700億円(前年同期1,560億円)となっています。今回の値下げによりシェアを拡大し販売数量及び売上金額を伸ばし、上期の不振を補う算段のようです。

たしかに、同機能の商品と比べ割安なプライベートブランド商品である「トップバリュ」は、2008年8月中間期においては、売上高1,683億円(前年同期比38%増)ということで、この不況の中、確実に収益を伸ばしています。

また、業務提携に伴い2008年3月から「トップバリュ」の本格導入を開始しているダイエーにもこの影響が及ぶことは必至であり、イオンは販売量拡大に伴う量産効果や仕入先に対する購買力の増大を見込んでの低価格戦略を更に推し進める形になったといえます。
(ダイエーの「トップバリュ導入のニュースリリース」はこちら

一方、流通グループ2強のもう1社、セブン&アイ・ホールディングスの状況はどうでしょうか。

今月9日に発表された中間決算の内容を見ると、営業収益は前年同期比1%増の2兆8,610億円、営業利益は前年同期比2%増の1,480億円と、連結売上高の約4割を占めるコンビニ事業の健闘により増収増益と、イオンとは明暗を分けた決算内容になっています。

「値下げ」という切り口でみると、セブン&アイ・ホールディングスは「ザ・プライス」という生活用品を中心に販売を行うディスカウント店舗の展開を行っており、今年8月に都内に1店舗オープンしています。(ニュースリリースはこちら

「ザ・プライス」においては他のイトーヨーカドーと比べの販売価格が平均で約1~3割安いようです。そして、このニュースリリースによると、この店舗ではプライベートブランドである「セブンプレミアム」は取り扱わず、ナショナルブランド商品のみを安く提供するとあります。

「セブンプレミアム」は、プライベートブランド商品ながら、「低価格」だけに重点を置かず、セブン-イレブンでみかける商品からはパッケージデザインも洗練された印象を受けます。当初、このディスカウント店舗での「セブンプレミアム」は展開せず、新規ディスカウント店舗とは別ラインでプライベートブランド戦略を考えていたことが窺えます。

ところが現在は、「ザ・プライス」においても「セブンプレミアム」をコンビニと同価格で販売を開始しており、好調を続けるセブン&アイ・ホールディングスにおいても試行錯誤が続いているようです。

また、今月8日のニュースによると、セブン&アイ・ホールディングスはこの「ザ・プライス」店舗を、年内に2店舗、2009年には5店舗以上の新規出店を予定しているとのこと。「フェアプライス」を掲げる鈴木敏文氏率いる同社においても、実質的な値下げ店舗である「ザ・プライス」が今後の展開のカギになりそうです。
(関連エッセイはこちら)。

このように、両者を比べると、イオンは、プライベートブランド「トップバリュ」の積極展開を中心に、生活必需品については、基本的には全店舗で、期間限定ながらプライベートブランド商品もナショナルブランド商品も合わせた「全体的な値下げ」という形の展開を進めているのに対し、セブン&アイ・ホールディングスは、現在のところ、新規ディスカウント店舗による、ある意味で「限定的な値下げ」という形での展開を行っています。

業績不振に喘ぐイオンが、良くも悪くも思い切った対応であるのに対し、セブン&アイ・ホールディングスの方は、業績的にも余裕がある分、試験的な試みで今後の展開を探っているような印象を受けます。来年2月の決算を迎えた後の両者の業績がどうなっているのか、今後の動向と合わせて、引き続き注目したいと思います。

今日の一言;
「消費者に支持される価格戦略の形が問われる時」

2008年10月14日 T.Kimura
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