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サムライ会計 第12回「ディフェンシブ銘柄の行く末」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

皆さん、こんにちは。板倉雄一郎事務所パートナーの木村です。

12月を前に、街はすっかりクリスマスモードです。浮かれた街並みとは裏腹に、日本経済は依然として浮かれてはいられない状況が続いています。

景気後退が長引く中、景気に関係なく一定数量の売上がある生活必需品など、不況時に強いとされるディフェンシブ銘柄(食品、医療品、電力、小売事業等)が注目を集めています。ただし、現在の国内の情勢を考えると、あくまで「相対的にディフェンシブ」という意味であり、特定の業界であれば問題なしということは少なく、その業界の企業ごとに細かく内容を見ていく必要があります。

その中で、小売業界においては内需と円高の影響で堅調が予想されています。今回は、以前にも一度値下げのエッセイで取り上げたこともある小売業の雄、セブン&アイ・ホールディングスの最近の動向を取り上げながら、ディフェンシブ銘柄の今後について考えていきたいと思います。

セブン&アイ・ホールディングスの2008年2月期の決算をみると、連結ベースで営業収益が5兆7523億円、営業利益2,810億円(営業利益率4.8%)となっています。そのうち、事業別セグメントで見ると、売上の構成比ではざっくりコンビニエンスストア事業:スーパーストア事業:百貨店事業が2:2:1で、残りがその他事業等なのに対し、営業利益ベースの7割以上がコンビニエンスストア事業で獲得されています。

また、フリーキャッシュフロー(FCF)でみても、コンビニエンスストア事業は店舗数が多く、減価償却費の金額も大きいことから、FCFベースでは営業利益ベース以上の割合で寄与していることが分かります。

2008年8月中間期は、好調なコンビニエンスストア事業(営業利益率9.2%)と金融事業(営業利益率21.5%)に牽引され、営業収益2兆8,610億円、営業利益1,480億円(営業利益率5.1%)という、前年同期比において増収増益かつ過去最高の営業利益水準となりました。

所在地別売上高でみると、北米の営業収益が連結ベースの約3割(営業利益ベースでは約1割)となっています。その内容はというと、元々アメリカが本家であった海外子会社の7-Eleven, Inc.における売上がほとんどです。この北米における7-Eleven, Inc.の売上高のうち、ガソリンが約4割と大きな割合を占めています。
この北米セグメントの今後については、いくつかの要因に分解して考える必要があります。

①まず、北米の景気後退により、アメリカの消費は落ち込んでいるが、生活必需品がメインであるため、売上数量の落ち込みは限定的。

②ただし、原油や原材料の高騰により単価は上昇(利益率は悪化)。

③円高により、北米子会社を連結する際のレートはマイナスのインパクト。

これらを加味して考えると、連結ベースに直して考えた場合、売上はほぼ横ばいかマイナス、営業利益はマイナスと考えられ、事実、2008年8月中間期の北米セグメントの業績はそのような結果になっています。

それでは、同社の連結ベースでみた2009年2月期の業績予測はどのようになっているでしょうか。全体では、営業収益5兆7,600億円、営業利益2,940億円(営業利益率5.1%)という増収増益の予測数値になっています。そのうち、前述のコンビニエンスストア事業及び金融事業が奮闘していますが、スーパーストア事業セグメントも増収増益の予測になっているところに注目です。

スーパーストア業界は、現在、値下げ合戦の真っ最中です。イオンの来年2月までの値下げをはじめ、ダイエーや西友なども多くの品目で値下げを発表。また、各社における円高還元セールなど、話題には事欠きません。セブン&アイ・ホールディングスにおいても、「ザ・プライス」というディスカウントストアの展開を今年8月から開始しており、今月には「ザ・プライス」の2店舗目をオープンさせました。
(ニュースリリースはコチラ

全面的な値下げではなく、店舗ラインをうまく切りわけての対応はさすがだなと思いますが、前回も少し書いたように同社のプライベートブランド「セブンプレミアム」の位置づけが中途半端な印象を受けます。「ザ・プライス」の2店舗目でも「セブンプレミアム」の販売も行うようです。
(販売価格は他の店舗と同じらしいですが、「セブンプレミアム」のサイトの取扱店舗には、「ザ・プライス」の名前はありません)

「セブンプレミアム」は、パッケージや商品ラインナップなどにも気を使っており、「安いのが取り柄」という他社のプライべートブランド商品とは一味違う展開ができるポテンシャルを持っています。プライベートブランドなのでとにかく量を売ってスケールメリットを出したい、というのも分かります。しかし、「ザ・プライス」は既存のイトーヨーカドーの不振店舗の改装出店という側面がありますので、「改装しても結局は名前が変わっただけ(「イトーヨーカドー」→「ザ・プライス」)」とならないためにも、ブランドを意識した戦略を打ち出す必要性を感じます。

このような同社の今後の展開を考える上で、新たにホームセンター事業に参入するという事業戦略は、ひとつの鍵になると考えられます。
(ニュースリリースはコチラ

ニュースによると、既存のイトーヨーカドーの店舗の一部を利用して、国内市場規模4兆円とも言われるホームセンター事業に参入する考えのようです。今月28日に第1号店をイトーヨーカドー金町店(東京都葛飾区)の2階部分にオープンし、食品売り場などは残したまま、店舗の一部で新業態の事業を配置するとのこと。同様のスタイルで、来年にかけて数店舗を出店する計画のようです。

つまり、イトーヨーカドーの不振店舗を単に「ザ・プライス」に衣替えしてディスカウントストアにするだけではなく、「セブンホームセンター」という新業態を併設するというオプションを持ったことになります。

これにより、スーパーストア業界の値下げ合戦によるジリ貧の戦いから一線を画すことができます。特に、ホームセンターは郊外型が主流で都心部には少ないことから、既存店舗の一部を利用することで、低コストで都心部での事業展開を行うことができ、今後の事業拡大に期待が持てます。

このように、内需と円高に支えられている小売業界においても、結局は限られたパイの奪い合いであうことから、現状に甘んじることなく、如何に新たな付加価値を創造し、「消費者に積極的に選ばれる」存在になることがポイントではないでしょうか。

今日の一言;
「今こそ攻守バランスのとれた戦略を」

2008年11月25日 T.Kimura
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