板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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サムライ会計 第2回「バリューチェーンと適正価格」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

皆さん、こんにちは。板倉雄一郎事務所パートナーの木村です。

前回の初エッセイでは価格設定について書きましたが、読者からいくつもの感想を頂きました。円高や原油高騰などのタイミングと重なり、興味や問題意識を持たれている方も多いようですね。反響を頂くと、やはり嬉しいものです。ありがとうございます!

さて、前回のエッセイ以降も、引き続き原材料の高騰に伴う価格移転のニュースが、テレビや新聞などを賑わせています。特に、鋼材価格の値上げについては、自動車産業や家電産業など多くの産業が影響を受けるため、約3割とも言われる鋼材の値上げは深刻です。

今回のエッセイは、最近の価格設定についての日本企業各社のトピックと、読者から意見を頂いたテーマでもある、「バリューチェーンで考えた場合の適正価格」について考えてみたく思います。

前回取り上げたのはホンダの事例でしたが、そんなホンダは先日の記者会見で、「消費者は原材料の値上げとは関係なく商品を判断するので単純には値上げできない」と、値上げに消極的な姿勢のようです。このままオイルショック時のように値上げしないという意志決定を継続できるかどうか、今後の動きに注目したいと思います。

また、トヨタの決算発表(2008年5月8日付)によると、原価改善による効果が、2007年3月期では連結全体で1,200億円であったのが、2008年3月期の予測ではゼロとなっています。

トヨタでは、設計段階から原価を作り込んで原価を下げていく、いわゆる原価企画やVA / VEと呼ばれる活動を継続的に行っており、毎年効果を上げているはずなのにと不思議に思い、問い合わせてみました。以下その回答の要約です。

『前期(2007年3月期)と今期(2008年3月期)の原価改善の内容としては、前期は部品の共通化や生産工程の効率化などにより原価低減効果があり、今期もそのような活動は続け成果も出していく。しかし、今期は鋼板を中心とする原材料の値上げと相殺されてしまい、結果的に今期の原価改善効果はゼロと予測を出している。』

逆に考えると、諸々の原材料の値上げを原価低減でオフセットできているところが、トヨタのものづくりの強みと言えるでしょう。
しかし、そんなトヨタも、先日の記者会見で今後の値上げの可能性を示唆するような回答があったようで、自動車業界の各社の価格動向から目が離せません。

一方、家電業界はどうでしょうか。
ちょうど先週、新日鉄と松下電器が、鋼材の値上げ幅3割以上で最終調整をしているというニュースがありました。

家電は競争が激しく商品価格にその材料の値上げ分を転嫁しづらい部分もあるかと思います。そんな松下電器の創業者である松下幸之助は、価格についてどのような考え方を持っていたのかについて紹介したく思います。

松下幸之助氏が商売をはじめた最初のころ、売値をいくらにすればよいか分からず、直接の販売先である問屋さんへ相談にいったというエピソードがあります。

販売先である問屋さんに正直に原価を伝えたところ、買い叩かれることなく、相場を教えて貰った上、原価よりは大分高いその相場で仕入れて貰えたという話です。
これはある意味で、交渉の鉄則に反する行動とも言えます。足元を見られてしまい、相手有利に交渉を進められてしまうリスクが多分にありますから。

しかし、その問屋さんは、足元を見て買い叩くような投機的な行動はとりませんでした。仕入先である松下氏の会社を成長させた方が、仕入れも安定し、継続的な繁栄につながると物事を長期的に考えた結果でしょう。

このような経験もあり、松下氏は、「『正しい相場』は、皆の正しい心と正しい評価によって決まるものであり、私の心で左右してはならない。そこに業界の安定と繁栄がある」ということを主張されています。

この問屋さんのように、長期での意思決定をできる経営者が、今日どれだけいるでしょうか。そして、翻って考えると、そのような意思決定を後押しできる株主が、今の日本にどれだけいるでしょうか。

松下幸之助氏のエピソードと現在の各業界が置かれている状況鑑み、不安定な要素を数多く抱える現在の日本経済においては、長期的に物事を考えられる経営者と、それを歓迎できるしっかりした知見をもった投資家(≠投機家)の存在が重要です。

今月(6月29日)開催のオープンセミナーでは、有価証券報告書の読解を通じて、経済や企業の知見について分かりやすくお伝えできればと思います。

皆様のお越しをお待ちしています!
詳細はこちらまで。

今日の一言;
「長期的な意思決定下では、正直者はバカをみない」

2008年6月3日 T.Kimura
 ご意見ご感想お待ちしております。





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