板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「リクエストに答えて(1)新興国への投資」

先日の「書いて欲しい事募集!」に関して、たくさんの読者の方から具体的なリクエストをいただきましたので、今回から数回、「リクエストに答えて」と称して、読者からのリクエストに答えた内容をエッセイとして記載したいと思います。
今後も、読者からのリクエストが続く限り、このスタイルでの記述を続けたいと思いますので、書いて欲しい事がある読者の方は、「具体的に」お知らせください。
よろしくお願いいたします。
初回の今回は、寄せられたリクエストがどのような内容だったのかに続き、その中のひとつ「新興国への投資について」を書かせていただきたいと思います。
<読者から寄せられたリクエストの大まかな内容>
リクエスト(1)ベンチャーについて書いて欲しい
このような意見、意外と多かったです。
たとえば・・・
「社長失格の板倉雄一郎として、その後について書いて欲しい」
「ファイナンスの話も面白いが、ベンチャー経営について、たとえば板倉さんが投資したいと思うようなベンチャーはどんなベンチャーなのかを書いて欲しい」
そんなリクエストでした。
確かに僕が再起を果たすきっかけになったのは「社長失格」という書籍の出版でしたし、そもそも現在の企業価値評価セミナーを中心にしたファイナンス教育事業をスムーズに開始できたのも、(失敗ではありましたが)企業経営の「経験」が僕をして、学者が行う理論のための理論では無く、「現実的、実践的なファイナンス教育」を実現させたのだと思います。
たとえば、「企業は誰のもの?」と言った議論が盛んに行われた時も、
「企業はモノではなく、利害関係者の価値交換を通じて価値を創造するシステム(=仕組み)に過ぎない。よって、誰のモノかを議論する意味は無い。
企業価値とは、それにかかわるあらゆる利害関係者の立場によって異なるが、仮に投資家(=株主+債権者)から観た企業価値に限定したとしても、それを最大化するためには、投資家を含む利害関係者すべてが当該企業との取引に満足し、継続的な取引を望む場合に、当該企業の企業価値は最大化する。」
といった意見を打ち出すことができたのも、僕自身が経営者としての経験を持っていたからに他ならないと思います。
そんな僕の起源であるベンチャーについて書け、ということなので、今後、「具体的なリクエスト」があれば、喜んで書きたいと思います。
リクエスト(2)((1)とだぶりますが)起業について
これも多かったです。
「起業の手がかりは何か?」
「どこからはじめればよいか?」
「何を学習すればよいか?」
といった企業に関する初歩的なことから、
「どんなことに注意して経営を続ければよいか?」
「拡大を盲目に求めるべきなのか?」
といった現経営者からのリクエストというより質問がありました。
これらについては、書きたいことがたくさんあるので、ベンチャー&起業について、今後書期待と思います。
リクエスト(3)どこに投資すればいいか
これ、やはり一番多かったです(笑)
特に、「米景気衰退と新興国発展の狭間で資金をどう運用すればよいか」という質問がその大部分でした。
たとえば・・・
「中国株投資信託の実績が高いが、中国の株価は既に高すぎるのではないか」
「新興国(BRICs、VISTA)が、(マーケットとしての)米の後を継ぐことができるのか」
などです。
今回は、このリクエストに、資産運用の面から(初回ですので)ものすごくカンタンに、お答えしたいと思います・・・
<新興国への直接投資にちょっと待って!>
新興国の経済規模が、現在の米国と同じ程度になるか、米国を上回るのかについての言及は避けますが、いわゆる新興国の国土(=地理的経済資源の有無)、人口(=稼動人口の増減)、教育水準(=学力ではなく実質経済教育)などをざっくり評価すれば、成長する可能性が非常に高いといえるでしょう。
すると、誰もが「じゃあ新興国に投資しよう!」という結論を導き出す傾向があると思いますが、僕は、「ちょっと待ってよ」と思います。
確かに、このような「直接的な資産運用」は、中国株への投資実績が示すように、「少なくとも現在までは十分なリターンがある」といえると思います。
しかし、そのリターンの影には、当然ながら「リスク」が伴います。
この10年ぐらいの期間は、たまたま、「リスクの上ブレ」が顕在化したのであって、今後も永遠に「リスクの上ブレ」が続くとは限りません。
中国企業のバリュエーションを業務として実際に行ったある投資銀行マンから直接聞いた話ですが・・・
日本企業がある中国企業に投資を実施しようとした際、当然ながらいわゆるデューデリジェンスを行いました。
そのとき発覚したこととして、「前期期末の現預金残高と、今期期首の現預金残高が数十億円ずれている。」という通常では考えられない会計が行われている例などがあったそうです。
その数十億円は、役員が持ち逃げしたことが後に発覚し(笑)、そもそも投資にはいたらなかったそうですが、このようなことが「しょっちゅう」あるらしいのです。
(注意:中国企業のすべてがインチキだ、と言っているのではありません。)
現在は、中国全体の成長の勢い(GDPで年率10%近い成長)の中で、このような「些細なこと(笑)」は、大きな問題に繋がっていませんが、成長が鈍化した時(←それはずっと先のことかもしれませんが、もしかするとオリンピックの直後かもしれません)には、投資家にとっての重大な問題として経済的なショックに繋がる可能性を否定できません。
以上のような「リスク(=不確実性)」を十分に認識し、その上で高いリターンを求めるということであれば、新興国への直接投資を否定しません。
当然のことながら、リスクをとらなければリターンは得られないわけですから。
しかし、少なくとも僕の資産運用に関する考え方は、たとえ新興国の経済が著しく成長すると予測したとしても、新興国への直接投資を行う考えはありません。
その場合でも、やはり「日本企業(=日本国家に税金を納め、利害関係者の大部分が日本で暮らす人で構成され、日本の株式市場に上場している企業)」に投資することが、リスクとリターンのバランスが良いと思っています。
なぜか・・・
諸外国の経済活動をよーく観察してみてください。
彼らの活動(大規模公共事業であれ、民間のメーカーであれ)、いわゆる「ブランド」と、いわゆる「ソフトウェア」以外の「モノ」に関しては、日本企業の技術が必ずと言っていいほど生かされています。
つまり、新興国の経済発展の影には、常に日本企業の存在があるわけです。
言い換えれば、新興国の経済発展によって日本の「輸出産業」の成長が維持される可能性が高い、といえるわけです。
戦後、日本の経済は、米国という「顧客」の存在によって成長しました。
仮に米国の経済が失速したとしても、その分を新興国がカバーできるとすれば、やはり継続的に日本企業の収益に結びつくと思うのです。
(↑ このフレーズには、「その分を新興国がカバーできるとすれば」という仮定が含まれて居ますが、そもそも「新興国が今後いける!」という前提の方へのアドバイスですので、上記仮定は問題ないと思います。)
日本企業というか、日本そのものにもリスクはあります。
特にいわゆる「政府財政」です。
「国家破綻」なる、経済的な知識の無い方による「危機煽り系」のまったく理屈の通らない主張を聞くことがありますが、いわゆる日本の借金というのは・・・
(1)自国通貨建て(=円建て)の国債発行である
(2)債権者(=国債保有者)の大部分が日本人である
事から考えて、将来の過大なインフレ圧力ではありますが、国家が破綻するような事態には成りえません。
(カンタンな話、一家計において、母ちゃんが父ちゃんに金を貸しているに過ぎませんから、家計全体が破綻することにはならないのです・・・実際の家計の場合、離婚という問題はありますが(笑))
それでもインフレは資産運用の最も怖い敵であることに違いありません。
よって、「固定金利の債券」、や、「現金やそれに近いカタチ」での資産保有はまったくいけてません(笑)
一方で、
(1)あらゆるコストを商品価格に転嫁できる企業の株主になること
(2)外貨での資産保有
は、将来起こりえる日本円のインフレに対して効果的です。
以上から、
(1)日本国における経済的リスク(=インフレ懸念)を回避し、
(2)新興国の経済成長によるリターンを得ることができ、
(3)言葉も通じない新興国への直接投資のリスクを軽減できる
のすべてを満足できる投資先が、「真っ当な経営を行っている日本の輸出企業」なのだと、少なくとも僕は思っています。
以上読者の皆様の参考になれば幸いです。
今後も、読者の皆様からのリクエストに答える形でエッセイを記述したいと思います。
リクエストは、こちらから。
2007年10月17日 板倉雄一郎
PS:
とはいえ、先日書いたとおり、「真っ当な経営」を行う企業は、現時点で割高の場合が多いんですよね。
トホホです。





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