板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  ITAKURASTYLE  > ITAKURASTYLE「わがまま息子の甘やかし」

ITAKURASTYLE「わがまま息子の甘やかし」

米連邦準備理事会(FRB)が各国中央銀行と協調し、最大2000億ドルの追加流動性対策を実施すると発表しました。
FRBは証券貸出制度を拡充し、受け入れ担保を拡大する方針。受け入れ担保は、住宅バブルの崩壊で価値が低下している住宅ローン証券などが対象となる。
(以上、ロイターより抜粋)

ということですが、この「信用収縮に対する対策」は、これまでのFRBによる金利引き下げや、米政府による財政出動のような「経済全体に対する対策」に比べ、ある程度「源流対策」寄りになっていることを評価すべきだと思います。

これまでの経緯を整理すると・・・
①利回りを求めた金余り現象
②返済能力の乏しい人へのイイカゲンな貸出リスク管理の下の住宅担保融資と証券化によるリスクの世界へのばら撒き
③借りる方も貸す方も「住宅価格が右肩上がりだから大丈夫さ」と、まるで80年代の日本のバブルと同じ楽観的な信用拡大=レバレッジ拡大=要するに借金漬け
④自分のお金ではないお金によるバブル経済成長
⑤一部の住宅担保ローンの焦げ付き発生⇒サブプライムローン問題発生
⑥信用収縮=レバレッジ解消
⑦住宅価格バブルの崩壊が始まり、更なる信用収縮
⑧金融機関の「評価損」拡大
⑨住宅価格の下落が実体経済にマイナスのインパクト
⑩株式や債券から逃げ出した資金がコモディティーに向かい資源高
⑪物価上昇と経済減速(または後退)によるスタグフレーション懸念(または突入)
そして、
⑫米政府やFRBによる「経済全体」への景気刺激策
⑬レバレッジの恩恵を受けバブルを作ってきた金融機関や投資家が⑫が不十分であるとだだこねる。
⑭更なる金利引き下げなどの「経済全体」に対する景気刺激策
⑮⑬同様、「これじゃ不十分」とだだこねる。
⑯FRBも「この方法じゃ駄目だね」ってことで、「経済全体への対策」に加え、「問題の源流への対策」を行う

という一連の経緯ですが、今回のFRBによる資金供給は、これまでの「経済全体に対する対策」から「問題の源流への対策」へと切り替えられたこと自体はプラスに評価すべきだと思いますが、資金供給「期間」は極めて短いようですし、FRBが担保として受け入れる証券は、そもそも余り問題になっていない高格付け債券だけですから、抜本的な解決策にはならないでしょう。

現在の問題の本質は、利回りを求めた金余りが引き起こしたバブルとその崩壊、ですし、自分が働いて得た収入以上に消費してしまう多くのアメリカ人の行動ですし、そもそもアメリカという国が「自分たちで生み出す経済価値以上を消費してしまう国」ということですから、

まるで、わがまま息子が犯した不祥事を、息子の教育はさておき、親のお金で解決するという一時的な解決策を繰り返しているているように思うのは、僕だけでしょうか。

それでもアメリカの様々な経済対策、景気刺激策は、かつての日本の不動産バブル⇒株式バブル⇒バブル崩壊⇒莫大な不良債権の発生⇒長期に渡るデフレーションの場合より、早期に効果が出ると思います。
なぜなら、アメリカ人は日本人に比べ、「借金に対する警戒感が薄い」からです。
金利が下がれば、企業も個人も、日本の場合に比べ「大いにレバレッジを利かせる」傾向にあるからです。
かくして、問題先送りによる一時的なプライスキーピングを、「いつ崩壊するかわからない」というリスクを背負いながら永遠に繰り返すことになるのでしょう。

2008年3月12日 板倉雄一郎

PS:
本文とは全然関係ありませんが、「圧力鍋」って、明らかにCO2排出量を減らしますよね(笑)
個人が圧力鍋を買って使ったら、排出権クレジットをもらえればいいのにね。
個人がコンビニ袋を使わない場合も、数円の割引より排出権クレジットをもらえればいいのにね。
で、ネットを使って、個人が排出権クレジットの売買をできるようにしたらいいのにね。

合理的に考えれば、温暖化ガス排出を減らす商品を売っている企業が排出権クレジットを得て、それを売却することによって得られた利益分を商品価格からディスカウントすれば済むことですが、どういうわけか個人は、いわゆる「ポイント」が好きですからね(笑)

ポイント貯めて、後にそれを売却するより、最初からその分のディスカウントの方が手間が省けるうえに、小額ではあるけれどポイントより流動性の高い現金を持つほうがよいという利点があるのに、それがわからない人が多いのですから、単なる値引きより、その分の「CO2削減ポイント」を与えたほうが喜ぶでしょ。

排出権ポイントなるカードを政府が発行して、個人が楽しみながらポイントを貯めることを通じて、温暖化ガス排出を削減する。
こういうのありかもですね。
「ポイント貯めても意味ないですよ!」という真っ当な主張を繰り返すことより、多くの個人の「楽しさ」を「上手に利用する」というのも一つの手ですね。
ポイントが、それを発行する企業にとっての「顧客を欺いた有利な資金調達」であるなら否定しますが、環境改善に直結するならよいと思います。





エッセイカテゴリ

ITAKURASTYLEインデックス