板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  ITAKURASTYLE  > ITAKURASTYLE「高裁決定の要旨について」

ITAKURASTYLE「高裁決定の要旨について」


スティールが、ブルドックソースの買収防衛策差し止めを求めた仮処分申請に関する高裁の決定要旨(日本経済新聞2007年7月10日付け13面)を、何度読んでも、(今手に入る情報の限りでは)、スティールの過去の買収における「どの行為」が濫用的買収者と断定する理由なのか、僕にはさっぱり分かりません。
要旨には・・・
「短中期的に対象会社の株式を対象会社自身または第三者に転売することで売却益を獲得しようとし・・・」
とかありますが、
それのどこが「企業価値を破壊する行為」になるんでしょうか?
それのどこが「濫用的」なのでしょうか?
言ってみれば、誰だってそうでしょ。
もちろん、真っ当な株式投資」(日経BP社)にて表現しているように、彼らスティールの手法は、個人投資家にお薦めする手法ではありませんし、個人投資家に実現できる投資手法ではありません。
しかし、だからと言って、司法から「お前ら悪者だ!」と言われなければならない行為だとはとても思えません。
ホリエモンのように・・・
1、同社の既存株主を毀損する資金調達(MSCB)によって集めた資金で、
2、いわゆる「法の網目」を突いた電撃買収(時間外取引による大量取得)
をしたのではなく、スティールの場合、あくまでTOBですからね。
その上、同社の株主の「大部分」が、既に「スティール嫌い!」って意思表明(←買収防衛策を承認)しているわけですから、それで十分OKで、なにも「悪者扱い」しなくてもと思います。
ホリエモンの時とは、条件が全然違うわけです。
確かに、企業は、利害関係者(←顧客、従業員、取引先、債権者、株主、国や地方自治体)によるチームワークによって初めて価値を生み出すわけですから、株主だけが「俺のもんだ!」と、何でもかんでも好き勝手にやってよいわけはありません。
そんなの当たり前のことですし、常々僕が訴えていることです。
しかし、
安定期にある企業の「余剰現金」を株主に(自社株買いや配当によって)還元することは、その金を(ブルドックのように)他社の株式で運用したりすることに比べれば、遥かに合理的なことですし、
(成長期の企業の現金を配当や自社株買いで引き出す行為は合理的ではありません。企業内部での再投資によって複利効果を得るべきです。)
株主にはなったが、思ったように効率的な経営をしてくれないので、買ったときより高く売れるなら、売ってしまうことは当然のことですし、
そもそも、PBR 1倍以下の株価での買収でなければ、分解バラバラにしても儲かりませんから、要旨にあるような「資産処分」を求めているとは思えませんし、
つまり、司法には、スティールの過去の活動の「どの行為」が濫用的買収者として断定する理由なのかを、具体的かつ迅速に、資本市場だけではなく、広く一般に示す責任があります。
そうじゃないと、日本の株式市場は、私達日本で暮らす個人投資家にとっても、かなり危険な資産運用手段になってしまいます。
2007年7月10日 板倉雄一郎
PS:
しつこいようですが、僕はスティールの味方をしているのではありませんし、「企業は株主のものだ!」などという姿勢でもありません。
ってか、日本経済新聞による「要約」に問題があるのかもね。





エッセイカテゴリ

ITAKURASTYLEインデックス