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経営経験者からみた投資 第16回「会社説明会レポート(日本電産)」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

皆さんこんにちは。
板倉雄一郎事務所の渋谷です。

先日某証券会社から案内をもらい、日本電産の永守重信社長を講師とする「講演(会社説明会)」を聞きにいきました。
日本電産は、言わずと知れた「ブラシレスモータ」の世界No1.メーカーですが、今回はその講演内容について、レポートしたいと思います。

僕自身幾つかの証券会社と取引している関係で、E-mailやDM、営業マン直接など、ほぼ毎日のように証券会社が主催する何らかのセミナーなどの案内を貰いますが、これまでほぼ全ての案内に対して興味を抱くことはなく、出席したこともないのですが、今回の「永守社長」の講演案内を貰った時は、即決で参加すると決めました(笑)。

その講演にはセットで「なんとか波動からみた・・・」とかいう、チーフテクニカルアナリストとやらの講演も付いていましたが、そんなものは全くのシカトで、それについてはハナから聞く気はありませんでした(笑;証券会社さんすみみません)。


当日会場に着くと、既に大勢の人が押しかけていました。


神戸というローカルな会場にもかかわらず、800名以上の参加者がいたようで、さすがに投資家の間の知名度は高いんだなと思いました。

そして、株主総会などでもいつも思うのですが、男女とも殆どの参加者がリタイヤ世代以上の年配者で、お金をもっている世代はやはり年配者になるんだと改めて実感します。
と同時に、質疑応答でまた「ピントのずれた」質問が出るんだろうなとも思いました。


そしていよいよ、永守社長の登場です。


「夢をかたちにする経営(All for dreams)」と題した、30ページ弱のプレゼン資料を使って、会社概要、経営目標、経営戦略などについてのお話を聞いたのですが、全体として自信に満ち溢れた「関西弁」で明確に話す言動は、非常に説得力があり、心を動かされるものでした。

その中で、印象に残った内容やフレーズなどをいくつか紹介します。

・ 当社の株は長期で持ってくれ、デイトレしたい人は楽天、ソフトバンクなどでどうぞ。
(イキナリ共感!(笑))
・ 時価総額がこの12年で20倍。
(主に同じ京都の会社であるローム、京セラ、オムロン、村田製作所を意識しているのか、それらの会社と比較してダントツの伸びで、CAGRは28.4%)
・ 営業利益の伸びはさらに大きく、12年で24倍。
・ インチキシナジーのM&Aではなく、理念と実績の伴ったM&Aについての解説。
・ 多くの製品で世界シェアNo.1。
・ 創業当初からの明快な経営理念と社会貢献に対する確固たる姿勢。
・ 今後自動車分野での「車載モータ」にフォーカスし、ここでのビジネスを拡大していくという「説得力のある」経営戦略。
・ 非常に高い数値を掲げた(しかし絵に描いた餅と思わせない何かを感じる)長期経営目標。
・ ファイナンスリテラシーを感じる配当政策(現在は投資期であり、会社としての投資対象がなくなれば当然もっと多く株主に還元する)。

etc・・・
細かい数値などは割愛しますが、どこかの会社のようにどう見ても社長が嫌々やっていて、かつ都合のいい数値だけをことさら強調するような会社説明とは違い、非常に自信と説得力に満ち溢れたプレゼンテーションでした。

永守社長に関しては、以前から経済雑誌など様々なメディアで「卓越した」経営者として紹介されていますので、その存在は有名ですし、当然凄い経営者なんだろうなと思っていました。

しかし以前の知識でそう思っていた経営者でも、僕が当事務所のセミナーを受講して、現在パートナーとして関わるようになり、会社・経営・経済・ファイナンスについてより深い知識を得た状況になって、実はインチキだったり間違っていたりということが明らかになったケースも多々あります。

ですから、ご本人の話を直接聞けるこの絶好の機会を利用して、その点でどうなのかを確かめてみたいという考えもありました。

結果としては「本物」の経営者だなと思いました。


日本電産というと、ハードディスクのモータが有名なので、結構それだけで儲けてる会社なのかなという誤ったイメージを持っていましたが、実際はそうではなく、それに安住することなく、将来性のある事業分野にも次々に新しい手を打っている状況がよく分かりました。

その中でも僕が特に注目したのが、上の箇条書きでも挙げた「車載モータ」の事業です。

現状、自動車というのは、「機械」中心から「電気化」、「電子化」が大きく進んでおり、ハイブリッドカーやさらに安全性、快適性、エコロジーを追及するであろう未来の自動車を考えると、その傾向は益々強くなるだろうと考えられます。

するとその分野で、日本電産の大小様々なモータが必要になり、活躍する分野が出てくる訳です。そこにフォーカスして、当然その分野でもシェアNo.1を目指すと自身満々に語っておられたのは、説得力があり、納得させられるものでした。
(その分野での世界最大の某B社は当然ながら抜くとあっさり言ってました)

この会社は現在でもかなりの大企業であり、通常大企業といえばベンチャー企業などと比較して、将来伸びる余地が大きくないのですが、大企業の中でもまだまだ伸びる余地がある方だなと感じました。

それと、もっと年配のイメージがあったのですが、永守社長は現在63歳とのことで、多くの優秀な経営者が比較的長生きされる方が多い事を考慮すると、この先まだまだ長きに渡って活躍いただける可能性が高いのかなとも思いました。


次に質疑応答の内容に移ります。


質疑応答の受け答えにおいても、前半のプレゼン以上に、永守社長の魅力を余すことなく発揮すると同時に、この会社の将来性を強く感じることとなりました。

最初に心配していた「変な質問」はあまりなく、結構マトモな質問ばかりでした。
どのような質問に対する回答かは別として、質疑応答中に出てきた話の中で印象に残ったものを列挙します。

・ 社員は金で釣らない(裏を返せば「高給」だけが目当ての社員はいらない)。
・ 工場の立地に関して、コストが安いところに安易に建てるのではなく、「マーケットのあるところに建てる」という方針を貫いている。
・ 雇用は企業の使命の一つである。
・ M&Aで買収した会社も含め、社員のクビは一切きらない。
・ 買収した会社では、社員のモラルアップと教育に力を注ぐため、短期で業績が甦るし、元々そうなる会社でないと買わない。
・ 買いたい会社は、オファーを出して何年でも待つ。最近買収に成功した日本サーボは、16年前に親会社の日立にオファーを出し、当初相手にもされなかったが、16年越しの恋がやっと実った(このスタンスはバフェット氏にも似てますよね)。
・ 自社の買収防衛策に関しては全く考えてないし、そもそも買収防衛策には反対である。
・ なぜなら買収防衛策は自信のないダメ経営者が保身のために行うものであり、当社を買収したいなら、どうぞ買収して現経営陣のクビを切って下さい。そうすると企業価値は大きく暴落しますから。

・・・といったところです。

上記それぞれの話にも感銘を受けましたが、さらに最も感銘を受けた話があります。

それは「現在の株価水準」についてどう思うか、と質問された時の回答に関してですが、概ね以下のような内容だったと思います。

「現在、日本株全体が大きく売られていることにより、当社の株価も下がっている。他社と比較してその下がり具合は小さいとはいえ、当社の株価が正当に評価されているとは思えない。後に手が回るといけないので、あまり具体的には言えないのだが(笑)、この会社が今後どれだけ伸びていくはか、社長である私自身が他の誰よりも最もよく知っている。当社の筆頭株主は、他の大企業とは違いこの私自身という珍しいケースだ。しかし私は当社の株をもっと欲しいと思っている。色々な制約があってできないが、仮に現状の株価で買える機会があるなら、売ってくれる分、全てを買いたいと思っている。まあそのような私の考えから、現在の株価水準についてどう思っているかを、推測して欲しい。」

う~ん・・・。すごい自信ですね!
一般的に上場企業の社長というのは、自分の経営する会社の評価について、弱気な事は言いませんし、ポジショントークももちろんあると思います。
しかし、それを差し引いてもこれだけ大勢の前で、この発言を堂々とできるのは凄いと思いました。


僕自身はこの話を聞いて、この会社への投資を検討しようと考えました。


しかし、社長がああ言ってるからといって、すぐに買ってしまうのは早計ですよね。
これからじっくりとこの会社の有価証券報告書やIR情報などを読み込んで、さらに深くこの会社のことを調べてみようと思います。
社長の言ってることは本当なのか、これまでの経営オペレーションでの言行は一致しているか、具体的な数値に落とし込んだ場合の評価はどうなるのか・・・などについてです。
それらを調べ上げ、そしてさらに「現在の株価水準がどういう状況であるか」も、よく検討した上で、投資するかどうかを決断したいと考えています。

通常上場企業の経営者ともなると、話も上手く、人間的にも魅力的に見える人物が多いですから、経営者の話を聞いてその経営者にほれ込んでしまい、実際は投資リターンがあまり上がらないケースもよくあるので、その点には注意が必要です。

特に永守社長のようなカリスマ経営者の場合、その期待と人気により株価が高めに評価される可能性もありそうなので。


そしてさらに、まだ紹介していない質疑応答の内容があります。

これは実は僕自身が永守社長に対してした質問なのですが、大勢の質問者がいる中で、僕だけ厚かましく2回も質問の機会をいただきました。
その質問内容は、
1. M&Aで企業買収をオファーする際に、具体的にどのような「価値算定」に基づいて買収価格(オファー価格)を計算・決定するのか。
2. 社長自信もこの会社の株式をさらに欲しいとおっしゃったが、長期保有することによって当社の株主は、どれだけの「複利リターン」が期待できるのか。裏を返せば、御社の「株主資本コスト」は、どのぐらいと考えるか。
の2点です。

これらの質問に対しても、「即座に」かつ「なるほど!」と納得できるような、素晴らしい回答をもらいました。


その時いただいたその素晴らしい「回答内容」、そしてこの会社について深く調査した上での、僕の投資判断がどうなったかについては、別途卒業生向けプログラムである「プレミアクラブ」の、ストリーミングによる個別企業評価レポートにて披露させていただきたいと思います。

この会社のケースに限らず、全てのケースに通用する「企業価値評価」や「投資判断評価」などについてご興味のある方は、是非当事務所のセミナーへの参加をご検討下さい。

2008年3月11日  T.Shibuya
ご意見ご感想、お待ちしています!

PS)
質疑応答での質問希望者がまだいる中、終了時間となってしまったのですが、永守社長は最後に、「最小単位でもいいから当社の株を買って、株主総会に来てください。」と呼びかけました。
株主総会では質疑応答の時間を十分に取って、株主の質問に「とことん」答えるそうです。
そのあたりからも、経営に対する「自信」と株主に対する「姿勢」が感じられました。

PS2)
なお、今回のエッセイで取り上げた企業について、渋谷および板倉雄一郎事務所による売買を推奨するものでは一切ありませんので、その点にご注意ください。





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