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サムライ会計 第14回「広告ビジネスとコンテンツビジネスその2」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

皆さん、こんにちは。板倉雄一郎事務所パートナーの木村です。

本日は、前回のエッセイに続き、グリーについて書きたいと思います。

先週、予定通り上場を果たしたグリー。新興市場低迷の中、公募価格が仮条件の上限価格3,300円で決定し、上場後の初値も5,000円と、時価総額が1,000億円を超えてミクシィの時価総額を上回る水準となりました。

まず、2008年6月期の同社の費用構成についてみてみましょう。

2008年6月期における売上高は29億3,748万円、営業利益が10億4,988万円となっています。売上の内訳は前回のエッセイでも紹介したとおり、広告メディア収入が12億7,166万円(売上構成比43.3%)、有料課金収入が16億6,582億円(売上構成比56.7%)と、半分以上を有料課金収入が占めています。

一方、その費用の内訳のうち主要なものは、ざっくり労務費(原価)と給与手当(販管費)が合計で約3.5億円、賃借料(原価)が約2.5億円、外注費(原価)と支払手数料(販管費)で合わせて約2.5億円、広告宣伝費(販管費)が約6億円となっています。

特筆すべきは、もちろん利益率の高さもあるのですが、事業規模に対する広告宣伝費の高さです。一時的な側面はあるにしろ、広告宣伝費が人件費を超えて一番大きな費用項目となっており、2008年6月期の売上高広告宣伝費比率が20.5%と非常に高い割合を占めています。

そして、有価証券報告書におけるリスク情報に記載もある通り、広告宣伝費は季節変動が大きく、2008年6月期でいうと第4四半期にTVCMを打ったことなどから、広告宣伝費のほとんどがこの第4四半期に計上されています。(同社のCMギャラリーはこちら

このTVCMの効果について考えてみましょう。

目論見書に記載のある総会員数とページビュー(=PV)の月次推移を見ると、総会員数自体はTVCMにより大きく増えたということはなく、リニアな増加になっています。一方、PVでみると、TVCMを打った2008年5月以降、モバイルからのPVの増加割合が上昇していることがわかります。これは、会員一人当たりのPV数が増加傾向にあることを意味しています。

2008年9月にもTVCMを打ち、これらテレビCM前の2008年4月における一人当たりPV(PCとモバイル合わせて)が、月間1,085PV/人であったのに対し、テレビCM後の2008年10月における一人当たりPV(PCとモバイル合わせて)は月間1,170PV/人と、増加傾向にあることが分かります。

月次の売上推移の記載はないのですが、一人当たりPVが向上しているということは、会員ユーザーが同社のサービスで遊ぶ時間と金額が増加しているということであり、会員一人当たり売上高(広告メディア収入+有料課金収入)も増加傾向にあろうことが予測できます。

そもそも効果測定ができないのが広告宣伝費であり、特にマスに対してのテレビCMはそういった性質が強いため、一概にテレビCMの効果を判断することはできませんが、一定の役割を果たしたことは確かです。

「金はない。時間はある。」

というのが当初のグリーのTVCMでのキャッチコピーです。広い層から薄く取る、といった形で有料課金収入に軸足を置く同社のビジネス展開を考えると、この表現はまさに言い得て妙、といったところでしょうか。

次に、グリーのサービス内容を見ていきましょう。

会員となったユーザーは、「ゴールド」と呼ばれるGREE内で使えるポイントで、デジタルコンテンツの購入やゲームを行います。

この「ゴールド」を獲得する方法は、主に4つあります。

1 友達を招待する
2  スポンサーサイトの有料サービスに登録する
3 アバターの服装などデジタルコンテンツの購入(525円~5,250円)
4 モバイル有料会員(月額315円)になる

このうち、ユーザーが1の方法により「ゴールド」を獲得すると、グリーにとっては会員数増加へとつながることになります。

2の方法によると、グリーの広告収入の向上に寄与します。広告収入といっても、コンバージョン(購入)を前提にした成果報酬型広告(アフィリエイト)であるため、単にコミュニティを形成しアクセス数を上げてリンクバナーを張り付けるといった広告よりも広告主にとっては効果が分かりやすいかもしれません。

そういった意味では、広告というよりは販売手数料に近いものがあります。
3、4の方法では、直接的に有料課金収入の向上につながります。

つまり、ユーザーに「『ゴールド』をもっと使ってグリーで遊びたい」と思わせ「ゴールド」を獲得してもらうことが、最終的には全て利益へとつながる仕組みといえます。こう考えると、グリーのビジネスモデルの肝は、如何にエンターテイメント性を上げるかと、ということになります。

現在のグリーのゲームは、数は決して多くないものの、団体戦で戦うものや、実際の飲食店店舗の訪問が必要なゲームなど、工夫を凝らしたコンテンツを「量より質」で揃えていくことを志向しているようです。

このことを、同社は目論見書の冒頭の要約部分でこのように表現しています。

「・・・アバター及びSNS連動型ゲームのラインナップを拡充し、「ゴールド」の利用を促すことで、成果報酬型広告(アフィリエイト)及び有料サービスの売上拡大、並びにユーザー数の拡大を牽引する事業構造となっております。」

この「ゴールド」は換金性を有しておらず、他社サービスとのポイント交換もできないことから、同社の実質的な追加コストを低く抑えることができ、会計上の負債(ポイント引当金)にも該当しないものです。例えるなら、「(実質的に換金可能な)パチンコの玉」ではなく、「(そこでしか使えない)ゲームセンターのコイン」といったところでしょうか。

「ゴールド」を活用した有料課金を強化するタイミングで、急にアバターを前面に押し出し、「ゴールド」の使用を活発化させるためのアプローチの導入など、既存のユーザーの反感を買ったこともあったそうです。

ただし、この軋轢も、同社がビジネスモデルを、「ウェブ媒体による広告モデル」から「コンテンツ課金モデル」に変容するプロセスと考えることができます。その後、「ゴールド」をうまく活用してデジタルコンテンツ販売などの有料課金収入の割合を増やしながら、利益率の高いビジネスモデルを構築していきました。

また、このようなビジネスモデルのシフトと合わせ、攻め時のタイミングを見計らってTVCMを積極的に活用したマーケティング戦略も、順調な成長を支えました。

今後、日本経済自体がしばらく低迷したとしても、「お金はないけど時間はある」といった広い層から薄く取るビジネスは影響を受けにくいはずですし、「人件費+外注費+広告宣伝費+賃借料」というシンプルなコスト構造のうち、変動費である広告宣伝費をタイミングよく効率的にかければ、不況にも柔軟に対応することができます。

今回の上場により調達した約35億円の使途は、目論見書によると広告宣伝費、人員増加などの運転資金に約25億円、残りをネットワーク設備関連の設備資金に充当するとのこと。グリーの今後のマーケットニーズに合わせた事業展開に、引き続き注目したいと思います。

今日の一言;
「不況に強い『薄収厚利多売』のビジネスモデル」

2008年12月23日 T.Kimura
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