板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  ITAKURASTYLE  > ITAKURASTYLE「ホリエモンに実刑判決」

ITAKURASTYLE「ホリエモンに実刑判決」

世間では、この判決に対して、様々な人が、様々な立場で、様々な知識のもと、様々な意見をおっしゃっているようですが、結審したわけではないですから、僕自身のコメントは差し控えたいというのが本音です。
しかしながら、一審判決であっても、それは控訴審にも、民事訴訟にも、広く社会に対しても、何らかの影響を与えるでしょうから、ちょっとだけ僕の意見を述べさせていただこうと思います。

<受け入れるべきコメントの条件>

様々な人が、様々なことをコメントしていますが、
この判決に対するコメントをする上で、必要不可欠なことは、
1、司法について十分な知識と経験がある人、「で且つ」
2、企業や企業価値そしてマーケットメカニズムに精通している人
であると思います。

多くのコメンテーターは、上記のどちらの条件も満たしていないか、
片方の条件を満たした方ですよね。
鵜呑みにしないことをお勧めします。

ちなみに、「日興コーディアル事件」と比べ、
「量刑が重過ぎる」と主張をする方がいらっしゃいますが、
これほど、馬鹿げた主張はありません。
なぜなら、「ライブドア事件」と「日興コーディアル事件」では、
「粉飾を行った」という「たった一点」だけが共通点であって、
違法(とされる)行為を行った、
1、動機や目的
2、巻き込んだ人間の数
3、特に若い世代への影響
などを考慮すれば、まるで別物だと、少なくとも僕は思います。

仮に、
①報道がきちんと裁判の経緯や内容を正確かつ公平に報道していて、
②事実が検察の主張するとおりだとして、
③ホリエモンがちっとも反省していないことを前提にするなら、
個人的には、求刑4年、懲役2年6月の実刑という結果は、
求刑としても、求刑に対する判決としても「軽い」と思います。

<経営者としての堀江君に対する僕の評価>

ライブドアや堀江君に対するこれまでの僕の意見や主張が、
あくまで「経営者としての堀江君」に対する批判であったように、
この場でも、経営者としての堀江君に対する意見に留め、
再び記します・・・

経営者のミッションを「企業価値の最大化」であることを前提にすれば、
堀江君は経営者として、今回の件が有罪であれ無罪であれ、
明らかに経営者失格です。

その理由は、過去にも散々書いてきましたが、
1、「株主を大切にする」とのたまう一方で、
  明らかに株主価値を毀損するオペレーションを継続したこと。
2、企業「価値」ではなく、
  企業「時価」をテクニカルに押し上げるオペレーションを継続したこと。
などです。
(3、として、もし有罪が確定すれば、「粉飾まで行った」と加えたいと思います。)

彼に限ったことではありませんが、新興ベンチャー経営者の「多く」は、
「彼ら個人の錬金術には優れた才能を発揮するが、
 企業の利害関係者すべてに便益を配分すべき『経営者』としては、
 失格な人間が大変多い」
と感じます。(・・・いや分析できます。)

「失格社長(←僕のこと)」に言われたくはないでしょうけれど、
「失敗」と「犯罪」では、まるで意味が異なりますのであしからず。
(↑法的に罪に問われるか否かではなく、自己の利益のために積極的に利害関係者を毀損した本質的な意味での犯罪という意味)

<彼らを創り上げた社会>

彼らに、「彼ら個人の錬金術」を実現せしめたのは、言うまでも無く社会です。
とりわけ、「良くわかんないけど株式投資やってみるか!」みたいな方々が、
彼らのやり方に乗せられ、価値に対してありえない価格をつけてしまったことが、
彼らの「一時的ではあるが」錬金術を手助けしてしまったわけです。
その原因は、国民全体のフィナンシャルリテラシーの欠如にあります。

たとえば・・・
誰もが口にする「食品」に関して、虚偽記載や製造過程の管理不足があれば、
社会は「大問題」として取り上げます。
その商品を取り扱うスーパーマーケットがあれば、
そのスーパーマーケットでさえ、「悪事に加担している」と認識されます。
しかし、
上場株式に関する虚偽記載や、
株主価値の明らかな毀損では、食品の場合ほど問題にされませんし、
「そんなことぐらいで上場廃止(スーパーに置かない)にするのか!」といった妄言もささやかれる始末です。
この違いは、
「金より食べ物は重要だ」といいった価値観の違いではなく、
多くの人にとって、
「食品は良くわかるが、金融商品の価値については良くわからない」
という知識の違いが原因でしょう。

ちなみに、大切な「食品」だって、「金」が無ければ手に入らないわけだし、
「金」のことで、人生をあきらめる人の方が、
「食品」のことで、人生をあきらめる人より多いでしょうから。

<この判決から私達が学ぶこと>
 
以上から、僕の持論である・・・
「他人を騙す連中を処罰することより、
 騙されない人間をたくさん育てることの方が社会効率が良い」
という考えが再び浮かび上がります。

私達一人ひとりは、今回の判決を受け、
堀江君がどうであるかより、司法がどうであるかより、
私達一人ひとりの「責任」を考えてみる良い機会ではないかと思います。

社会に対する議決権としての「金」を、私達はもっと慎重に行使する責任があるのです。

2007年3月19日 板倉雄一郎

PS:
なお、ライブドアや堀江君に関する僕の過去の主張は、
左フレーム「サイト内検索」にてどうぞ。
たっくさん出てきます。

PS^2:
今回の判決を受けた報道を観ていて、最もがっかりしたのは、他でもなく堀江君自身のテレビ朝日「報道ステーション」でのインタビュー内容でした。
彼は、終始、「自分は被害者だ!」という姿勢でした。
間違っているのは、常に「自分以外の人間」という姿勢でした。
非常にがっかりしました。
仮に2年ぐらい喰らっても、彼に変化は無いでしょう。
彼は、未だ、彼自身が行ったことの意味を把握できていないようです。
経営者として、人として、
正しいことをやってきたと、彼が本気で信じているのだとしたら、空恐ろしい。

僕がもし、「ハイパーネットが倒産したのは銀行連中の陰謀だ!」などと主張していたら、今の僕は無かったと思います。

PS^3:
判決文の「一部」に、確か、
「企業の利益を重視し、株主を毀損した」(←正確な文言ではありません)
などと、全く意味不明な文章があったようです。
「企業って誰よ(笑)」
資本マーケットから見れば、フツーは「株主」のことで、
広く一般から観れば、その企業の利害関係者のことを企業って言うわけです。
この判決文は、以下のように直すべきです・・・
「経営陣個人の利益追求のために、株主など他の利害関係者を毀損した」と。

この程度の理解の下、司法は行われるのだなと、こちらにもがっかりしました。





エッセイカテゴリ

ITAKURASTYLEインデックス