板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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サムライ会計 第16回「マヨネーズ会社の行く末」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

皆さん、こんにちは。板倉雄一郎事務所パートナーの木村です。

先週のオプションセミナーご参加の皆様、お楽しみ様でした!オプション取引の考え方や実践という具体的な内容もそうですが、合わせて「不確実の時代にどう向き合うか」という大きなテーマについては、引き続き取り組んでいきたいと思います。

さて、僕のエッセイでも前回より「企業の変化」を取り上げてきました。前回のブリヂストンに続き、本日は、マヨネーズでおなじみのキユーピー株式会社(2809)を取り上げたいと思います。

先日、この会社の2008年11月期の連結決算が発表されました。新聞には増益との報道もありましたが、事業売却や法人税等の影響などで税引き後純利益が増加したにすぎず、営業利益ベースでみると、2007年11月期が売上高4,680億円、営業利益が158億円であったのに対し、2008年11月期は売上高4,739億円、営業利益140億円と増収減益の決算内容になっています。その内訳をみてみると、まず増収の原因はやはり昨年夏の販売価格の影響が大きいものと思われます。値上げのニュースリリースはこちらとこちら。

家庭用マヨネーズ、ドレッシングの価格改定
業務用マヨネーズ、ドレッシングおよびサラダ製品等の価格改定

キユーピーは、ドレッシング類の国内市場シェアでは半分以上を占めるほどのダントツのトップ企業であり、販売会社や小売店などにも大きな交渉力を持つものと考えられます。

全体として約10%の販売価格の見直しを実施した結果、その後もシェアを大きく落とすことなく、この値上げが2008年11月期の営業利益に20億円ほど寄与した形になりました。(2009年1月15日の決算説明資料より)

ただし、原材料の高騰や資源高による影響により、営業利益に90億円のマイナスのインパクトとあります。つまり、値上げをしたものの、結果として十分な消費者への価格転嫁が行われず、営業利益が前年同期比でマイナスとなる大きな要因となりました。

このようなキユーピーの財務数値の動向を、まずは前回と同様、利益率と資産効率に分けて考えてみましょう。

(クリックすると大きな画像が表示されます)

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利益率はここ三年間で悪化方向に進んでいますが、資産効率でみると若干の改善がみられる、という部分に注目もポイントです。資産効率のうち、棚卸資産回転率では、近年の原材料の高騰を受け悪化していますが、固定資産回転率では、減価償却が進んで上昇しています。

キユーピーの2007年から2009年の中期経営計画によると、成長分野へのシフトということで、大きく「健康ニーズへの対応」「フードサービス市場での展開強化」「海外への拡大推進」の三分野があげられていますが、このシフトが大きな設備投資なしに進められる、というところが同社のビジネスモデルの強みであると言えるのではないでしょうか。

今月13日に発表された次期の業績予測は連結ベースで売上高4,800億円、営業利益165億円と増収増益を見込んでいるようです。マヨネーズなどの販売価格については、原材料価格の価格動向が不透明であり、値上げも値下げも織り込んでいないとのこと。

会計上の事業セグメントは食品事業と物流事業のふたつですが、IR上はさらに細かくセグメントを区分して5つのセグメントでの情報開示を行っています。次に、セグメントごとの利益率の推移から、同社の今後の展開を考えてみましょう。

(クリックすると大きな画像が表示されます)

売上及び営業利益に占める割合は、調味料・加工食品事業が圧倒的ですが、営業利益率に着目してみると、重点課題のひとつである健康機能分野での営業利益率が約6%と高い水準を保っていることが分かります。今後も健康ニーズへの対応を拡大していくということなので、健康訴求サラダ、ヒアルロン酸、健康訴求マヨネーズタイプなどが増益に貢献していくことになりそうです。

確かに、コンビニやスーパーでも、ヒアルロン酸だのコラーゲンだの入った健康訴求商品(健康不安への訴求、というのが実態かもしれませんね)が少し前に比べずいぶん増えたように思います。こういう栄養素も流行り廃りってあるように思います。余談ですが、僕の友人で、健康のために「某バランス飲料」を毎日飲んでいたら体調が悪くなり、病院へ行くと「あと一歩で糖尿病です」と言われたという、笑うに笑えないエピソードもあります。何事も「過ぎたるは及ばざるがごとし」ということでしょうか。

いずれにせよ、健康ブームは引き続き続くと考えられるので、ドレッシング類の国内市場で大きなシェアを持つ同社が、健康市場へのシフトを進め資産効率を悪化させることなく利益率の改善を進めることが、2009年11月期の目標達成のためのポイントと言えます。

問題は原材料価格や販売価格の動向です。キユーピーの鈴木社長によると、「マヨネーズは戦後12回の値上げと23回の値下げをした」とのことであり、目先の利益はこれらの影響を大きく受けることになります。しかし、このような目先の利益のみに着目するのではなく、長期的な視点での健康分野へのシフトという会社の動きに注目しながら、この会社の企業価値に対して意識を向けるべきだと思います。

P.S
キユーピーの個人向けIRサイトはとても充実しています。中期経営計画を事業ごとにフラッシュを使って説明しており、とても分かりやすいものでした。一般消費財だけに、株主優待なども合わせて個人投資家の取り込みにも熱心だと感じました。

今日の一言;
「資産効率を維持しながらの成長分野へのシフト」

2009年1月29日 T.Kimura
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