板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「それで、どのくらい儲かるの?」

極稀に、以下のような質問を受けることがあります・・・

「板倉さんの投資パフォーマンスはどのくらいなのですか?」
「板倉さんの投資手法では、どのくらい儲けられるのですか?」

・・・明らかに愚問です。
世の中の投資に関するウェブサイトや雑誌などに・・・
「~で、~倍儲ける方法」
「投資利回り○○%達成!」
などと、イカレタキャッチコピーが踊っているからでしょうか。

上記が愚問である理由は・・・
そもそも投資におけるパフォーマンスを、
1、「どう定義するのか」
2、「どの程度のリスクをとった結果のリターンなのか」
3、「マーケット平均に対するプレミアムがどれほどであるのか」
という点が不明確なまま、直接比較することに、
ほとんど何の意味もないからです。

まずは、1の「どう定義するのか」という点について・・・

多くの場合、投資パフォーマンスを、
「投資開始時点での市場『価格』と、
       パフォーマンス判定時の市場『価格』の差を、
 投資開始時点からパフォーマンス判定時までの『時間』で除した値」
としています。
「現実的なパフォーマンス」とは言えますが、
これは明らかに「市場価格」によって導き出されるパフォーマンスであり、
このパフォーマンス判定には、「価値」の概念が全くありません。
「ミスターマーケット」にすべてを依存したパフォーマンス判定です。
(だから間違っていると言っているわけではありません。
 これも一つの判定方法ではあります。)

一方、投資家自身が捉える「価値」に着目し、
「本質的なパフォーマンス」を計るとすれば、
「投資開始時点での市場『価格』と、
       パフォーマンス判定時の『価値』の差を、
 投資開始時点からパフォーマンス判定時までの『時間』で除した値」
とするのが適当です。

この場合、
「だって売れなきゃ意味ないじゃん」とか、
「ただの思い込みパフォーマンスじゃんか」とか、
(↑=「投資家自身が捉える価値ほどの価格を、
          市場がつけなければ意味ないじゃん」)
との意見をいただきそうですが、
市場が付ける価格を「長期で観れば」、
(賢明が投資家が捉えた)価値周辺に価格は収まるものなのです。
なぜなら、
「価格以上の価値を持っている投資対象を市場は放っておかない」ですし、
「価値を大幅に上回る価格は、いずれ調整される」からです。
投資家自身が捉える価値周辺に市場価格が均衡するのを、
(余剰資金による投資であれば)待つだけのことです。
この場合、時間経過と共に価値を増大しうる投資対象であれば、
待っている間にも、価値が増大するわけですから、
何も慌てる必要はないわけです。
少なくとも、毎日証券口座の「評価損益」に、一喜一憂することはなくなります。
(↑=ミスターマーケットに翻弄されることがなくなります。)

つまり、
株価変動をテクニカルに捉える手法によって得られたパフォーマンスと、
(↑=パフォーマンスを、ミスターマーケットに依存した手法)
「価値と価格の乖離」および「時間経過による価値創造」に着目し、
投資チャンスを得る手法によって得られたパフォーマンスでは、
パフォーマンスの概念が異なるわけですから、
概念の異なったパフォーマンスの直接比較は意味がない、となります。

僕の場合・・・
どちらの手法が「正しい」とか「間違っている」とかいうことではなく、
僕の知識と経験の範囲では、後者の「価値とその創造に着目した手法」の方が、
「リスクに対するリターンが大きい」と思っていることによって、
僕自身が計る僕自身のパフォーマンスも同様に測定しているというわけです。
この考え方の下では、投資パフォーマンスを、
「10年以上の長期の『価格』と『価格』の比較を持ってそれとする」
のが妥当です。
なぜなら、長期では、価値と価格は均衡する傾向にあるからです。

(とは言え、他人にパフォーマンスを語るときは、
 取得したときの価格と、現在の市場価格の差を持って表現しています。
 しかし、それをセミナーなどの「宣伝」に利用しようとは思いません。
 したがって、
 このような場でも僕自身のパフォーマンスについて表現しません。)


次に、2の「どれほどリスクをとった結果のリターンなのか」という点について・・・

僕たち板倉雄一郎事務所が伝えている知識は、
「企業価値評価」の手法であって、「投資手法」ではありません。
ある企業の、
「一株あたりの『価値(=妥当な価格)』が今日の時点でどれほどであるか」
そして
「その価値が時間経過と共に創造されるか否か」を計る知識を
伝えているのであって、「投資手法」を伝えているわけではないのです。
よって、
この知識を基に、
「急成長は望めないが、比較的業績の安定した企業」
への投資を行うこと(=ローリスク・ローリターン)も、
「急成長が見込めるが、比較的業績のブレが大きい企業」
への投資を行うこと(=ハイリスク・ハイリターン)も、
どちらの投資も可能ですから、
投資パフォーマンスは、
上記のいずれのパフォーマンス判定手法を採用しようと、
「投資家自身のリスクの取り方にパフォーマンスは依存する」
ということになり、
「板倉さんの投資手法では、どのくらい儲けられるのですか?」
という質問が愚問であることがお分かりいただけると思います。

ただし、しつこいようですが、
「市場は、少なくとも長期では、価値に均衡する価格を付ける」
ということははっきりしています(=そうでなければ、単なるばくちです)から、
価値算定の術を身につけ、価値に基づいた投資を行うことは、
結果的に、「ローリスク・ハイリターン」を実現する手法になり得ます。

参考エッセー:
ITAKURASTYLE「リスク&リターン」
KISS第123号「美人投票」
DeepKISS第85号「評価損との戦い」
など多数。

そして、3の「マーケット平均に対するプレミアムがどれほどであるのか」
という点に関して・・・

(話がややこしくならないために、市場価格だけの話になりますが・・・)
ある期間(=割と長期)で、
マーケット全体が年平均10%伸びていた場合の
ある投資家の年率20%のパフォーマンスと、
また別のある期間(=割と長期)で、
マーケット全体が年平均5%伸びていた場合の
ある投資家の年率20%のパフォーマンスでは、
どちらの投資家のパフォーマンスも20%ですが、
後者の投資家のパフォーマンスの方が優れていますよね。
つまり、
パフォーマンスの「絶対値」の比較など、何の意味もないのです。

ちなみに、昨年(2005年)は、TOPIXが40%も伸びました。
インデックス以上のパフォーマンスを得られなかったのであれば、
個別株投資における(少なくとも資産運用上の)メリットは、
得られなかった、ということになります。

2006年10月4日 板倉雄一郎

PS:
「企業価値評価」とは、「投資手法」を指すのではありませんが、
株式投資における「ローリスク・ハイリターン」を実現する上で、
欠かせない知識です。
その上、
就職先を決めるためにも、
取引先の信用を確認するためにも、
経営判断を行う場合にも、
当然ながらM&Aの意思決定を行う場合にも、使えます。
つまり、
あらゆる経済的取引の意思決定に応用可能な知識です。
断言します。





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