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サムライ会計 第5回「市場原理に基づく問題解決」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

皆さん、こんにちは。板倉雄一郎事務所パートナーの木村です。

洞爺湖サミットが閉会しました。

案の定、というか何と言うか、、、サミットとは直接関係ないところでエコ関係の便乗広告だけが増えた、というのが印象的です。

成功か失敗か、と問われれば、どちらでもないと思います。
日本としての目標設定が明確でない(←これが一番の問題)以上、それをどの程度達成できたかという測定が出来ないからです。

温暖化についての環境問題に関して言えば、依然として「先進国」と「新興国」という構図があり、そこに各国の国益が絡んでくると、もう収拾がつきません。そこに排出権取引という「市場原理」を持ち込んで、ODAなどの一方的な寄付ではなく、お互いにメリットのある仕組みで解決しようという発想は、色々な障害はあれ一定の効果が期待できます。

以前、エッセイの中でヤマト運輸を取り上げました。
僕は日本企業の経営者の中でも小倉昌男氏は大好きです。その理由として、インフラに挑戦したベンチャー企業という点で素晴らしいというのと、その後の社会貢献の「仕方」に共感を覚えるからです。

小倉氏は往年、福祉の分野にも一石を投じられていますが、氏が素晴らしいのは、単なる寄付ではなく、仕組み自体を変えようと尽力されたことです。

障がい者が月給1万円しか稼ぐことができなという現実に憤慨し、それを「市場原理」によって解決しようとしました。

つまり、自ら福祉関係者を相手にセミナーを行い、障害者が自立するための仕組み作りのための「経営の理念」を説いて回ったのです。
「収入-経費=利益」という算式から、経費である障害者の給料を上げるためには、需要を作り出し、結果としての利益が出るような事業にしなければならないと強調し、「消費者、つまりあなた方が欲しいと思うかどうか。これがポイントです。」という話をされていらっしゃいます。

寄付金によって立派な福施設を提供したところで、働くことに対する喜びと、自分で稼いだお金で楽しむという自立は得られない、という考え方には全くもって同感です。

そのセミナーでは、福祉関係者同士でビジネスアイデアに関するディスカッションも行われ、議論の末、障害者と健常者で運営するベーカリーをオープンすることになりました。その後、ベーカリーのフランチャイズ展開も行い、夜勤のある職場に届けたり、カフェコーナーを設置したり、「価値>価格」となるための様々な努力を重ねた結果、以前の障がい者の一般的な月給が1万円だったのが、そのベーカリーのフランチャイズ店では勤務時間によっては10万円稼ぐ障害者の従業員もあらわれました。

従業員が25名(うち約半数が障害者)、一日の売上が20万円という記載があるため、月次の店舗損益を仮定を置いて考えてみるとこんな感じでしょうか。

1 変動費:
 FCロイヤリティー(売上の5%とします)
 原材料費等(原価率25%とします)

2 固定費:
 人件費
 (ローテーションも加味し、健常者10人×20万円+障がい者10人×10万円=300万円)
 家賃、光熱費その他(ざっくり100万円とします)
 什器備品の減価償却費(設備投資1200万円、耐用年数を5年とすると、1200万円÷5年÷12ヶ月=20万円)

3 損益分岐点:
 固定費計420万円÷(1-変動費率0.3)=売上600万円/月(1日あたり約20万円の売上)

そのフランチャイズの店長さんの言葉が、まさに象徴的です。

『私は福祉ではなく、カネもうけ(市場原理に基づくビジネス)を行っています』

このように、市場原理によってアプローチすることで、「問題を解決する仕組み」を提供することができます。小倉氏が取り組んだ福祉の問題もさることながら、現在の世界そして日本には、温暖化問題をはじめエネルギーや食料の問題、少子化問題、学力低下などなど解決すべき問題が山積みです。これらの問題について解決するには、「市場原理」でのアプローチが有効であり、今や「市場原理」はなくてはならない考え方になっています。

今月末に迫った実践・企業価値評価シリーズ第31回2日間セミナーは、実践を通して「企業価値評価」を身につける内容です。その根底にはもちろん「市場原理」があり、2日間のセミナーを通じて、リアルな「市場原理」を体感することができます。
皆様のお越しをお待ちしています!

今日の一言;
「市場原理に基づく問題解決はフェアであり、継続性がある」

参考 経営はロマンだ! 私の履歴書・小倉昌男 (日経ビジネス人文庫)

2008年7月15日 T.Kimura
 ご意見ご感想を心よりお待ちしております。





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