板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  ITAKURASTYLE  > ITAKURASTYLE「もし僕が・・・」

ITAKURASTYLE「もし僕が・・・」

もし僕が、「上場企業の経営者」なら・・・

自分の資産の(少なくとも)9割以上は、自らが経営する企業の株式としてその資産のポートフォリオを形成します。
なぜなら、自分を経営者として選んで居る同社の株主と「目線を同じにする」ことが大切だからです。

投資家としての僕は、
経営者がその個人資産の大部分を自らが経営する企業へ投資せず、「デイトレが趣味」だとか、「他企業の株式で儲けた」だとか、「収益不動産をたくさん持っている」などという御めでたい経営者の企業には絶対に投資しません。
そもそも他人から資本を預かり、それを運営する立場の人間が、自らの資産を別の投資に振り向けているのでは、御話しになりません。
事実、こういう御めでたい経営者はたくさん居ます。
株主の中には、全財産をつぎ込んでいる人が居るかもしれないというのに。


もし僕が「上場企業の経営者」なら・・・

役員報酬は、ほとんど頂かないでしょう。
なぜなら、上記のように僕自身の資産の大部分を同社の株式で保有しているということを前提にすれば、役員報酬を経営者としての僕が受け取ると言うことは、株主としての僕が支払うと言うことであって、つまり自分が自分に報酬を支払い、そしてそれに対して「所得税」が課税されると言うことです。
だから多額の役員報酬を受け取ることは全く持って非合理的です。

バフェット氏がその昔、氏が大株主であるソロモンブラザーズが危機に陥り、「仕方なく」経営を担ったとき、彼は1年間で1ドルの報酬だけを受け取りました。
逸話となっているようですが、僕から見れば、至極当たり前のコンコンチキを彼は当たり前のように行っただけです。
当たり前を実施するだけで逸話になるんです・・・それほど当たり前はなかなか難しいことなのです。


もし僕が、「上場企業の経営者」なら・・・

IR部門に対し、
「オタクはいつになったら株式分割するんだ!はよぉーネタ出せ!」
などという御めでたい投機家からの電話をIR担当者から奪い取り、
「あなたのような企業価値破壊を期待する人には株主で居てほしくありません。
 さっさと利益確定して、他の企業へ行ってください。」
とまじめに、伝えます。

株式分割によって「買いやすくなる」ということは、すなわち、企業を理解せず安易に投機する御めでたい投機家の投機対象として翻弄されてしまうことを意味します。
リスクに対して極めて期待収益率の高い株主を迎えることは、それだけで企業価値が破壊されてしまいます。
また、そもそも発行済み株式数の増加は、管理コストを増大させ、企業価値を(わずかではありますが)確実に破壊します。最低売買価格が数百万円程度であれば、御めでたい投機家を排除でき、企業をよく知った株主によって構成されることになります。
結果、企業価値の最大化の一つの手段となりえます。

投資家としての僕は、
最低売買価格をことさら下げるような「大幅分割」によって、御めでたい投機家に媚びるような経営者には絶対に投資しません。
御めでたい方々に自分が混じってしまえば、自分の資産価値も破壊されてしまうからです。


もし僕が「上場企業の経営者」なら・・・

「株主様のために・・・」とか、「お客様のために・・・」とか、間違っても表現しません。
なぜなら、自分を選んでいる株主のために、企業価値ひいては株主価値の最大化のために行動するのは当たり前のことですし、また、企業価値の最大化のために「売上」を提供してくれる顧客にとって価値ある商品を提供するのも、さらにまた、そのような素晴らしい商品を生み出す従業員や、原材料を提供してくれる取引先を大切にするのも、「当たり前」のことだからです。
価値ある商品や、企業価値の最大化によって、すべての利害関係者の便益を最大化するだけです。

投資家としての僕は、
上記のような「当たり前」をことさら主張する経営者を信用しません。


もし僕が「上場企業の経営者」なら・・・
企業経営になど全く理解も経験も知識もない「総会屋もどきファンド」の関与を受けないように、株主価値と時価総額の均衡に神経を使います。
使い道のない余剰資金があれば配当し、
ただし割安の状態であれば、自社株買いを実施し、
割高になれば、「当社の株価は不当に安く評価されていない」とアナウンスし、
資本調達コスト以上の投下資本利益率を得られる投資対象があれば、配当を行わず再投資を実施し、
可能な限りのディスクローズによって、常に資本市場からの信頼を得ることによって、資本調達コストの低減に努めます。

投資家としての僕は、
以上の理屈を理解できていないようなオペレーションをする経営者を、経営者だとは思いません。
しかし、経営者ではない経営者がたくさん居ます。
残念なことです。

その原因の一つに、投資家ではない(自称)投資家が資本市場にたくさん居るからです。
株主が御めでたければ、経営者も御めでたくなり、
経営者が御めでたければ、集まる株主も御めでたいのばかりになります。
そのような企業は、他の利害関係者も御めでたい人ばかりになってゆきます。
一度、その企業の利害関係者が御めでたい人ばかりで構成されてしまえば、それを正すのは至難の業です。

ワインで満たされた樽の中に、たった一適の汚水が入れば、
樽の中身は汚水になってしまいます。
汚水で満たされた樽の中に、どれほどワインを注ぎ込んでも、
汚水は汚水です。

自分自身が汚水なのかワインなのか、
それを常に検証することが第一歩です。
検証が正確に行われるためには、
十分に広範囲な知識と経験を要します。


もし僕が「父親」になったなら・・・
子供には、自分のすべての知識、考え方、思想を伝えたいと思います。
その上でどのように行動するかは、喩え自分の子供であっても、子ども自身に任せたいと思います。

2006年5月18日 板倉雄一郎

PS:
本日は、兵庫ニューメディア推進協議会主催の講演のため、新幹線で神戸まで往復です。
新幹線の中は、どういうわけか物事を考えるのに最適です。
行きは講演の内容を考えるために、帰りは講演の間に得られた体験を思い出し、そこから何かを得るために妄想します。
それが明日以降の活動の糧になります。

PS^2:
「寄生虫」は、自らが生き延びるために、寄生する母体を蝕みながら肥えてゆきます。
しかし、ひとしきり蝕んだ後は、母体が痛むため、次なる寄生対象を探します。
あれ? どこかの「配当よこせ!ファンド」の行動そっくりですね(笑)
寄生虫には、そのうち居場所がなくなるでしょう。
そもそも「株式小僧手法」で通用する運用額はせいぜい1000億円以下です。
それを超えた額を運用するには、オペレーションと企業価値に対する理解が必要になります。
一度も経営をしたことがないメンツによるファンドには無理な話でしょう。





エッセイカテゴリ

ITAKURASTYLEインデックス