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企業と法律 第26回「株主総会の裏側」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

みなさん、こんにちは。板倉雄一郎事務所パートナーの森です。

先週は、株主総会ウィークでした。Jパワーを筆頭に、株主提案が否決されたようです。これは、一般株主の意見が反映された結果なのでしょうか。株式の持ち合いのおかげなのでしょうか。一つ一つを調査したわけではありませんが、株主の持ち合いもおかげも随分とあるのではないかという気がします。

ここで、株式持ち合いを少し考えてみたいと思います。シンプルな持ち合いを相互に行った場合、25%を超える株式を一方が持つともう一方は議決権を行使できなくなります(会社法第308条第1項)。

すなわち、A⇔Bという持ち合いの場合に、AがBの株式の議決権の25%を保有してしまうと、Bは、持っているAの株について議決権を行使できなくなってしまいます(BがAの親会社であるような場合は、そもそもAはBの株を取得してはなりません。会社法第135条)。

従って、チョットずついろんな人に分散してもってもらう方式や循環方式がとられます。循環方式というのは、A→B→C→D→E→Aというように、チョットずつ輪のように持ち合う方式です。このグループの経営陣はお互いに会社提案議案を賛成するでしょう。

これらの複雑にすることで、一般投資家の目から持合い関係を見抜かれないようにしているケースもあるかもしれません。持ち合い関係を複雑に追っていったことはありませんが、こういう関連図が描けるケースは全くないとは誰にも言えないと思います。

ただ、会社提出議案が否定されたアデランスは、無事に(?)次期社長が決まったようです(アデランスのIRは、コチラ)。

まだ、社長候補ではありますが、次の臨時株主総会では、無事に選出されることでしょう。新体制のもとどのように企業価値を上げていくのか、フォンテーヌ(新社長が代表を務める会社)をはじめとする他社とのM&Aを含め、スティールがExitのタイミングをどのように狙うのかが注目されるところです。

さて、今日の本題です。

私は、仕事柄、文字通り、株主総会の裏側にいることがあります。正確には、株主総会の議長席の裏側です。株主総会に出席されたことのある方はご存知かもしれませんが、議長席の裏側には、なにやら人がメモしたり、議長に紙を差入れたりしているのを見たことがあるのではないでしょうか。あの席には、総会担当の職員の他、大体弁護士が座っています。では、彼らは、一体何をやっているのでしょうか。

これは、株主総会の決議取消事由が発生することのないよう、サポートしているのです。特に、株主から質問を受け付ける時間帯は、集中力を高めて、株主からの質問に耳を傾け、動議ではないか、説明義務はどの程度か、社長(回答者)が説明してはならないことを言いそうにならないかなど色々なことに神経を張り巡らせています。

特に、直ちに総会に諮(はか)らなければならないような動議もありますので(総会に諮らないと違法になる)、瞬時の判断が求められます。実際に、「(報酬議案が上がっている場合の)取締役の報酬を減額しろ」「配当を下げろ」という動議が株主から出された場合は、(直ちに諮る必要はありませんが)原案裁決時に一緒に採否を図る必要があります。

そこで、議長席の裏側にいる私達は、社長に動議を言ったのかを確認してもらい、動議であれば議案採否のときに、一緒に審理するようにしてもらいます。悠長に、条文や文献を調べる時間がないので、大変ですし、趣旨のはっきりしない株主からの質問等もどう対応するべきかを考えるのはちょっと慣れが必要です。

とはいえ、議長席の裏側から見ていても、最近は、真っ当な質問と真っ当な経営者による回答で構成される総会が増えてきたように思います。昨今では、株式会社の社長は、株主総会を「忌まわしきもの」とは思っておらず、むしろ、株主との対話を良い意味で楽しみにしていらっしゃるようにも思います(勿論、社長さんの個性や会社の置かれている状況によりますが・・・)。

私が見聞きした総会では、次のようなものがありました。

社長が、株主から従前の計画を達成できなかったことについて、質問を受け、「私も非常に悔しいと考えている。」「今後は、○○という方向で企業価値を向上させていこうと考えている。」「私が創業したときの思いは、○○であり、これを忘れないようにしたい。」と、涙ながらに株主に訴えかけておられました。株主の方がこのような対話をどう評価されたのか、株主によって異なると思いますが、思うようにいかない会社の社長の正直な思いを垣間見ることができ、このような株主との対話もあるのだなと勉強になりました。

別の総会では、株価が下がったことについて株主に詰問された社長はその場では「株価は市場によって評価されるものでありますので、このような株価となったことは当社としても大変遺憾であり、今後の企業価値の向上に誠心誠意努力する所存です」という趣旨の回答をされていましたが、後の楽屋で「株価落ちて、一番損をしてるのは(最大株主の)俺なんだから、俺が一番悔しいに決まってるじゃないか」とホンネをもらされていたのも、印象に残っています(これ以上詳しく書くことは立場上難しいため、お許しいただければ幸いです。)。

ところで、以前、当事務所のパートナーの吉原さんが真っ当な質問をするためにはどうすればよいかというエッセイを書いておられました。

これに私からも少し付け加えたいと思います。

総会当日の質問は、その場で答えられる範囲以上には、取締役に説明義務はありませんし、現実的にも回答は難しいです。そこで、会社として回答に調査を要するような質問については、予め質問状を送付しておくと、調査が必要な質問でも回答してもらえます(事前質問通知制度)。但し、「株主総会の日より相当の期間前に」通知する必要がありますので、十分な日程をとって、質問するのがよいかと思います。

ただ、何より肝心なのは、質問の中身です。優れた質問は、会社の経営をよりよい方向に導くこともあります。現に、株主からの質問を受けた後に、会社の方針が変った会社もあります。結構、社長や会社の意思決定の影響は、一個人株主が思っている以上に大きいのではないかというのが私の見立てです。

優れた質問をするために必要なものは、「優れたファイナンシャルリテラシー」と、「ビジネスに対する深い関心」であると思います。増資、配当、自社株買い等の資本政策や、買収方法、買収防衛策の持つ意味を理解することは、質問をする株主にも求められます。

また、会社のビジネスをより深く理解するためには、有価証券報告書を読み解くことも必要です。これらを身につける機会は、世に多くあるようで、実は多くないように思います。7月26~27日に開催される合宿セミナーでは、これらのスキルを身につけるための重要な要素がシッカリ詰まっています。

また、先日リリースされた「財務オペレーションと企業価値(の相対的関係)DVD」は、企業の財務オペレーション(新株発行、自社株買いと金庫株の取り扱い、有利子負債の増減、株式分割、配当など)が、企業価値しいては株価を担保する株主価値にどのように影響するのかについて解説されたものですので、お役に立つと思います。こういった能力は、スキーや自転車と同じように、一度身につけてしまうと、後から、いつでも取り出せますし、何せ、お金の知識ですから、他にもいろいろと応用が利きます。「優れたファイナンシャルリテラシー」と「ビジネスに対する深い関心」は、日常生活の中のお金が関わる場面への見方を良い方向へ変えるでしょう。


2008年7月8日  M.Mori
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