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ITAKURASTYLE「経済・金融関連の書籍を読んで」


このところ、経済・金融関連の書籍を読み漁っています。
読んだ中で、「これはお勧め!」というのがあれば、この場で皆さんにもご紹介したいと思うのですが、なかなか手放しでお勧めできる内容には出会えていません。
もちろん、それぞれの書籍の「すべての内容を否定しなければならない本」も無いのですが、「すべての内容を肯定すべき本」も無いという意味であって、「何の価値も無い本」はさすがに手をつけていないという意味です。
いくつかの書籍を読んだ上で、この手の書籍の「僕が感じた傾向」について書かせていただきたいと思います。
(1)メカニズムの説明は勉強になるが、持論の展開になると納得いかない場合が多い。
(2)悲観的な予測を書いている場合、いつ、どの程度のショックが発生するのか具体性に乏しい。
(3)著者が、「俺が(過去に)指摘したとおりになった!」見たいな著者自身の売り文句が目立つ文章に出くわすとうっとおしくなる(笑)
(4)経済や金融における問題点の指摘は極めて具体的であるが、解決策は全く書かれていないか、書かれていても具体性に乏しい。
(5)著者が過去に経験した「実務の範囲」については、極めて真っ当なことが書かれているが、それ以外の部分になると首を傾げたくなる内容が目立つ。
以下、ちょとだけそれぞれを詳しく・・・
(1)メカニズムの説明は勉強になるが、持論の展開になると納得いかない場合が多い。
いわゆる金融の現場で実務をこなした経験のある著者が綴る「実務現場経験から得られた経済・金融メカニズムの知識」については、極めて正確で具体的な内容の場合が多く、僕自身も大変勉強になります。
しかし、メカニズムの客観的な説明を超えて、「よって?となっていく」、とか、「だから?だと思う」と持論の領域に進むと、「えっ?」と思うことも少なくありません。
もちろん、これは、直ちに書籍に対する批判というわけではありません。
単に僕と著者の考え方の違いに過ぎないのかもしれません。
(2)悲観的な予測を書いている場合、いつ、どの程度のショックが発生するのか具体性に乏しい。
これ、「危機煽り系」の書籍に見られる傾向ですが、「大変だぁ?!」と、もっともらしく書く割には、その危機が「いつごろ」、「どの程度」発生するのかについては、一切具体的に書かれていない場合がほとんどです。
そして((3)に続く)
(3)著者が、「俺が(過去に)指摘したとおりになった!」みたいな著者自身の売り文句が目立つ文章に出くわすと、うっとおしくなる(笑)
で、そもそも過去に発表した書籍には、ある一定の経済・金融危機について、「いつごろ」、「どの程度」が書いていないので、その後に起こった事象を取り上げて、「ほら、書いたとおりになったでしょ!」という表現に繋がるのですが、かなりうっとおしい(笑)
特に最近は、いわゆるサブプライム問題が顕在化したので、それを取り上げ、「ほらね」という内容が目立つわけですが、米国や世界の経済・金融が、「めちゃくちゃのぐっちゃぐちゃ」になっているわけではありませんよね。
(本質的には、ずいぶん前からめちゃくちゃなんですけどね)
誤解を恐れずに書けば、この問題は、少なくとも直接的には経済全体というより金融部門の問題であって、(もちろん、それが経済全体に波及する可能性を否定しているわけではありません)、いわば、金融業界が、ゼロサムゲームの中で過去に「しこたま」稼いだ金の一部を損した、という現象だと、少なくとも僕は理解しています。
確かに、世界的に金融の混乱が発生していますし、各国の中央銀行(特にFRB)も、その対策を行っていますが、(その対策のおかげもあって)いわゆる大恐慌や、ブラックマンデーのような事態には、少なくとも現段階では至っていません。
(そもそも、経済は人の心が作用して動きますから、中央銀行が解決の姿勢を見せるだけで、その解決策自体の効能は些細であっても、安心感が広がるわけです。)
僕の考えでは、いわゆる巨額の「投機マネー」が利回りを求めて世界中を徘徊している関係で、たとえばある国の株価がある程度下落した段階で、さっさと資金が投入される結果、いわゆる「大恐慌」のようなことにはなっていないのだと思います。
ただし、あくまで利回りを求め徘徊するわけですから、何でもかんでも価格下落が一定のところで止まるわけではありません。
その一つが、サブプライムローン債券価格の下落です。
ある意味、「駄目なモノが駄目だと認識された」という点において、極めて健全なことだと理解しています。
まだまだ、「僕もババ引いてました!」という企業が金融を中心に出てくるとは思いますが。
(4)経済や金融における問題点の指摘は極めて具体的であるが、解決策は全くか書かれていないか、書かれていても具体性に乏しい。
これ、この手の本を読んでいて、最もがっかりするところです。
日本の財政も、米国経済の先行きも、確かに問題だらけであって、そんなことはいまや誰でもわかっているわけです。
世間が知りたいのは、「じゃあどうすればいいんだよ」ということではないでしょうか。
たとえば僕の提案する「解決策」は、広くあまねくこの国の国民に対する経済や金融の知識を伝えることが、経済・金融問題を「今よりは改善するための本質的なアプローチ」だと思っていますし、それを「細々とではありますが」実践しています。
それがどうして経済問題の解決になるのかについては、ここでは割愛します。
(5)著者が過去に経験した「実務の範囲」については、極めて真っ当なことが書かれているが、それ以外の部分になると首を傾げたくなる内容が目立つ。
いわゆる金融の現場で実務をこなした経験のある著者の場合、実務経験を基にした知識であることがその書籍の価値の高さになっているのですが、少し分野が異なると(←著者が実務経験を持たない分野になると)、とたんに首を傾げたくなる表現が多くなる。
という傾向を感じます。
これは、いわゆる「金融」という分野が、現代では極めて細分化されている(債券、株式、為替などなど)関係で、それぞれの書籍の著者が、専門分野には極めて精通しているが、経験を基にした専門性が高いがゆえに、他の分野では間違った理解をしている場合がある、ということなのだと思います。
○○投資銀行でチーフなんとかをやった経験のある著者が書いた書籍となると、それを読む一般読者の方は、金融のすべてについてよく知っていると思いがちですが、この点注意が必要だな、と思いました。
と以上のような感想を持ちましたが、それでも(一部のインチキ書籍を除き)それぞれの書籍から、新たな発見、新たな知識をかなり習得することができました。
後は、書籍によって僕が得た知識を、僕がこれまでもっている知識や経験と有機的に合体させ、または、僕が間違っていた点は修正し、僕なりの表現や活動につなげていければと思います。
これには少し時間がかかります。
このサイトの読者には、当然ながら、その結果を読んでいただけるのではないかと思います。
2007年11月9日 板倉雄一郎
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皆さんにお会いするのを、パートナー一同楽しみにしています。
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