板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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サムライ会計 第26回「女と口を狙え」

(毎週木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
みなさん、こんにちは。板倉雄一郎事務所パートナーの木村です。

先日は一日セミナーお楽しみ様でした!
久しぶりのセミナーでしたが、我々パートナー一同も、向上心旺盛な受講生の方々とのやりとりを通じて、有意義な時間を過ごすことが出来ました。
先行きが不透明な経済の中、「何が価値創造の根源になるのか」という貪欲な興味を持って参加された方も多かったように感じます。

不景気になると、「何が売れるのか」をつきつめる機会も増え、根源的な欲求を満たすためのサービスや商品の底力に注目が集まります。
人間の三大欲求とも言われる、食欲、睡眠欲、性欲のうち、日本のように気候のよい国であれば、睡眠欲は比較的低い対価で手に入れることができます。
睡眠について極論は、「土地(ストック)があって生存を続けられればよい」ことになりますから、継続的な対価(キャッシュアウトフロー)は伴わないケースが多いです。

一方で食欲と性欲については、継続的に色々な意味でのインプットとアウトプット(?)を伴うことになり、そこにはフローが生まれることになります。
フローが生まれることにより、それをお金の流れとしてキャッシュフローを血液とする企業活動も生まれてくる訳です。

日本マクドナルドの創始者である藤田田さん曰く、商売は「女と口を狙え」。ユダヤ商法五千年の定理ともいわれますが、たしかにこれらは直接的な欲求に関連します。
食欲については「飢え死にしなければよい」というレベルから「五感を満たす食事を取りたい」と要求水準が高まることになります。性欲に関しては、直接的な行為のみでなく、広義の意味でとらえると、例えば異性にもてる服を身に付けたり豪華な所有品をもったりと、範囲が広くまたその深さも底なし、といえそうです。

前置きが長くなりましたが、本日は人間の根源的欲求に関連する「外食産業」を取り上げ、特に勢いのあるダイヤモンドダイニングの直近の動向を見ていきたいと思います。

「100店舗100業態 業態開発No.1」を掲げる同社の2010年2月期の第2四半期の決算が先月発表されました。決算説明資料はこちら

BtoCビジネスであり一般投資家が顧客になることもありえることや、M&Aによる事業展開も行っていることなどもあり、IRや説明資料が充実している印象を受けます。
2010年2月期の第2四半期の業績も好調であり、連結ベースの売上高で81億円、経常利益5億円(利益率6.3%)と、不況の中の健闘が顕著です。

同社のビジネスモデルの特徴についても決算説明資料の中で謳われていますが、ここではその中から特に印象的な3つをご紹介いたします。

『業態転換のスピードと方向性』
業態開発力No.1を掲げる同社は、この2四半期で不振店5店舗の業態転換(リニューアル)を実施しました。不振店への素早い対応とニーズへの対応もポイントですが、ここで注目したいのはその方向性です。
これら5店舗のうち、1店舗を除き全て客単価を引き下げる方向で転換を行っており、5店舗の夜の客単価はリニューアル後で2000円~4000円となっています。景気の低迷にあわせ、「安い価格でおしゃれに外食をしたい」という若い女性を中心にした層をうまく取り込もうという姿勢がみられ、これが業績に寄与しているといえます。

『居抜き物件取得によるイニシャルコストの抑制』
居抜き物件とは、店舗を出店するにあたり、内装の造作、什器備品等を古い店舗の売主から新しい借主が引き継げる物件のことをいいます。要は以前の店舗で使っていた什器設備を、新規出店の際に再利用することにより、初期投資を抑える(同社の資料によると初期投資総額を1/3-1/5に圧縮できる)方法です。実際に、都内の不動産価格は数年前に比べ軒並み下落しています。
射抜き出店は外食産業では常套手段ですが、現在の経済環境がそれを後押ししているという背景があります。
厚生労働省の外食企業の統計でみると、ここ数年は
新規営業店舗数 < 廃業営業店舗数
となっています。これは即ち、居抜き物件取得にあたり買い手市場であることを意味します。
ダイヤモンドダイニングでは、以前より居抜きを大きく活用し、2009年8月末現在の直営店86店舗のうち34店舗が居抜き取得物件となっています。
また、積極的な攻勢をかけるべく居抜き出店専門のゴールデンマジックという子会社を設立し、既に4店舗を出店。敷金保証金などを含む初期投資額の目標回収期間が1.5年と、飽きやすい消費者のニーズをふまえ投資の早期回収を徹底し、これも連結の業績に寄与しているとのことです。

『低いFL比率による変動費の抑制』
外食産業の業績を示す指標として用いられるFL比率(Food(食材費)とLabor(人件費)を指し、いわゆる直接費に該当する部分です)が単体既存店ベースで49.4%と、業界平均の50-60%を大きく下回る数値となっています。
これを可能にしているのが、当たり前ですが分母となる高い売上と、分子となる低い直接費です。外からみると全て違う(100店舗100業態)お店に見える直営店により消費者のニーズにきめ細やかに対応しながら、一方で内では食材や人材を共有し効率的に配分するというオペレーションが構築されているところがポイントです。

このように3つのポイントをみてみると、何も目新しい施策を実施している訳ではなく、常套的な手段をスピーディーかつ適切に組み合わせて実施しており、これらの総合力が好調の秘訣となっていることが伺えます。長期的な課題としては、企業の底力(コアコンピタンス)を、外部環境やトップを含む人材が変わっても継続できるかという点があるかもしれません。例えば任天堂が、花札から電子ゲーム機器に移行しながらエンタテイメント性を維持し続けているように、組織力のゴーイング・コンサーンという点にもひとつ着目していければと思います。

2009年11月12日 T.Kimura
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