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ITAKURASTYLE「真っ当な株式投資を書いた理由②」

早くも同書に関するコメントを、ネット上で読むことができました。
それらのコメントの中で、同書の内容に関する「典型的な誤解」がありましたので、その誤解を説く形で「真っ当な株式投資を書いた理由②」とさせていただきます。

典型的な誤解・・・
「長く持っていればいいわけじゃないだろ!」とか、
「一体どれぐらいの期間が長期なんだよ!」といった、
「株式保有期間の長短」について私達が主張しているという誤解です。

同書で私達が知識や経験から主張していることは、
「株式をひたすら長く保有しよう!」とか、
「(いわゆる)アホルダーになろう!」などの
「株式保有期間を長期にすることが真っ当だ」ということではありません。
私達が同書にて主張していることの「ひとつ」を一行で書けば、

「価値を把握できない対象に大切なお金を投じることは合理的ではない」

ということです。

経済的取引において、その価値を増大させるためには、
「支払う価格以上の価値を手に入れる」という条件が必要です。
つまり、
「価値 > 価格」での取引が求められるわけです。
株式投資の場合であれば、
「一株あたり株主価値 > 株価」の取引ということになります。
(売る場合には、以上の逆の条件が必要となります。)

「価格」については、誰でも簡単にわかります。
株式であれば株価、商品であれば値段として明示されるわけですから誰でもわかります。
しかし、
「価値」、とりわけ「株価」を担保する「株主価値」となると、
それなりの情報、知識そして経験なしに把握することはできません。
価値を把握できない対象に、明示された価格を支払うということは、
「価値 < 価格」という馬鹿げた取引を行っている可能性を否定できないということになります。

「そんな馬鹿げた取引ではあなたの財布の中身は、増やせない、守れない。」
というのが、私達の主張です。

実際のマーケットでは、
「どんな将来業績を予測したとしても、その株価、ありえないでしょ!」
(↑ 「一株あたり株主価値 << 株価」)
という株価が日々形成されています。
価値を把握できない方々の「綱渡り」、または、
価格変動にだけ着目した「値幅取り」という「ババ抜きゲーム」の結果です。

しかし、
「価値 > 価格」、または、「価値 < 価格」が形成されるということは、
すなわち、
「マーケットにおいて、価値と価格は常に均衡しているわけではない」
ということを示していますから、
「価値 > 価格」の投資チャンスが得られたとしても、
後に、
「価値 ≒ 価格」、または、「価値 < 価格」という、
「利益確定に都合の良い状態」が必ず形成されるとは限りません。
特に、1年以内などの「短期」では、その傾向は顕著です。
よって、
「価値に根ざした投資活動」によって利回りを得るためには、ミスターマーケットが株主価値に気付き、それなりの価格を付ける時を待たなくてはなりません。
あるときは数年という単位で、ミスターマーケットが真っ当な価格をつけるまで待たなければならない場合もあります。
(同様に、「価値 >> 価格」の投資チャンスも、場合によっては何年も待たなければならない場合もあります。)

もし、投資しようとする対象が、魚や果物のような「時間経過によって価値が減少する」生ものだとすれば、その価値はあっという間に、激減してしまいますから、「価値 > 価格」の投資チャンスが得られたとしても、「価値 ≒ 価格」を気長に待つわけにはいきません。
だからこそ、
「時間経過によって価値が増大する対象」を投資対象として選定することが大切なわけです。

ちょっと難しくなってしまいましたが、以上をまとめると・・・

真っ当な株式投資とは、
1、時間経過によって価値が増大するであろう企業を見る目を持ち、
2、その企業の株価が、「一株当たり株主価値 > 株価」となるのを待ち、
3、2の投資チャンスが得られれば、最大限そのチャンスを生かし、
4、後は時間経過による価値増大を、「しっかり経営を監視しながら」待つ。
ということになります。

「時間経過と共に価値が減少する場合」または、「価値 < 価格」の場合には、
「信用売り(カラウリ)すればいい!」という意見も聞こえてきそうですが、
信用売りには残念ながら「期限」があり、
その期限内に価値と価格の裁定が働くとは限らない、という点。
および、
「現物買い」の最大損失が「投資した資金がゼロになる」であるのに対し、
「信用売り」の最大損失は「(理論上)無限大」であることを考慮すれば、
一般個人投資家には「信用売り」をお勧めしません。
実際、「売り」を専門とするヘッジファンドの「情報収集力」、「価値算定能力」および「マーケット動向の見極め能力」は、極めて優れています。個人投資家の手の届くレベルではありません。

以上から、
私達の主張する「価値に根ざし、時間を見方につけた真っ当な投資手法」は、
長期で保有する場合が「結果的に」多くなるだけであって、
決して、株式を長く持つことそれ自体を「真っ当だ」と主張しているわけではありません。


「そんなに気の長い話には付き合ってられない!
 俺は今の金が欲しいのだ!」」というご意見が聞こえてきそうですが、
そんな方は、そもそも株式投資などせず、しっかり働けばいいのです。
同書の冒頭でも書いている通り、投資とは、
「現在の確かな金を差し出すことによって将来のキャッシュフローを得ること」ですから、今の金が欲しければ、投資などしなければよいわけです。

考えてみてください、他人が何か事業を始めようとしているとき、その事業の中身も、その人物のことも知らず、大切な資金を投じることはしないでしょう。
株価を差し出すことによって得られる「価値」がなんであるか把握せず、ただ「価格変動」を追いかける行為を、少なくとも私達は「投資」とは呼べないと思います。
そんな「博打」で、長期間、常にプラスのパフォーマンスを得られることなど無いわけです。

確かに、
「価値を無視した短期の価格変動による値幅取」は、私達の主張する真っ当な株式投資手法におけるパフォーマンスを上回ることがしばしばあります。
しかし、
そのパフォーマンスは、過去の特定のある一ヶ月とか、ある一年とかの投資パフォーマンスに過ぎず、翌年にも同じ程度のパフォーマンスが得られる手法であるかどうかは定かではありません。
そんな「うまくいったことがある」程度の博打に、人生の大切な時間や大切な資金を投じることは馬鹿馬鹿しい、と私達は主張しているのです。

私達は、この本を手に取り読んでいただいた読者の方々の「お財布の中身」を心配しているのです。

参考エッセー:DeepKISS第85号「評価損との戦い」
(↑ このエッセーは、本日のエッセーの参考になるはずです。)
さらに、左フレーム「サイト内検索」にて、たとえば「価値と価格」などのワードで検索いただければ、たっくさん参考エッセーが出てきますので、ご参照ください。

2007年3月28日 板倉雄一郎

PS:
以上の内容は、私達が同書を通じて伝えたいことの「一つ」であって、
「すべて」ではありませんので、次回以降も「真っ当な株式投資を書いた理由」について書きたいと思います。





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