板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「NICE TRY!」

CS放送で、「シリコンバレーの100年」を観ました。
忘れていた「熱い何か」を思い出しました。
いや、「熱い何か」を忘れていることを思い知らされました。
ヒューレット・パッカード、フェアチャイルドに始まり、
80年代からはアップル・コンピュータが中心に表現され、
90年代からはインターネット関連企業がその歴史と共に紹介されていました。
シリコンバレーのパワーを再び思い出させてくれる番組でした。

1996年、僕が経営するハイパーネットは、その「力」や「サイズ」に見合わない米国市場に打って出ました。
HYPER SPACE(←日本名 HotCafe)のサービスをカリフォルニアに限定して開始することができましたが、サービスインから1年も経たないうちに、日本の本体における資金繰りの悪化が原因で、HYPERNET USAの20名ほどの従業員の解雇と共に、このサービスを打ち切りました。
米国への投資額は6億円に上っていましたが、当時は、本体そのものの存続が危ぶまれていたから、
これをすべて損失にする結果であることを十分に承知しながら、HYPERNET USAを閉じました。
サービス停止から数日経って、HYPERNET USA担当の副社長からいくつかのメールが転送されてきました。
それらのメールは、HYPERSPACEの利用者、HYPERNET USAの現地での提携事業者,、そして解雇した元従業員などからのものでしたが、その内容は、(おぼろげな記憶ですが)、
「NICE TRY!」
といったことがほとんどでした。
決して、非難や苦情ではありませんでした。
僕は、(今だから告白しますが)涙しました。
僕以外のハイパーネットの利害関係者に失敗の責を帰するつもりは毛頭ありません。
しかし、当時のハイパーネット本体(日本法人)のおかれた状況は、まさに利害関係者(特に債権者)同士の足の引っ張り合いでした。
それに比べ、(確かに資金を直接投資した利害関係者が米国には居なかったので直接比較はできませんが)、シリコンバレーの彼らの態度は、シリコンバレーの持つ、シリコンバレーをシリコンバレーと成した、「チャレンジすることに価値を見出す環境」を如実に現していました。
東京とシリコンバレーの環境の違いをまざまざと見せ付けられました。
ハイパーネットの倒産後、再起業のチャンスを伺いつつ、自分自身の問題点の把握と平行して、まずはベンチャーが育つための理想的な「環境」作りのためにと、いくつかの活動を行いました。
失敗の経験をシェアするための書籍「社長失格」などの執筆、
失敗経験をストレートに伝えるための数々の講演活動、
(このページの下のほうに、過去の講演履歴を記載しています。)
細々ながらベンチャーを支援するためのベンチャーキャピタル経営、
そして、経済活動に必須のフィナンシャルリテラシーの学習と伝播活動・・・
この期間に、いわゆるITバブルもありました。
これらの活動は、幸い一定の成果を上げることができました。
しかし、気が付いたら10年が経っていました。
今年2007年の12月で、ハイパーネットの倒産から丸10年です。
これらの活動は、本来自分自身の再起業のための環境づくりであったはずなのに、今では、手段が目的化しているように思います。
「今からだって遅くは無い」
そう意見される方もいらっしゃると思います。
しかし、ベンチャー、企業経営、金融、株式投資などを「知りすぎてしまった今」となっては、無邪気にガレージからスタートアップすることなど考えにも及びません。
今では、自らが起業することより、ベンチャーに夢を見ることができる誰かを、何らかの形でサポートする側であることに、少しずつ満足できるようになりました。
それが僕の人生にとって、良いことなのか悪いことなのかは、まだ良くわかりません。
けれど、たとえばアップルコンピュータにしても、彼らの成功の影には、やはり現在の僕のような人間が居たことは確かです。
現在のファイナンス教育事業の延長線上に、ビジネスモデルと称した単なる顧客囲い込みのテクニックだけをベースにしたIPOでの高値売り抜け一攫千金ビジネスではない、「本物のベンチャー」を育てる活動があってもよいのではないかと思います。
今度は、脇役として。
2007年9月29日 板倉雄一郎
PS:
というわけで、偶然にも週明け10月1日は、 「ベンチャー経営の実際」と題した監査法人トーマツ主催のイベントに講師として招かれています。
ご興味のある方は是非いらしてください。
PS^2:
この国は、シリコンバレーと比較して、失敗者に厳しい環境です。
シリコンバレーでは、失敗は「経験値」として評価されますが、この国では、いまだに「減点要素」でしかありません。
下手をすると、「失敗者」より、「犯罪者」のほうが、より早く社会活動に復帰できる世の中ではないかとさえ思います。





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