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サムライ会計 第7回「値上げと訴求力」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

皆さん、こんにちは。板倉雄一郎事務所パートナーの木村です。

自動車業界に値上げの動きが広がっています。

今回の値上げの原因は、ご存知の通り原材料の高騰による販売価格(消費者)への転嫁によるところが大きいのですが、以前より各社ともに値上げには慎重になっていました。

なぜなら、長引く不況に加え原油(ガソリン代)の高騰により、消費者のそもそもの自動車需要が減退しているという現状があるからです。そこに輪をかけて販売価格の値上げを実施すれば、販売台数の減少は避けられません。

今年に入って、日系自動車メーカーは他社の動向を見ながらの「我慢比べ」といった状況が続いていましたが、その口火を切ったのがトヨタです。業界のリーディングカンパニーが値上げに動いたことで、他社も、待っていましたとばかり値上げを発表しました。しかし、今回の値上げで販売価格が引き上げられる車種は限定的です。

他社に先駆けて9月から値上げを実施しているトヨタでは、当初、多くの車種での値上げも検討したようです。しかし、販売部門からの強い反対などもあり、最終的に今回の値上げは10車種に絞りました。具体的には、乗用車については「プリウス」及び「ハリアーハイブリッド」のみとし、その他は一部の商用車の値上げとしました。

これに追随する格好で、日産、マツダ、三菱など日系自動車メーカーも10月以降の値上げを発表しましたが、対象となる車種は商用車であり、乗用車については、引き続き「我慢比べ」が続くようです。

一方、海外自動車メーカーにも値上げの動きはありますが、BMWやメルセデス・ベンツなど欧州メーカーは、日系自動車メーカーとは異なり、乗用車を含めた車種の多くが値上げの実施を発表しています。

本日のエッセイでは、このような自動車業界の値上げを通して、不況下における商品の訴求力について考えてみたいと思います。今回、値上げの対象になった車種は、訴求力という観点からは大きく3つに分類できます。

1、「機能」で明らかにオリジナリティがあり、その商品を購入する理由(必然性)がある(プリウスなどハイブリッド車)
2、「ブランド」で明らかにオリジナリティがあり、その商品を購入する理由(必然性)がある(メルセデスやBMVなど高級車)
3、事業を展開していく上で必要であり、その商品を購入する理由(必然性)がある(BtoBの商用車)

これらの商品は、価格に関わらず、商品を購入する明確な動機があるため、値上げした場合の販売数量の減少が限定的と考えられます。
例えば、1の「機能訴求」の場合で考えると、燃費の良いハイブリッド車という「機能」の価値というのは、原油の価格次第では更に意味を持つ可能性があります。トヨタのハイブリッド車は、他社に比べ大きな優位性があるため、乗用車のうち「プリウス」及び「ハリアーハイブリッド」に絞って値上げを実施したトヨタの戦略は極めて合理的です。

2の「ブランド訴求」の場合は、「ブランド」を構築できているため、「いくら出しても欲しい」というコアなユーザーを取り込めていれば、値段は関係ないということになります。リッチな層をターゲットにしているため、価格感応度が低く、値上げに対する抵抗感が一般車を購入する層より少ないこともポイントです。

3の「BtoB訴求」場合には、事業遂行のために必要ということもありますが、個人のオサイフ事情に関係なく会社経費での購入になることも関係しているかもしれません。

このように考えてみると、今回の自動車業界での値上げの話には、自動車のみならず、広くビジネスについての示唆が多く含まれています。値上げの対象となった「機能訴求」「ブランド訴求」「BtoB訴求」の各商品が、これからの経済状況の中でどうなっていくのか、そして自動車メーカー各社の乗用車を含めた今後の価格戦略について、不況下におけるビジネス展開のひとつの試金石だといえます。

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今日の一言;
「値上げしても売れる理由(必然性)を突き詰める」

2008年9月16日 T.Kimura
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