板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「結果より過程」

ウォーレンバフェット氏の寄付については、皆さんもご存知の通りです。

世界中のメディアは、寄付の「額」をニュースにするでしょう。
もちろん、メディアとしては「ニュース性」を求めるのは当然ですし、
観る側も「ニュース性」がなければ、観ないですからね。
(そこいらのサラリーマンが、全資産の85%を寄付したとしても、
 誰も興味を示さないでしょう。)

しかし、その「トピックス」の先に、「どうやって稼いだのか?」
を是非とも伝えていただきたいと思うのです。

彼は、企業を分析し、優れた経営を行う企業に投資し、
その企業の価値を破壊することなく、
長期に渡る資金提供という形で企業の価値創造に貢献しました。
彼の采配に共感する者が、さらに、
彼に対して長期に渡る資金提供を行い、
彼は、資金を提供した者と同じ目線で、采配を続けました。

実った果実をすべて食べてしまったら、次の苗が育たないことを、
彼はよく知っていました。
だから、受け取った果実のほとんどを、次の苗のためにしました。
飢餓を我慢しながら、滅私奉公に勤めたわけではありません。
彼は、自分が目利きをし、水をまいた苗が、
順調に育つ姿を観るのが楽しかった、のだと思います。

彼を知る多くの経営者は、
彼に同社の株式を保有してもらうことを望みました。
彼が目を付けてくれるような経営を目標にした経営者も多数です。
(どこかの有名ファンドとは大違いです。)

彼は、資本主義社会における議決権であるところの金を、
自分を含めた利害関係者の便益の最大化のために、
上手に運用した結果として、兆の単位の資産を形成しました。
決して、投資先企業から、短期で「ふんだくろう」とはしませんでした。

その過程こそ、
寄付した額という「結果」より、尊重されるべきだと思うのです。

「結果がすべてだ!」という考え方、というか場合もあるでしょう。
たとえば、スポーツ。
確かに、スポーツの場合、
どれほど練習をしたところで、
どれほど気合を入れたところで、
勝たなければ、偉そうなことはいえません。
(勝たなければ「意味が無い」とは思いません。)

しかし、資本主義経済システムの中で、
果たして、「稼いだ金の額」という「結果」がすべてでしょうか?
僕は、そうは思いません。

そもそも資本主義経済システムとは、
様々な人の提供する価値を、
効率よく社会に流通させるための「仕組み」です。
企業も同様に、
価値を持ち寄ることによって企業に関わり、
企業に関わる者が集めた価値を膨らませ、
膨らませた価値を、利害関係者に対して還元することとを通じて、
社会に価値を提供してゆくための「仕組み」です。
であるとすれば、「いくら稼いだのか」より、
「その仕組みに真っ当に参加したのか否か」という事の方が、
ある人物を評価するときに大切なことでは無いでしょうか。

資本主義経済システムは、
決して、「金儲けゲームの仕組み」ではありません。

僕は、バフェット氏の資産より、彼の「過程」が素晴らしいと思います。
その過程が、素晴らしいからこそ、
社会が多くの「議決権」を、長期に渡り彼に委ねたのだと思います。

そして、資産運用の最後に、
集めた議決権を、自分の理念に近い慈善団体に継承したわけです。

僕は、このニュースを見て、驚くことはありませんでした。
彼だったら、彼自身の寿命(・・・彼は自身の「生と死」について、よく言葉に表しています)を考え、そうするだろうな、と、当然のように受け止めました。

トウモロコシ畑しかないド田舎ネブラスカ州オマハにひっそりと暮らし、
朝、徒歩にて通う先は、彼が会長と筆頭株主を勤める、
従業員わずか17名のバークシャーハサウェイ。
しかし、同社の傘下企業の従業員数は20万人を超えます。

彼は、よく「パートナーシップ」という言葉を使います。
企業に関わるすべての者のパートナーシップによって、
経済価値が生み出されることを、僕は彼の言葉から教わりました。

彼の言葉に、
「どんなに稼いでいる企業でも、いけすかねぇ奴の経営する企業は嫌だ」
(↑ 僕がものすごく意訳しています(笑))

尊敬できるパートナーと、価値ある仕事をする。
これが楽しくなくて、一体なんなのでしょうか?
これ以上の楽しみなんて、あるんでしょうか?

多くの人は、彼の「投資術」を盗もうとします。
しかし、彼が持っている最も貴重な価値は、
「社会と向き合う姿勢」ではないかと、思うのです。

僕は、彼の資産の「額」を目標になどしていません。
(↑ 正直な話、人生の残り時間と、投資手法から考えて無理です。)
しかし、彼の哲学を吸収したいと思います。

ちなみに、バフェット氏もブログ書いてますよ。
(↑笑・・・それは嘘・・・だけど、彼自身のメッセージが読めます↓)

http://www.berkshirehathaway.com/

2006年6月26日 板倉雄一郎

PS:
上場企業を「パチンコ台」と勘違いしたり、
他人が創り上げた価値を、金の力でふんだくったりして、
その結果得た金を、仮に寄付したところで、
「塩を入れすぎた料理に、後から砂糖を入れているようなもの」です。
味は、何もしないときより、ひどくなります。

PS^2:
ちなみに、バフェット氏の「愛読書」ってなんだか知ってますか?
「有価証券報告書」です。
彼は、単なる「数字」から、
その先に居る「人」を読み取る能力に長けているのです。
これ、あまりよく知られていないことです。

PS^3:
なんだか「死んじゃった」みたいな書き方ですが(笑)、
75歳のおじいちゃんは、すんごく元気だそうです。
今でも、コカコーラを毎日何本も飲んでいるのでしょうか?(笑)
なんつたってコカコーラの筆頭株主ですからね。

 





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