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企業と法律 第10回「出資法」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
みなさん、こんにちは。板倉雄一郎事務所パートナーのMoriです。

今回のテーマは、「出資法」です。

出資法という法律は、少し耳慣れないかもしれません。今日は、この出資法の内容と出資法にまつわる話を見ていきたいと思います。出資法を見ていると、「歴史は繰り返す」という格言を思い出さずにはおれません。

1.出資法の歴史
日本の歴史において、次のような事件がありました。

【事件1】
「○×会は、出資金に対し元本を保証するとともに、月2%の利益配当を約束し、全国規模で一般大衆から資金を集めた。○×会は、約15万人の加入者から約45億円を集めたとされている。」

【事件2】
「△&□は、100万円預けると3カ月ごとに9%の配当を支払うと約束し、また、独自の通貨と称して「☆☆」を発行し、その通貨は年100%の利子がつくと謳い、資金を集めた。△&□は、約5万人から1000億円前後を集めたとされている。」

事件1は、保全経済会事件と言われる事件です。昭和24年から昭和28年にかけて活動した経済保全会という会が、昭和28年6月に休業せざるを得なくなり、結局倒産して多数の被害者を出した事件です。
事件2は、最近話題になった「円天」事件ですね。

保全経済会事件と円天事件を比較すると、確約された配当が年24%か年36%かという違いがある他、首謀者の説明はそれぞれ異なり、特に円天事件では円天という独自の電子マネー(ポイント)が利用されているというところが現代的のようではありますが、本質は全く変わりません。元本を事実上保証して人々を安心させ、高額の利子で人々を魅惑して資金を集め、利子の支払ができなくなったところで、破綻するという点は全く同じです。このような事件は、枚挙に暇がありません(近未来事件については、こちらをどうぞ)。

保全経済会事件では、同会の理事長が詐欺罪で懲役10年の刑に処せられていますが、実は、この保全経済会事件を一つのきっかけとして、出資法は誕生しました。保全経済会事件において、詐欺罪では全ての出資金受け入れ行為を対象とすることができなかったのが大きな理由です。

詐欺罪は、資金を集める段階で、「欺く意思」がなければ、「故意」がないため成立しません。従って、健全に収益を上げるつもりであれば、欺く意思があったとはいえない(=検察官が欺く意思があったことを証明できない)ことになります。実際に、保全経済会事件では、「保全経済界の業態が事業として成立しうるものと主観的に信じていた」時点では、「欺く意思」があったとはいいがたいとし、「自転車操業すら不可能になっていた実情があったにもかかわらず、出資金の受入を続行している」時点を捉えて、故意(未必の故意)があるとしています。

2.出資法の概要
このような経緯で日の目を見ることとなった出資法とは、どのような法律でしょうか。
出資法は、正確には、「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」といいます。
文字通り
(1) 出資の受入れ
(2) 預り金
(3) 金利等
を取り締まっています。出資法違反は、いずれも刑事罰の対象となります(※1)。
誤解をおそれずにいえば、
(1)は、出資なのに、元本を保証するのは禁止!
(2)は、銀行等でもないのに、預り金をするのは禁止!
(3)は、暴利での貸付は禁止!
ということになります。
以下、少し詳しく説明します。

【(1)出資の受入れ】
「不特定且つ多数の者に対し」「後日出資の払いもどしとして出資金の全額若しくはこれをこえる金額に相当する金銭を支払うべき旨を明示し、又は暗黙のうちに示して」、出資金を受け入れることは禁じられています。本来、「出資」は、元本の払戻しが保証されないものですが、元本を払い戻すことを謳って、不特定多数の者に対し出資を募ることは違法とされています。当然ですが、会社の新株発行等、通常の出資を受け入れることは問題ありません。これらは元本の払戻しが保証されておらず、出資者、発行者ともその点を了解していることが明らかだからです。

【(2)預り金の禁止】
法律上、「預り金」とは、不特定かつ多数の者からの金銭の受入れであつて、以下のいずれかに当たるものをいいます。
(i) 預金、貯金又は定期積金の受入れ
(ii) 社債、借入金その他何らの名義をもつてするを問わず、前号に掲げるものと同様の経済的性質を有するもの
銀行等、法律に特別の規定のある者は、対象外です。
「預り金」は、最初から元本返還を法的に認める形でお金を集めることです(※2)。通常の借入れも最初から元本返還を法的に認める形になりますが、不特定かつ多数の者からの金銭の受入れではありませんので、「預り金」には該当しません。

【(3)金利等の取締り】
上の2つ以外に、出資法には、主に、浮貸し等の禁止、金銭貸借の媒介手数料の制限、高金利の処罰が定められています。
このうちの高金利の処罰とは、年109.5%を超える割合による利息で(業として金銭の貸付けを行う場合、年29.2%を超える割合による利息で)、金銭の貸付けを行ってはならないという規定です。
利息制限法では、
金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約は、その利息が左の利率により計算した金額をこえるときは、その超過部分につき無効とする。

元本が10万円未満の場合・・・・・・・・・・年20%
元本が10万円以上100万円未満の場合・・・年18%
元本が100万円以上の場合・・・・・・・・・年15%
とさだめられており、
出資法:年29.2%(貸金業者の場合)--→刑事罰
利息制限法:年最大20%---------→民事上無効
という「効果」の違いがあるため、この対象となる金利の「差」については、「グレーゾーン金利」といわれていました。法改正により、この「グレーゾーン金利」は近い将来になくなることが決まっています。

出資法は、このように一般大衆が騙されないよう、高利業者に搾取されないように制定されたものです。皆さん、お気づきのように、「少し考えればそんなのにはひっかからないよ」といいたくなる行為ばかりが対象になっています。

年率24%とか、年率36%等といった利息を、「確実に」配当する等ということは、リスクとリターンの関係から言っても、「ありえない」ことであり(※3)、また、一方で、29.2%近くで借入をした場合、それを超える利回りで資産運用をしない限り、その借入を維持したままでは、破綻することが目に見えています(会社でいえば、企業価値がどんどん破壊されていきます。)。

ただ、いつの時代も、同じような事件が起こるものです。上の2つの事件は、いずれもいわゆる「マルチ商法」的な手段で「会員」を広めていましたので、騙されている人が騙されていることに気付かずに、身近な人を詐欺的行為に巻き込むことになります。自らのファイナンシャルリテラシーの欠如、そして、法律の知識の欠如によって、自らの貴重な資産である「お金」を失うばかりか、周りの人を「犯罪被害者」として犯罪に巻き込んでしまうこともあるのです。

絶対安全、確実な資産運用など、ありません。経済的には、「ありえない」のであり、法律的には、「違法」なのです。

※1 刑事と民事の違いについては、「民事裁判と刑事裁判」(を参照してください。

※2 「出資」と「預り金」の区別は、法的に当初から返還義務がない(停止条件付返還義務も含む)か、当初から返還義務があるかという点にありますが、いずれも法定刑は同じであり、区別する実益はほとんどありません。

※3 このような高い配当に匹敵するようなパフォーマンスを出しているバフェット氏ですら、「確実に」資産が増えること等投資家には約束していないと思います。高いリターンを得るためには、高いリスクをとるか、一般的にはリスク(不確実性)が高いと考えられているものを、自分の努力や調査によって、自分の中で受入れ可能な程度までリスク(不確実性)を下げるしかありません。

P.S. あるテレビ番組で、円天市場を企画、運営していた会社の社長が、私の考えに賛同してくれている人のみが対象なので、「不特定多数」ではなく、「特定多数」であるので出資法には抵触しないという趣旨の発言をしていました。こういう「屁理屈」や「言い訳」は、法律の世界では、全く通用しません。
参考文献:齋藤正和著「出資法(改訂版)」(青林書院)

(注) 本エッセイは、具体的な案件についてのアドバイスではありませんので、現実の具体的案件については法律や会計の専門家にご相談下さい。

2007年10月16日  M.Mori
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