板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「第三春美」

(新連載BTBの開始に伴い、ITAKURASTYLEは、
 ITAKURASTYLEらしく、僕の個人的なことを書きます。)

昨日(2006年10月19日)は、久々に新橋は「第三春美」鮨。
2004年初頭に、原宿のマンションを引き払い、
現在暮す千葉県船橋市(←実家)に越してからというもの、
よほどのことがない限り都心には出かけなくなり、
よほど気にいったデート相手でもなければ、
「あの素晴らしく美味な第三春美でお食事を!」とは思わなくなりました。

なので「久しぶり(の第三春美)」となったわけです。
(同伴者が仕事相手なのか、
 はたまた「よほど気に入ったデート相手」なのか、
 その辺のところは、ご想像にお任せいたします。)

この店に行った人が、最初にカンドーするのは、なんといっても、「煮あわび」。
季節によって、「黒あわび」だったり、「マダカあわび」だったりするが、
どちらも、ちょびっとだけ塩を付けていただく。
厚めに切った煮あわびは、誰もが「飲み込むのが惜しい」と思うはず。
ひたすら美味。

次なるは、今が旬の「戻り鰹」。
脂の乗ったこの季節の鰹はたまらない。
大将曰く、「鰹の目利きほど難しいものは無い」らしい。
普通、魚はその外見が丸々太っていれば、おおかた脂が乗っている。
が、鰹はそもそも丸々太っているので、
「丸々太っている=脂が乗っている」とはかぎらないらしい。
魚の味と風味を壊さない特製ポン酢でいただいた昨日の焙りたて鰹は、
舌の上で、とろけ、風味が広がり、あっという間に無くなった。
素晴らしかった。

さらに、「カワハギ」。
多くの鮨屋では、肝をポン酢で溶かし、身のタレとするが、
この店のタレは、一味違う。
肝をポン酢で伸ばしている、とは言うが、
ポン酢の強さをほとんど感じないぐらい「良く濾された肝」そのもの!
このタレで一度でもカワハギを食べたら、
ポン酢に、申し訳程度に入れられた肝のタレではいただけなくなる。
淡白な身と、この素晴らしいタレでいただくカワハギは、
なんつーか、とにかく「日本酒」が合う。
残念ながら、車だったので、
連れが美味しそうに飲むこの店特製の「梅錦」の香りだけを楽しんだ。
(銘酒「梅錦」の酒蔵に、この店専用の「樽」があり、
 その「樽の香り」は、この店でしか堪能できない。)

その後、横須賀沖のアナゴ、イクラの醤油漬け、北方領土のウニ、
大間のマグロ(実は大間の津軽海峡を挟んだ北海道側のマグロ)は、
中トロをいただいた。
冷凍されない近海マグロは、冷凍モノに比べ、「風味」がまるで違う。
口いっぱいに、新鮮なマグロの風味が広がった。
(新鮮とは言え、魚は熟成させて始めて本来の旨みが生まれる。
 昨日のマグロは、14日間熟成。)

と、長くなりましたが、なにが言いたいのかといえば、「物流のルックスルー」。
この店が、常に良質の食材を調達できる理由は、
「魚河岸との継続的な良い関係」を築いているからに他ならないわけで、
その良い関係は、大将が、
「品質の良い食材であれば常に一定量を仕入れる」からであり、
大将が、良質の食材を仕入れることができるのは、
「(食材に関する)仕事の価値がわかる常連客の存在」
を抜きには、語れない。
つまり、「客=店=魚河岸=漁協や猟師」相互の信頼が、
結果的に、僕たちがこの素晴らしい鮨をいただける根源的理由であって、
それは同時に、「顧客も店の経営の一員である」ということの証でもあります。

いつも書いていることですが、
企業とは、その利害関係者(=顧客、取引先、従業員、債権者、株主)が、
それぞれの持つ価値(=売上高、原材料、労働力、資金)を持ち寄り、
その価値を増大させ、再び利害官営者に配分するための
「人の集団としての仕組み」です。

「良いモノは、それなりの価格で引き取ってくれる」とか、
「悪いモノを、良く見せようとしても見破られてしまう」とか、
「あの企業からモノを買えば、価格以上の価値がある」とか、
「あの企業の株主価値は、放って置いても時間経過と共に増大する」とか、
そういった「人と人の信頼関係」を基に、
それぞれの利害関係者にとっての「その企業の価値」が最大化するわけです。
そして、「相互の信頼」は、そう易々とは築けないものなのです。
IT系新興企業の「急成長」など、僕には危うくしか見えないのです。
魚でも、人でも、企業でも、時間経過による熟成はとても大切なことなのです。

この店の場合、大将の魚にかける情熱(←大将自ら魚に関する本も出版)と、
その人柄が、長い時間経過と共に、
この店の継続的な信頼を保っているのでしょう。
(余談ですが、この大将、早稲田大学商学部卒だったりします。
 さらに予断ですが、
 僕の失敗した結婚の結婚式にも、いらしていただきました。
 「大将、せっかくいらしていただいたのに離婚してしまってごめんなさい」)


21時、場所をお台場のホテル日航東京のラウンジに移し、
僕は、「ノンアルコールカクテル」で飲んだ気になり、
飲酒運転(のつもり)で、お行儀良く連れを自宅に送り、帰宅。
(あら、連れがどんな種類なのかばれちゃった)
彼女からのお礼は、「お鮨美味しかったね!」だとさ(笑・えっ、それだけ?)

至福の第三春美の夜でした。

2006年10月20日 板倉雄一郎

PS:
20代後半の彼女は、僕のことを「おじさま」と呼ぶ。
ああ、時間経過と共に、「若さの価値」は失われていく。
失われた若さの価値以上に、知識や経験としての価値を増大させれば、
トータルの人の価値(=若さ+知識や経験)は、増大させ得る。
最初「おじさま」と言われたときは、かなりショックだったが、
もう慣れた(笑)

PS^2:
本日は、毎月定例の「パートナーミーティング」。
ついでに、「セレクテッドエッセイ」のコーナーで流す動画も撮影します。
アップは、来週になりますので、お楽しみに。
また、パートナーエッセーもスタートしています。
週末もエッセーがアップされますので、是非このサイトにいらしてください。

 





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