板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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サムライ会計 第15回「タイヤメーカーの生きる道」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

皆さん、こんにちは。板倉雄一郎事務所パートナーの木村です。
遅ればせながら、本年もどうぞ宜しくお願い致します。

以前より僕のエッセイでは、日本企業にまつわる会計や経営のトピックについて連載してきました。今年も引き続き同様のテーマで続けていきますが、この長引く不況の中、前回紹介したグリーのように、マーケットの変化に合わせてビジネスモデルを変革させる企業が目立っています。逆にいうと、どんな大きな企業であっても、変化への対応なしには生き残れない、というのが偽らざる日本経済の現状ではないでしょうか。よって、このエッセイでも、そんな変革を志向する企業を、応援の意味を込めて取り上げていきたく思います。

年末より、トヨタが赤字に転落するというようなニュースで自動車業界に激震が走りました。自動車業界が軒並み全滅となると、その業界と取引のある企業にも影響が及ぶことは必至です。今回は、そのうちタイヤメーカーであるブリヂストンを取り上げながら、同社の生き残りをかけた今後の戦略についてみていきます。

先日の報道によると、ブリヂストンの2009年12月期連結決算が、大きく減収減益が予測される2008年12月期連結決算から更に悪化するとのことです。

減益の原因として、同社の売上の半分近くを構成する北米での景気後退があります。大型建設車両向けタイヤや航空機向けタイヤなどの、高い技術を要する高付加価値商品については引き続き競争力を発揮するものと思われますが、自動車向けタイヤの落ち込みが顕著であると予測されます。自動車向け交換タイヤについては、消費財であるため限定的と思われますが、新車自動車向けタイヤの落ち込みは相当激しいものでしょう。

また、ヨーロッパを合わせた同社の海外売上高比率は約四分の三と、海外の売上に多くを依存するため、為替の影響も深刻です。1円の円高につき営業利益に与える影響が、対ドルで約15億円、対ユーロでも約10億円とのことであり、この影響も深刻です。

同社は「ローリング方式」と呼ばれる方法により、5年間の中期経営計画を毎年見直し更新していますが、2008年10月21日に公表された中期経営計画で、今後の数値目標とそのための施策について言及しています。

まず数値目標ですが、2012年12月期において売上高4.3兆円、営業利益4100億円、ROA(総資産利益率)6%達成見通しと発表しています。この数値をブレークダウンし、2007年12月期実績と2008年12月期第3四半期実績、及び2008年12月期予測と比較したのが下図です。

(クリックすると大きな画像が表示されます)

T.K_015_E0.gif

この図からも分かるように、現在の財務数値とは大きな乖離があります。2009年12月期が2008年12月期の予測数値から更なる減収減益との報道もあり、この中期経営計画の達成には困難が伴うことが予想されます。

まず、ROA(総資産利益率=税引後純利益 / 総資産)≒ 簡易ROICと仮定します。

簡易ROIC=NOPLAT(営業利益マイナスみなし税金) / 投下資本

さらにこの簡易ROICをNOPLAT対売上高比率という利益率の指標と、総資産回転率という資産効率の指標に分解します。

簡易ROIC=NOPLAT対売上高比率×総資産回転率

すると、会社目標であるROA6%の達成には、現在の資産効率を維持した上での利益率の改善が必要であることが見えてきます。

まず、資産効率の維持ですが、2007年12月期実績と2008年12月期第3四半期実績を比較すると、減価償却の進展により固定資産回転率は上昇していますが、その一方で、原材料の高騰により棚卸資産回転率は悪化しています。

今後、資本効率を維持するためには、必要な設備投資(会社は前年度と同水準の設備投資(約3,000億円)を毎期継続して実施すると発表しています)を維持しながら、棚卸資産の回転率を改善させる方向性が考えられます。

原材料については、昨年の高騰は一段落し特に主原料である天然ゴム価格は昨年秋と比べて現在約三分の一に下落しており、技術開発などによる原材料使用料半減の検討を進めていることから、これらにより棚卸資産回転率の水準が2007年12月期レベル(またはそれ以上)に改善されれば、会社目標達成のための総資産回転率1.05は実現可能ではないでしょうか。

続いて、利益率に着目してみましょう。

2007年12月期より利益率という面では悪化の一途であり、会社目標の利益率達成のためには、2008年12月期予測数値の約2倍の利益率とする必要があります。このための施策として大きなものは、付加価値の高い戦略タイヤへの注力があります。具体的には、低い空気圧でも安全に走行できるランフラットタイヤや、操縦性と耐摩耗性に優れたラジアルタイヤ、転がり抵抗を低減した環境タイヤなどへのシフトです。

これらは、大型建設車両や航空機に利用され、市場の成長も好調であり同社のシェアも高いことから、高付加価値商品へのシフトによるセールスミックスの改善と利益率の向上が期待できます。このための投資については継続して行っており、航空機用ラジアルタイヤ増産のための東京工場の設備増強や、大型建設車両用ラジアルタイヤ増産のための今年秋の北九州新工場稼働など、「不況だから設備投資は行わない」といったスタンスとは正反対であるところにも非常に好感が持てます。

このような付加価値商品へのシフトが順調に進み拡大する戦略タイヤ市場を拾ってことができれば、同社の掲げる高い利益率目標に到達することも不可能ではないでしょう。

もちろん、今後の市況の不透明さは存在します。さらに不況が長引けば、設備投資を控え現状維持に注力せざるを得ない局面まで悪化するかもしれません。中長期計画発表における冒頭の説明においても、社長自ら、「サブプライム及び北米の景気後退の影響を中期的に予測することは困難であるため、計画には織り込んでいない。」と説明しています。

しかし、今後の不透明さを嘆くよりも、変化する市場ニーズに対応させて自社の提供する価値を高めるため、やるべきことを愚直に継続している企業のみが、不況を乗り切り、景気が回復した時に更なる飛躍が可能ではないでしょうか。

ブリヂストンの戦略からはそういった意思が感じられ、今後の同社の展開についても応援しながら見守りたいと思います。

今日の一言;
「継続と変革のバランスを」

2009年1月15日 T.Kimura
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