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経営経験者からみた投資 第10回「大金持ちのふりをして金持ちになる人たち」


(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所の渋谷です。

今回、いつも書いている「経営者・投資家の適性」シリーズはお休みして、ちょっと別の「軽い話題から入る話」を書いてみたいと思います。

(次回以降再び「経営者・投資家の適性」シリーズに戻って、しっかり書きますので。)
普段殆んどTVを見ないのですが、先日たまたまTVを点けていた時に、ふと目に留まったバラエティ番組があり、色々と示唆が得られると思ったのでこのタイミングでそれについて書いてみることにします。

どうやらその番組は、今よく使われている言葉である「セレブ」がテーマらしく、セレブたちのゴージャスライフを紹介する番組のようです(笑)。

それで、その時に紹介されていたのは、こんな人物です。
・ 20代で資産20億円以上(多分意図としては金融「純」資産という意味)
・ その資産の殆どを株式トレードで作った
・ 当初のスタート金額100万円から、短期間で現在の資産規模になった
皆さんは上記の情報を見て、その真偽についてどう思われますか。

まあ、ジェイコム男と呼ばれる人物が、トレードで100数十億円築いたそうなので、この時点では嘘か本当かわかりませんね。

さらにその登場人物についての情報を追加すると、
・ 現在のトレード時間は一日30分
・ それで一日にサラリーマンの生涯年収ぐらい稼ぐ日もある
・ 夜景の美しい高級高層マンションの、260平米の部屋に住んでいる
  (映像で紹介)
・ 衣裳部屋には高級ブランド服のコレクションが並び、毎回数百万円の
  まとめ買いをする
だそうです。

ちなみに彼のいでたちは、全く顔と合っていない不自然な金髪ロンゲに、Gacktかオダギリジョーぐらいしか似合わないような、変わった服装で、怪しさ満開です(笑)。

こうなってくると、かなり胡散臭いなぁという目で見てしまうのですが、さらに、
・ F1を目指すレーサーのスポンサー
・ 自らがCDデビューするために、レコード会社を設立
・ 金持ちの証拠として、1億円余りの残高の預金通帳を「資産の一部」
 と公開
・ 築何十年も経つ古い家に住む実家の両親の、家の建て替え費用の
 半分を負担の予定
ということでした。

それら以外にも細々としたエピソードはあったのですが、キリがないので割愛いたします。

一通りそのコーナーを見終わって、かなり嘘臭いなぁとは思いつつも、もし本当にトレードの天才か何かで、それだけの高パフォーマンスを上げれるとしたら、その方法に対して全く興味がないかといえば、そうではありません。
自分もこれまで短期トレードもやったことがある者として、本当かどうか多少は興味があるので、その人物の開設するホームページを見てみることにしました。

そこで書かれていたのは、その人物の更なる「驚愕の」ものすごい実力です(笑)。
・ 「お金持ちプロデューサー」として億万長者を30人以上輩出
・ 7つの会社のオーナー + 8社に経営参画
・ コピーライティングのエキスパートとして3年間で10億円稼いだ実績と、
 今では1回のレターで3億円稼げる自信
・ 海外投資ファンドの運営、ベンチャー企業23社への出資など、投機だけ
 でなく「投資家」としても活躍中
・ 雑誌を中心に、数え切れないぐらいのメディアに紹介された実績
・ 「Webでのビジネスノウハウ」、「年収1億円以上になる方法」、
 「トレードで20億稼いだ秘密」などの「情報商材」と呼ばれるものを、
 複数販売している
・・・などといったところですが、本当に多すぎてキリがないのでこの辺で止めておきます(笑)。

もしこれらが全部事実なら、本当にスーパーマンみたいな人物ですね。

でも僕はこの時点で、「ああ、やっぱりな」という感じで、この人物が大嘘つきだとほぼ確信しました。まず直感的にみれば、とにかく自分を大きく見せることに必死すぎる感じがします。

しかし単なる直感だけではなく、自分なりの論理として、「嘘つき」とほぼ決め付けたポイントは、上記箇条書きの最後に書いた、「情報商材を複数販売している」という点です。

つまりこういう人たちの金儲けのネタは、ずばり「情報商材」なのです。
彼の主張するトレード手法などの、トレードに関する断片的な情報をどうつなぎ合わせてみても、100万円が短期間で20億円になるストーリーは全く浮かんできません。(正確にいうと20万円足らずの金を支払って、彼の「情報商材(トレードの秘密)」を購入しないと、この人のトレード手法の極意はわからないのですが(笑))

まあその中身を見るまでもなく、20億なんて無理なのは明白だと思います。
それに加え、コピーライティングのエキスパートとして、1回のレターで3億円稼げることも、多分ないでしょう。

それとは対照的に、この人物が販売している情報商材の価格に、現実的に売れる(売れた)であろう数を掛け合わせると、少なくとも通帳まで提示して見せた1億円、多ければ数億円という金額は不可能ではなく、実現可能な数字となります。

こういう人たちは、「大金持ちのふりをすることによって金儲けをしている」のだと考えます。

実はこういう手法は昔からあって、「無理をしてでも」、「借り物でも何でも」、身の回りの全てを高価なもので固めて金持ちを装い、それを利用することによって、本当に金持ちになる人もいると、ある本で読んだこともあります。

また最近、ある「コンサルタント」を名乗る人物が始めたとされる、人間心理を巧妙に突いた幾つかのテクニックを利用して、ネットでモノを売るマーケティング手法が、かなり広まっているようで、このケースもその流れの一つだと思います。
これ以外の実際の例として、「自分はアフィリエイトで月収500万円以上」と謳い、その手法を30万円強で売りつけるものや、月収1億円などと強調して、高価な教材を売りつけるものなど、枚挙にいとまがありません。

また、以前僕自身が実際に実績を上げていた、「ある簡単なトレード手法」と同じ(と思われる)手法に関する情報を、10万円近くで売っているのを見たことがあります。しかしその人物のパフォーマンスはたかが知れていて、僕の30分の1ぐらいのものだったので、「じゃあ、僕の手法を公開して売り出せば、300万円ぐらいの価値があるんだな(笑)」と、周囲に冗談を言ったりしたものです。

しかし、そんなインチキボッタクリ情報でも、噂によると千本近くも売れたらしいです。(ちなみにその手法が通用したのはほんの短期間で、今ではその手法で儲かる時代は既に終わっています。)

そして面白いのが、そういう情報商材に対して、他の誰かが「自腹でチェック!情報商材体験レポート」なんて、ブログで内容を暴露していたり、またヤフオク(Yahoo! Auction)で3000円ぐらいで中古として再販されいたりというのもあるようです(笑)。
さらに面白いのが、Googleツールバーの検索窓に、そういう人の氏名に続けてスペースを入力すると、すかさずその後に「詐欺」という検索ワードの候補が表示される場合が複数ありますので、ツールバーをブラウザに組み込んでいる人は、一度試してみて下さい(笑)。

多分複合検索ワードとして、一緒によく検索されているという事なんだと思います。

話をTVで紹介されていた人物の話に戻します。

上記のような観点から、その人物のホームページや、さらに、ついでにネット上でのその人物に対する評判なども合わせて再度読んでみると、もう本当に笑えて来るというか、余りにも子供じみた稚拙な内容に、更なる確信を持って嘘だとわかって来ます。

具体的には、例えば資産金額の表記が「微妙に」揺れていたり、一日に数億円儲けるにもかかわらず、数年前から資産額が20億のままというのは、相当におかしいですよね。

また、住んでいるマンションは六本木ヒルズなどの都心のマンションではなく、ある地方都市のマンションである点より、そんなに金がかからないだろう点や、親の家の建て替えを援助する費用が、何故全額ではなく、半分だけなのかという点・・・

さらに数百億の証券口座を公開している(らしい)ジェイコム男と違って、公開しているのは、何故「1億ちょっとの通帳」であるのかなどの理由が見えて、全ての話が繋がってきます。

そしてそこで思うのが、TVという影響力の大きなメディアの責任についてです。
このブログの賢明な読者の方々は別として、恐らくは多くの「数字に対する感覚」を持たない人や、TVや新聞などの「メディアを妄信する」人たちが、放送された情報を鵜呑みにして、騙されるのではないかと危惧します。

多分TV放映の影響によって、その人物のWebサイトへのアクセスも、そして情報商材の売上げも、相当にアップしているのではないかと想像しています。

こういう状況を考えると、改めて当事務所が常々主張している「多くの方のフィナンシャルリテラシーの向上」の必要性を痛感します。

別にこの放送局やこの番組に限った話ではないのですが、許認可によって公共の電波を独占し、東証一部にも上場している公の会社である以上、真偽の検証もせずに視聴率を稼ぐためにインチキを持ち上げて煽っている事に対して、その責任を痛感してもらいたいものです。

いくつかの放送局に対してこれまでに出てきた「下心満載の下品な買収者」ではなく、もっと放送局をモラル高いものに改革するという「理念を持った買収者」が現れないかと、切に願わずにはいられません。

それともそういう改革は、「愚民政策」の邪魔になるために不可能なんでしょうかね(笑)。

2007年11月8日  T.Shibuya
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 経営経験者からみた投資 第9回 「経営者・投資家の適性(3)」~何故起業するのか~

PS)
冒頭にも書きましたが、次回は「経営者・投資家の適性」シリーズに戻り、起業家の苦労などについて、自分の経験を交えて具体的なことを書きたいと思います。

PS2)
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