皆さん、こんにちは。板倉雄一郎事務所パートナーの木村です。
起業して会社をはじめてみて、まず難しいなと感じることのひとつが、価格設定です。
第一回となる今回は、その価格設定すなわち「値決め」について考えてみたいと思います。宜しくお付き合いください。
稲盛和夫氏をして「値決めは経営」と言わせるほど、価格設定は会社を経営していく上で重要なポイントのひとつといえます。氏曰く、売値も仕入れ値も市場である程度決まっているものではあるが、その値段でいこうと決定するのは経営者であると。
また、松下幸之助氏は、価格決定に関して、国家・社会・業界・自社の4つの観点から適正価格を考えるべきであり、そこには「信念」が必要になるということを述べています。
価格設定に際し、一般的には、コストに一定の利益をのせて価格を設定するアプローチや、市場価格(market price)から設定するアプローチなどありますが、経済合理性を前提にした場合、
消費者は、
消費者が得られる価値や便益>価格(=支払う対価)
となる場合にのみ、購入の意思決定をすることになり、
企業は、
その商品やサービスを世に出すためのコスト<価格(受け取る対価)
となる場合にのみ、販売の意思決定をすることになります。
よって、価格は、当たり前ですが、
消費者が得られる価値や便益>価格>自社のコスト
の間に設定されることになります。
次に問題となるのが、自社のコストにどこまで織り込むべきかについてです。製造原価はもちろんのこと、販管費も加味して決定することになりますが、では、資本コスト(WACC)は、商品やサービスの価格設定の際に、どのように織り込むべきなのでしょうか。
感覚的には、資本コストを低く抑えて資金を調達できた場合には、高い資本コストで資金を調達せざるを得なかった場合にくらべて、より安い価格で、市場に商品やサービスを提供できる可能性があります。
しかし、それは資本コスト削減のメリットを全て消費者に還元した場合であり、価格及び費用を一定にした場合には、資本コスト削減のメリットは株主に還元されることになります。もしくは、そのメリットを、従業員へのボーナスとして還元することも考えられるでしょう。
このように、価格設定はステークホルダー間で利害の対立する意思決定であり、会社の理念や軸が重要になってきます。そのような意味において、オイルショック時におけるホンダの価格設定についての話が印象的でしたので、ここで紹介させてください。
オイルショックによる物価の高騰をうけ、自動車メーカー各社が販売価格の値上げを発表した時、ホンダはあえて値上げをしないという意思決定をしました。ホンダが値上げに追随しないことによって、日本全体の物価上昇に多少なりともブレーキをかけることができれば、それは経済全体とっても健全であろうという判断からです。事実、そのような発表を行うことにより、当時のインフレ・ムードに水をかけることができ、ホンダの評価と存在感が上がったという話です。
先日の合宿セミナーのケースとなったJTについても、増税に合わせた実質値上げができるという点が評価されていましたよね。
株主(投資家)サイドから見れば、インフレとなった場合に、そのコストを他の利害関係者に転嫁できるか(例えば、スムーズに値上げして消費者に転嫁するなど)がひとつのポイントになりますが、その裏には企業の価格設定についての意思と理念があるべきです。
価格設定をはじめ、ひとつひとつの意思決定は、元をたどれば企業の意思や理念に行き着くはずです。場当たり的な対応や、理念のない「コストの転嫁」は、いずれ自分の首を絞めることになります。逆に、しっかりとした軸をもった意思決定を続けていれば、企業の評価も上がり、目に見えない「企業価値」の向上につながっていきます。
今日の一言;
「意思のある継続は、力なり」
2008年5月15日 T.Kimura
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