板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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サムライ会計 第4回「付加価値とタイミング」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎パートナーの木村です。

先日のオープンセミナーにご参加の皆様、お楽しみ様でした!
本日は、その感想も踏まえ、付加価値とタイミングについて書きたいと思います。

ここのところ、全世界的にスタグフレーション(インフレと不況の同時進行)にも近いような状況に突入していますが、エネルギーや農作物の価格高騰が突出しているという点で、「エネフレーション」や「アグフレーション」という表現もあるようです。

何となくゴロが悪いのはさておき(笑)、現在の経済状況をうまく表した造語ですね。

さて、今までの僕のエッセイでは、主に「価格」に焦点をあてて、日本企業にまつわる様々なエピソードを紹介してきました。本日は「タイミング」という視点も加えて、不況の時代に企業はどうあるべきかについて考えてみます。

例えば、コンビニのおにぎりを値下げするのではなく、素材へのこだわりを付加した「高級おにぎり」を発売することにより、消費者により高い付加価値をつけることができる場合もあります。

数値例で考えてみると、こんな感じでしょうか。

1)通常のおにぎり
  消費者にとっての価値120円-価格100円=付加価値20円
  (付加価値率20%)

2)高級おにぎり
  消費者にとっての価値200円-価格160円=付加価値40円
  (付加価値率25%)

また、ユーザーにとっての「価値」も時間経過とともに変化します。
まったく同じ価格の同じ商品でも、その商品へのニーズ(例:雨だから今傘がないと困る)または、ウォンツ(例:晴れた休日だからディズニーランドへ行きたい)のタイミングによって、そのタイミングでは「価値>価格」となっていて購買意欲があったものが、次の瞬間には「価値<価格」となってしまうことも考えられます。
特にモノが溢れ返っている現在では、商品のライフサイクルが短く(=ユーザーが飽きっぽく)なっているため、タイミングはなおさら重要です。

以上をまとめると、消費者にとっての付加価値とは、

「価値(内容)」「価格」「タイミング」

の変数のもとで総合的に判断されることになります。

そこで、仕掛ける企業側も、この3つの変数を常に意識しながら、事業展開をしていく必要があります。

これら3つの変数を意識しながら展開している日本企業として、本日は「セブン‐イレブン・ジャパン」を取り上げたいと思います。

セブン-イレブン・ジャパンを創立した鈴木敏文氏曰く、
「不況な時代には『価格訴求』ではなく『価値訴求』こそが大切であり、質にこだわり妥協してはいけない」
との信念から、売り手市場の方法ではなく、買い手市場(消費者の立場)で考える重要性を説いていらっしゃいます。

アメリカで小売業全体に価格競争が厳しくなった時、コンビニエンスストアもそれに対抗して値下げ合戦に走った結果、上位3社のコンビニが立て続けに倒産してしまうということがありました。

そんな状況を横目にして、鈴木氏は、
「安ければよいのではなく、あくまで消費者からみた「フェアプライス」が重要であり、そのためには常に新商品や新サービスなどをタイムリーに(タイミング良く)投入し、変化させていかなければならない」
との考えを新たにし、「タイミング良く」商品を消費者に「フェアプライスで」届けるために、トップダウンではなく現場が主体になった、各店舗ごとでのローカル性や単品管理を強化していきました。

アメリカのセブン-イレブンが、本部が店舗開発を主導し、その枠内でフランチャイジーを募集するという構図であるのに対し、日本のセブン-イレブンは、既存の小売業(地元の酒屋さんなど)にフランチャイジーに加盟してもらい、現場での消費者を見ながらの(消費者の立場に立った)主体的な店舗経営を本部が支援するという構図です。

ハードは一見近いかもしれませんが、ソフト面で考えると、両者は似て非なるものと言えるでしょう。そして、後者のように、常に顧客側に立った視点でものごとを捉え展開していける体制作りは、不況である今の世の中に必要なことだと感じます。

「常に顧客視点で考えること」

言葉にしてしまうと簡単ですが、これは永遠のテーマです。
なぜなら、その企業の経営者や店舗の店長は、例えば休日に「消費者」として消費行動をすることはあるでしょうが、「タイミング」という観点でみると、その瞬間においては「消費者」(買い手)側か「経営者」(売り手)側のどちらかの立場しかとれないからです。

このように、その瞬間にはどちらかの立場しか立てない以上、相手の立場を想像し思いやる努力は、絶え間なく続けていく必要があります。

それは、買い手と売り手でも、聞き手と話し手でも同じことです。
その重要性と難しさを、先日のオープンセミナーを通じて痛感した次第です。

今日の一言;
「瞬間ごとに相手側に立とうとする想像力。そして思いやり。」

2008年7月1日 T.Kimura
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