板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「最後の合宿セミナーランナップ」

先週末は、「実践・企業価値評価シリーズ第30回合宿セミナー」でした。

2004年春、

前年にわずか1年間の結婚生活に終止符を打ち、原宿の部屋を引き払い、1997年の倒産時と同様、実家の船橋に戻り、株式投資や読書、そして(当時は2匹いた)ワンコとの生活に再び戻った頃、名古屋の経営者団体から一般講演の依頼を受けたことが現在の活動のきっかけでした。

名古屋でのお呼ばれ一般講演にて、その聴衆の一人だった濱ビルCEO濱口茂樹氏と出会い、彼からの、
「板さん、名古屋で定期的に何かセミナーやってくださいよ。受講生は僕が集めますから。」
という依頼を受け、もろもろ考えた末に、企業経営にも株式投資にも普段の生活にも生かせる「ファイナンス理論」、「企業価値評価」のセミナーでもやってみるか、という単純な理由から現在の活動がスタートしました。

せっかくセミナー講義用のコンテンツを作るのだから、ついでに(当時流行始めた)ブログもはじめて、様々な企業活動の分析を、企業価値評価の視点で書いてみようと、現在のこのサイトもスタートしました。

当日のアクセス数は、日に200~300PV。
名古屋セミナーでの受講者は8名。
今思い返せば、名古屋で定期的にはじめた現在のセミナーが、その後の4年間で30回を数え、850名の卒業生を輩出するまで継続するなどとは、当時はこれっぽっちも思っていませんでした。

2004年夏、

名古屋での定期開催において、何とかカタチになってきたセミナーでしたが、東京で本格的に定期開催するためには、「なんとなぁ~く手が足りないなぁ」と、このサイトにてスタッフ募集を行ったところ、投資銀行マンやMBA、IT技術者など極めて優秀な人材が、「どういうわけか」集まりました。

とはいえ彼らも「本業」を行いながらのお手伝いとしての参加。
一方の僕も、セミナー活動を「本業」にするつもりは全くなかったですし、そもそもそんなセミナー事業が継続するとは全く思っていなかったという状況から、現在の「プロジェクト収益配分パートナーシップ」というイクイティーな仕組みが自然と出来上がりました。

優秀なパートナーに恵まれたおかげで、僕一人でくみ上げたセミナーカリキュラムをベースに、その完成度は、回を重ねるごとにブラッシュアップされることになりました。

2004年秋、

当時のコンサル先ベンチャーの役員や社員向けの「法人出向セミナー」を開始。
同時に、このサイトでの一般募集による「第1回・企業価値評価シリーズ」を開催しました。
受講者数は、8名。
当時は、合宿形式ではなく、週に1回、全6回のカリキュラムでしたが、受講者にとって1週間のブランクは、前回の講義内容を忘れてしまうのに十分な時間だったらしく、毎回、前回の復習に講義時間の半分以上を使ってしまうはめになってしまいました。

「これじゃいかん。」

企業価値評価は、それを学習する段階では、知識の「積み上げ式」が合理的なカリキュラムなのですが、その知識を完成させるためには、積み上げた一つ一つの知識を相互に関連させて理解し、様々な情報源から、様々なアプローチができるようになる必要があります。

積み上げ式じゃないと理解が進まない。
しかし、積み上げた知識を関連させないと意味がない。
その上、セミナー主催者である僕の時間効率、収益率も当然考慮しなければ継続することができない。
さてどうするか・・・

散々悩んだ結果(←ちょっと大げさ)・・・
ひとつ一つの知識要素を詳細に高い精度で伝え、それを積み上げることより、
条件を限定してざっくりベースでとにかく1周、
次に、もう少し条件を現実的にしてもう1周、
それを何回か繰り返し、
最終的には、限定していた条件をすべてはずし、現実に存在する複雑な個別企業の企業価値評価につなげ、
最後の仕上げで、受講生自身が企業価値評価を行うワークショップを行うカリキュラムがよいかも・・・

この方法であれば、周に1度の開催より、1日か2日間で集中して「脳を鍛える」方法がよいかも・・・

この方法であれば、受講生にとって、一つ目のファクターを忘れてしまう前に、次のファクターを学習することができるから、あるファクターと別のファクターの「関連性」を彼らの脳内に構築しやすくなるかも・・・

この方法であれば、僕の稼働時間も、会場費などの経費も削減できるはず・・・

そんな試行錯誤から、現在の2日間の合宿形式セミナーが完成しました。

2005年冬、

第2回開催からは、この合宿形式のセミナーをスタート。
初回の受講者数は、7名。
初めての合宿セミナーは、無事終了したとはいえ、この頃の僕やパートナーの話題は、

「次回は受講者来るんですかねぇ?」

でした(笑)

もし、板倉雄一郎事務所がデッド組織・・・つまり活動における固定費が経費の大部分を占めるフツーの企業体であったとすれば、「自らの組織の継続のために、需要がなかったとしても、商品を無理して売らなければならない」という状況になります。

そうなれば、商品の「品質」をある程度犠牲にしなければならない場合も考えられるし、ひたすら広告宣伝などを行うことを強いられる場合も考えられるし、事業主としては先行きのキャッシュフローマネージメントに追われる・・・それらは、結果的に受講料として受講者の負担増になってしまいます。

しかし、幸い「プロジェクト収益配分パートナーシップ」にしたために、継続的に受講者を募集できなかったとしても、僕も含め、パートナーの誰一人、生活に困るという心配がありません。

(自分で言うのもなんですが)これらの諸条件を考慮し、慎重にデザインしたビジネスモデルは、結果的に、「商品そのもの」=「セミナーコンテンツ」の品質を最も重要な要素として位置づけることができるシステムになりました。

おかげで、「まあ次回もやってみようか」などと、かなり悠長な、リラックスした事業継続を可能にしました。

2005年春、

第3回合宿セミナーを準備している頃、ホリエモンがなにやら騒がれ始めました。
今思い返しても、ホリエモン騒動は、企業のM&Aの是非、それに伴う企業価値の議論、株式市場の盛り上がりなど、企業価値評価のエッセンスが「たっぷり詰まった」イベントでした。

「このケースは、セミナーコンテンツとして使える!」

あの頃の僕は、そんな「チャンス」を生かし、ホリエモン騒動のケース分析をこのサイトのエッセイとして、書きまくっていました。

その後のセミナー活動を継続することができることになる大きな要素、「朝まで生テレビ!」(テレビ朝日)への出演依頼が来たのも、ちょうどその頃でした。

この番組出演の反響は極めて大きいものでした。
オンエア翌日の僕のメールボックスには、400通を越える番組視聴者からのメールでいっぱいになり、その直後開催した「オープンセミナー」では、300名を超える受講者にいらしていただきました。

その後、今日まで、ほぼ毎月開催することになる合宿セミナーは、募集開始から1週間ほどで満員御礼になることが続き、僕もパートナーも、セミナーの「需要」について、あまり心配しなくなりました。

おかげで僕らの関心事は、「需要」ではなく、「コンテンツの品質」に向かい、毎回セミナーコンテンツのブラッシュアップを継続することができるようになりました。

なんとなくはじめたセミナー活動でしたが、この頃から「日本人のフィナンシャルリテラシーの向上」という活動理念が明確になってきました。

2005年、2006年、2007年と僕らは、「日本人のフィナンシャルリテラシーの向上」という理念の下、走り続けました。

僕らの活動は、単に知識を提供することにとどまらず、セミナーを通じて知り合った「仲間」のコミュニティー活動にも発展しました。

毎回のセミナー後の懇親会。
春のバーベキュー。
夏の大規模キャンプ。
そしてクリスマスパーティー。

セミナー卒業生が増えるに連れ、いくつかの分科会活動も盛んになりました。
フットサルの開催。
釣り部。
毎月定例の飲み会。
名古屋、大阪、札幌、広島など卒業生のお住まいになる地域の定期的な集まり。

どういうわけか、このセミナー卒業生コミュニティーは、諍いがなく、皆仲良しで、受講期の異なる卒業生があるイベントで始めて合う場合にも、あっという間に意気投合して古くからの友人のように活動する。

あくまで結果的にではありますが、一定の共通した知識と考え方を持つ者同士が出会うことができるこのセミナーという「場」は、セミナー価値の決して小さな部分ではないことに徐々に気がつくことになりました。

人は、価値観を共有する仲間を求めている。

僕がこの4年間のセミナー活動で学習したことの中で、最も価値あることです。
今、僕は、こう思っています・・・

「なにも株式投資やファイナンスじゃなくてもいい。
 人と人をつなぐ機会を提供するなにかをやれないか。」

今は、現在の活動以上に優れた具体的なビジネスモデルを持っているわけではありません。
そして、合宿形式は終了しましたが、1日開催のセミナーを「需要さえあれば」継続したいと思っています。
しかし、この想いは、後にきっと何らかの具体的なカタチで、社会に価値を提供できる事業に発展させることができるのではないかと思います。

2007年末、

そんな心の変化が起こった頃、いや、そんな心の変化があったからなのか、株式市場の低迷の結果なのか、サーバー障害が原因なのか、セミナー需要が徐々に減少し、4年間続けてきた合宿形式セミナーの継続が難しくなりました。

「売れないときには、無理して売らない。」

一見、根性なしのような考え方ですが、僕はこの考えを、自らが経験した事業の失敗(←ハイパーネットの失敗)によって学びました。

ハイパーネットの失敗原因は、たくさんあります。
最も大きな原因は、経営者であった僕が「あまりにも馬鹿だった」ことですが、その馬鹿さ加減のひとつに、「機を冷静にうかがわなかったこと」が挙げられます。
事実、ハイパーネットが倒産した2年後に、いわゆるITバブルが起こりました。

半導体市場に半導体サイクルがあるように、
株式市場に上昇相場と下落相場があるように、
ギャンブルに勝てるエッジが立つときと、負けるエッジが立つときがあるように、
どんなビジネスにも浮き沈みがあります。
そして、その浮き沈みを自らがコントロールすることはできません。
だとすれば、その波を敵に回すのではなく、見方につければいい。

今は、ダウンサイジングし1日開催に切り替えたセミナーを継続しながら、次なる「波」をうかがう時期なのではないかと思います。

他人に知識を伝えるばかりではなく、投資家としての僕自身の実績をもっと上げたい。

この数年間、パソコンにばかり向かっていたおかげで年老いた肉体を復活させたい。
「教える者」という立場ではなく、フラットな立場でセミナー卒業生コミュニティーに参加したい。
そして、このコミュニティーの潜在力を、何らかのカタチで社会に価値を提供する集団に進化させる具体的な活動をしたい。
少なくとも今は、そんな想いです。

 

最後の合宿セミナーには、180名もの方々に参加いただきました。
最終回とあって、50名もの初受講の方々に参加いただきました。
第1回開催の卒業生もいらっしゃいました。
海外赴任されている方も最終回に駆けつけてくれました。
過去にパートナーを辞した方も駆けつけてくれました。

知識を伝えているつもりが、本当は、僕の方がたくさんの貴重な体験を皆さんからいただきました。
与えているつもりが、実は、与えられてばかりでした。

皆さん、僕に何らかの価値を見出していただき、本当にありがとう。
僕は、本当にハッピーです。

2007年5月12日 板倉雄一郎

PS:
今回も、サプライズをいただきました。
セミナーの最後に、(僕は全く気がつきませんでしたが)セミナー中に卒業生の方々によって綴られたメッセージと花束をいただきました。

最近調達したビデオカメラをたまたま会場に持っていったのですが、そのカメラをある卒業生に委ねていたところ、帰宅して観た映像には、卒業生からのビデオメッセージがたくさん録画されていました。

懇親会の最後には、生まれて始めての経験ですが、胴上げされてしまいました(笑・・・結構怖いですね。胴上げされるのって)

恋愛においても、趣味においても、事業においても、継続が苦手な僕が、需要の限り4年間にわたり、同じことを繰り返し継続できたのは、明らかにこのすばらしいセミナー受講生や読者のおかげでした。

この活動によって出会うことができたすべての方々に感謝いたします。

本当にありがとうございました。
そして、今後も末永くこのコミュニティーを楽しみましょう。

でも、「これで終わり」じゃないですからね(笑)

セミナー活動は続けますからね。よろしくです。





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