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ITAKURASTYLE「エコ替え」

トヨタ自動車のテレビCMにて、「エコ替え」なるフレーズが使われています。

「車を買い替えるには、それなりの初期費用が発生するが、後々の経費削減を考慮すれば、経済的にも合理的な買い替えになりえる」

ということをワンフレーズにまとめた言葉ですが、「エコ替え」的なマーケティング手法は、このトヨタ自動車だけではなく、他のメーカー、量販店など、2008年に入ってから(サミットの影響もあろうかと思いますが)増えてきました。

では、「エコ替え」が、経済的視点で本当に合理的になるか否か、基本的な考え方を書いてみたいと思います。

「エコ替え」の経済的な合理性の検証方法・・・

自家用車(←キャッシュフローを生まない)を例に結論から書けば、

「現在の車を乗り続ける予定の期間における、様々なコストを考慮したキャッシュフローの割引現在価値」・・・①

と、

「エコカーに現時点で乗り換えた場合に(同期間にて)削減できるであろうキャッシュフローの割引現在価値」・・・②

を比較し、

 [ ① ] > [ ② + エコカーに乗り換える際の初期投資額 ]

である場合に、「エコ替え」が経済的に合理的であるといえます。

投資における初歩的なことですが、このように、
「今差し出そうとするキャッシュ」と「それによって得られるであろう将来のキャッシュフローの割引現在価値」を比較した結果、どちらも同等の経済価値になることを、

NPV  =  0 (Net Present Value = Zero )
(PV - Investmennt Capital = NPV )

と表現し、投資として経済的に合理的なのは、

NPV  >=  0

の場合となります。

では、ひとつ一つ行きましょう・・・

1、将来キャッシュフローの「削減分」の算出

エコ車への買い替えにおける、将来キャッシュフロー「削減分」のキャッシュフローを予測します。

(1)燃費改善による燃料代の節約
  (※この場合、ガソリン価格の予測も必要になります)
(2)車種変更による自動車保険料の節約
(3)車種変更によるタイヤやオイルなど消耗品の節約
  (になるかどうかは車種にも依ります)
(4)車種変更による自動車税など税金の節約

などなど、詳しく算出しようとすると、他にも細々沢山あります。

以上の「エコ替えによって節約できるであろう毎年の経費」を、エクセルシートに年次ごとに並べます。
(現在の車のキャッシュアウト列と、エコ車のキャッシュアウト列の差を求めるのが簡単だと思います。)

2、初期投資額の算出(エコ車への買い替えにおけるキャッシュアウトの算出)

(1)税やオプションを含むエコ車導入に関する全てのコストの算出
(2)現在の車の売却価格

から、(1)-(2)によって、初期純投資額を算出。

3、1のキャッシュフローの「割引率」の設定

ここが少し面倒でもあり、結果をあやふやにしてしまうDCF法の難しいところではあります。

『割引率をいったいいったいいくらにすれば良いのか!?』

基本的な考え方は、自動車を保有する本人の「機会費用」として考えるのが最も合理的だと思います。

例えば、過去の資産運用の平均利回りを採用するのもありえますし、
例えば、資産運用などしていない場合は、予測期間に予想される銀行預金金利(←ちょー低い)という考え方もありますし、
例えば、予測期間におけるインフレ率を採用する考えもありますし、
例えば、他にローンを抱えている場合、そのローンの金利にすることも考えられます。

このあたり、厳密にやろうとすると個人個人の資産状況などを考慮しなければなりませんから、この場で一つの答えを出すことはできませんが、ザックリ「長期金利(=10年国債の利回り・・・現時点での予測は2%前後)」程度とすればよいのではないでしょうか。

(すると、機会費用が大きい人(=運用利回りが高い人や資本調達コストが大きい人)ほど、エコ替えの「少なくとも経済的な」メリットは薄いということになってしまうわけですが、その場合は、温暖化対策としてエコ替えを検討してみてください。)

4、NPVの算出

以上の、1,2,3で得られた結果によって、「エコ替え」におけるNPVを算出します。

とは書いたものの、式で書くと・・・

NPV = Σ ( n = 1 → m ) [ C (n) / ( 1 + r ) ^n ] - IC

[ m ] は、予測期間の年数
[ C ] は、上記1で得られた削減が想定できる毎年のキャッシュフロー
[ r ]  は、上記3で得られた割引率
[ IC ]は、上記2で得られた初期純投資額

となってしまって、なんだかチンプンカンプンどころか、アレルギーが出てしまう方もいらっしゃると思いますが、エクセルシートで計算すると、割と簡単なことです・・・が、文章で説明するのは結構大変です、そのうち「ダウンロード可能なNPV算出の一般的なシート」をアップしますので、今回は、ごめんなさいです。
(今度のオープンセミナーで、これをやればよかったかもですね。次回のオープンセミナーでやってみたいとおもいます。)

以上から、NPV => 0 であれば、 「少なくとも経済的には」合理的な「エコ替え」だと判断できます。

こんなところでも、ファイナンスの知識は生かせるというわけです。
(現実には、ローン残があったり、新たにローンを組んだりすることになるでしょうから、益々面倒になるので割愛させてください)

で何が言いたいのかと言うと、

「単にエコ替えと言ったところで、それが本当に財布を暖かくする行為なのか否かを合理的に判断するためには、結構面倒な計算が必要になる」

と言うことです。
現実的には、ほとんどの消費者が、「なんとなぁ~く」で結論を出す場合が多いとは思いますが、以上をしっかり計算できる知識がある場合と、そうでない場合では、将来の純資産に大きな違いが出るというわけです。

このあたりを「しっかり計算してあげるウェッブサービス」なんかビジネスとしてありえますよね。

以上、「エコ替え」ひとつとっても、それが経済的行為の側面がある以上、ファイナンスの知識による優位性が生じるということをお伝えしました。

2008年6月22日 板倉雄一郎

PS:
ところで、以上のような面倒な計算なくして、明らかな答えを出せる投資先はいったいなんだと思いますか?










す。

それは、自分自身への知識や経験の投資です。





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