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ITAKURASTYLE「ソフトバンク、携帯事業を証券化」

本日(2006年9月26日)の日経朝刊一面に、
「ソフトバンク 携帯事業を証券化 1兆4500億円調達」
という記事があります。

携帯事業部門のキャッシュフローを担保にした証券を新たに発行し、
「ソフトバンクが債務者」である場合の信用より、
「携帯事業そのものが債務者」である信用の方が、
収益の安定性が得られるので、信用リスクが低いことから、
「ソフトバンク本体から、リスクを分離して調達を行う」
というわけですね。

この資金調達(=借り換え)における、
「ソフトバンクの企業価値」ひいては、
「ソフトバンクの株主価値」について、
せっかくですから、コメントしたいのですが、
この証券の詳細な条件を把握しない限り、コメントのしようがありませんので、
しばらくお待ちください。

それまでの間、是非以下にて、基本情報をお読みください。
DeepKISS第79号「ソフトバンクのボーダフォン買収」

2006年9月26日 板倉雄一郎

PS:
日経の記事の中には、(また無理して解説なんか付けるものだから)
「通常の借り入れより低利での資金調達が可能で、
 買収に伴う利払い負担の増加を抑制する狙いがある」
なぁ~んて、安易に書いちゃってるわけです。

実際には、
「利払い抑制」に話を限定したとしても、
一方で、携帯事業の生み出すフリーキャッシュフローの一部を、
今回の証券の持ち主に帰属させなければならないわけですから、
(その程度や条件がわからないので、詳細分析ができないのですが)
利払い抑制の一方で、
携帯事業のフリーキャッシュフローの帰属先が、
ソフトバンクの「株主と(残る)債権者」だけではなくなってしまうわけです。

つまり・・・
携帯事業のフリーキャッシュフロー(=FCF)の一部が、
今回の証券保有者に移転することによって、
ソフトバンク「本体の投資家」に帰属するFCFは減少し、
したがって(WACCに変化がなければ)、
ソフトバンクの投資家から観た企業価値は減少します。
しかし一方で、有利子負債も1兆4500億円ほど減少するので、
「企業価値の減少分」 < 「有利子負債の減少分」
であれば、ソフトバンクの株主価値は増大しますが、
「企業価値の減少分」 > 「有利子負債の減少分」
であれば、ソフトバンクの株主価値は減少し、株主が毀損されます。
どちらに転ぶかは、この証券の「条件」を見て見なければ、
判断できません。

また、WACCの推計においては・・・
1、DE比率の変更が行われる。
(↑ 有利子負債の返済によってイクイティー比率増加)
2、DE比率の変更も、
  「この証券のソフトバンクによる保証の内容」に依存する。
3、同時にKe(=株主資本コスト)も、
  資本レバレッジの変更および、
  今回のオペレーションによる市場から見たリスク認識に変化
  などによって変化が生じる。
などなど様々な「動的変化」が推測されるので、簡単ではありません。
ざっくりとは、有利子負債の返済によって、
イクイティー比率が増加しますので、
有利子負債コストの税効果が薄れ、WACCの上昇圧力になりますが、
一方で、ボーダフォン買収時に、
「そんなに負債抱えて大丈夫かよ!」と思っていた株主のリスク認識が、
今回のオペレーションで低下する事によってKeが減少することが、
WACCの下落圧力にもなりえますので、
上記の「企業価値の減少分」と「有利子負債の減少分」の比較には、
WACC一定との仮条件をおきました。

以上、ちと難しいな・・・合宿セミナー卒業生やMBAホルダー向けです。
ごめんなさい。

経済ってのは、「どこか一箇所だけ変動」なんて事がないのです。
「あちらをいじれば、こちらも変わる~こちらが変わったので、あちらも変わる」
そのループを頭の中で描けなければ、理解とは言えないわけです。

(独り言)ほんと、日経って、安易過ぎますね。
ってか、「買い推奨」な感じの記事ですね・・・(意味深・ちょうちん臭い)

さらに、このトップ記事の解説にあたる11面の記事も面白い。
日経は、いつまで経っても、
「資本コストは有利子負債だけ」だと、思っているようです。





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