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サムライ会計 第27回「Report from NYC」

(毎週木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
みなさん、こんにちは。板倉雄一郎事務所パートナーの木村です。

ニューヨークに来ています。本日のエッセイは少し趣を変えて、現地からのリポートをお届けします。
ちょうど街並みの綺麗な季節なのですが、毎日のように感じてしまうのは「日本の存在感の薄さ」です。

まず、現地にいる日本人について。
観光客はというと、現在のような円高局面においては、いろいろな場面で相対的に「買い」であるはずなのですが、ニューヨークに関しては、オフシーズンということもあり日本人観光客が非常に少なく、他のアジア諸国の観光客の方が目立っている印象を受けます。東京から来た、というと多少の関心を持ってもらえるものの、それ以上でも以下でもないといった感じです。

また、日系企業の駐在員の方々に聞いてみても、今年に入って業績不振により多くの駐在員が日本に戻されているとのこと。かつては観光客や駐在員の憩いの場となっていたという、いわゆる「ピアノバー」(日本人の若い女性が接客してくれるお店)を覗いてみても、お客さんはまばらで、お店側も街頭で日本人らしき人を見ると積極的に声をかけ客引きに躍起になっているようにもみえます。

留学生についても同様です。ニューヨークには、オバマ大統領も在籍していたことでも有名なコロンビア大学をはじめ、世界を代表するビジネス関係の学校が多くありますが、以前に比べ日本人の留学生枠が非常に少なくなってきており、いわゆるBRICs諸国の留学生を積極的に受け入れているとのこと。学校側としても、これから成長してくる国々の中核を担う人間とコネクションを持っておきたいという意図が窺えます。

大学の教授とも簡単な会話をする機会がありましたが、そこでの一説が印象的です。”Korean people is more American than Japanese.”。これには個人的に妙に納得してしまったのですが、良し悪しはさておき、他のアジア諸国の人間も、今後の国際舞台においての活躍のために、立ち振る舞いを前向きに身につけているのかもしれません。

それでは、日本企業はどうでしょうか。
日本企業について、こちらで聞いて特に印象に残った2つのニュース(good news & bad news)をご紹介させていただきます。
まずはgood newsから。前回のセミナーや以前の吉原パートナーのエッセイでも取り上げられた「ファーストリテイリング」についてです。
SOHOにあるニューヨークでのユニクロ旗艦店はスタイリッシュなイメージであり、価格も日本と同じか少し高い程度なので、今後の郊外展開によっては利益率の改善も期待できます。現在、新聞での全面広告や、電車一台を使ったアメリカでは珍しいタイプの広告などプロモーションに力を入れており、今後の進展が期待できます。

同社は2020年に連結売上高5兆円、経常利益1兆円を目指しグローバル展開を積極的に展開中です。2009年8月期のユニクロ海外のセグメント売上が377億円なのに対し、2020年の同セグメントの売上目標が3兆円と、予定では売上高の半分以上を海外で構成することになります。主にはアジア地域と考えられますが、北米についても、まだまだ伸びしろがあるのではないでしょうか。
次に気になるbad newsですが、以前は北米で勢いのあった「トヨタ」に関連するニュースです。
日本でも話題になっている、先日のレクサスにおけるアクセルペダルの不具合の一件がこちらではより大きく取りざたされ、トヨタに対して暗い影を落としています。
カリフォルニア州で今年の夏に起きた、アクセルペダルの不具合により4人が死亡した暴走事故から約3ヶ月。当時この事故の模様は詳細に全米に伝えられ、その後の対応をめぐって調査が続けられてきました。

2009年11月25日付のトヨタ自動車のプレスリリースによると、自主改善措置を行い無償交換を実施するとのことですが、その時期や対応が後手後手に回った印象を受けます。米運輸省高速道路安全局(NHTSA)は「リコール(無料の回収・修理)」としているのに対し、トヨタはあくまで「自主的な措置」と説明している部分も気になるところです。

以前はアメリカにおいて高級車の代名詞であった「レクサス」ですが、悲惨な死亡事故とその後のトヨタの対応により、トヨタへの信頼感やロイヤルティーから一転し、不信感へ変わりつつあるような雰囲気を感じます。特に、GMをはじめとするアメリカ系の自動車会社については、税金を投じてアメリカ人が自らの手で救済したという思いがあるだけに、GMとの合弁工場であったNUMMIからの撤退のタイミングとも相まってしまったこともマイナスに作用しています。
今回の無償交換には約400億円かかるとも言われていますが、アメリカ人の心証を考えると、損失はかなり大きいものになるかもしれません。

トヨタ自動車は2009年11月27日付の2009年10月度実績発表において、この月の世界販売台数と生産台数が、ともに2008年7月以来、15カ月ぶりに前年同月の実績を上回ったと発表し、国内でのプリウス販売の好調ともあわせて、復調が報じられたりもしていますが、ドル箱とも言われる北米市場の雰囲気をみると、予断を許さぬ状況といえます。

まとめると、世界で第二位の経済大国といわれる日本も、アメリカ(及びおそらく国際舞台)での存在感は非常に薄くなってきています。それもそのはずで、現状が何位であるかというよりも、5年後・10年後・その先にどうなっているのかというのが、当然、諸外国の関心と対応となって現れてくるからです。当事務所のエッセイやセミナーなどでもテーマとなることのある「日本はキャッシュフローの蚊帳の外」「キャッシュフローを所有する」などについて、改めて考えさせられました。正直に言って、このままでは、数年後に国際舞台でほとんど相手にされなくなってしまうのではないかという心配さえあります。

日本の限られた資源を最大限活用するには、ファーストリテイリングのような元気のある個別企業を応援しお手本にするのに加え、国全体として、今後の国際舞台での価値提供のための全体的な戦略を考える必要があります。現在の民主党政権には、せめてその「たたき台」をと期待していたのですが、どうやら難しい部分があるのかもしれません。

今回はニューヨークからの現地リポートということで、ざっくばらんに最新情報をお届けさせて頂きました。何らかのご参考になれば幸いです。

2009年12月3日 T.Kimura
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