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企業と法律 第44回「21世紀の世界情勢 その2」

(毎週木曜日は、パートナーエッセーにお付き合いください。)

最近のパートナーエッセーは、「企業と法律」という題に反して、世界情勢やらG20の話が増えてきました。

今回もあまり変わらないとお叱りを受けるかもしれませんが、オバマ政権と法律事務所というのも、見方としては面白いと思います。

皆さん、オバマ政権への献金(選挙資金集め)ランキング1位は、どなたかご存知でしょうか。

今、まことしやかに献金(選挙資金集め)ランキング1位と噂されているのが、John V. Roosという人物です。

この人物は、Wilson Sonsini Goodrich & Rosatiという法律事務所のCEOの弁護士です。最近、次期駐日大使候補として注目を浴びています。

さて、いくら選挙資金集めで貢献したからといって、今まで法律事務所の所長をやっていた人が、いきなりアメリカを代表して日本大使をするというのは、日本ではちょっと考えられません。

この駐日大使の選択については、日本に対して圧力をかけそうな人物が選ばれず、恩賞人事の対象になったのは、Japan Passingだとか、もはやJapan Passingを超えて、Japan Nothingだという意見もあります。一方、アメリカにとって、日本がフランスやドイツと同じ扱いを受けるようになったということだから、日米関係が良好であることの象徴じゃないかという意見もあります。

私の個人的な感想を言えば、少なくとも日米間に貿易摩擦や安全保障問題が大きな問題となっているのであればこのような恩賞人事はありえないでしょうから、現時点では日米間には大きな問題はあまりないとオバマ政権は判断しているといえるのではないかと思います。日本にとっては、よい兆候なのではないでしょうか。少なくとも、この人事によって軋轢や圧力が増える等というのは、考えにくいように思います。

ところで、このWilson Sonsini Goodrich & Rosatiという法律事務所(ウィルソン・ソンシーニ・グッドリッチ&ロサーティと読みます。)は、私のようにベンチャー企業と接触することの多い法律家にとっては、非常に有名な法律事務所です。シリコンバレーのベンチャー業界では誰でも知っている法律事務所で、日本のベンチャーキャピタリストの間でもかなり有名です。恐らく世界で最も大きなベンチャー特化型法律事務所ではないでしょうか。弁護士の人数は650人を超えるようです(アメリカには、所属する弁護士の数が1000人を超える事務所も少なくなく、中には3000人を超える事務所もあるようです。)。アメリカの弁護士人数ランキングでいえば、50位から60位といったところのようです。

ちなみに、日本で最も大きな西村あさひ法律事務所が433人(2009年2月現在。事務所のHP参照)とのことですから、人数だけで言えば、Wilson Sonsini Goodrich & Rosatiの方が大きいことになります。

さて、法律事務所談義はこのあたりにして、世界情勢をもう少し考えてみたいと思います。

以下の米財務省が発表している米国債の保有高のランキングです。

ランキング 国名 保有額
1 中国 7,635億ドル
2 日本 6,859億ドル
3 英国 1,528億ドル
4 ロシア 1,370億ドル
5 ブラジル 1,260億ドル
6 ルクセンブルク  975億ドル
7 香港  809億ドル
8 台湾  783億ドル
9 スイス  642億ドル
10 ドイツ  546億ドル

よく言われることですが、中国と日本が圧倒的です。

一方、東欧に目を向けると、ラトビアでは、政府短期証券の入札が応札ゼロという事態が発生しています。サブプライム問題では、ヨーロッパの金融機関が危ないという話が出ていたにもかかわらず、いまだにどこか大丈夫でどこか危ないのかすらなかなか見えてこず、そうこうしているうちに、東欧から火種が出て来ました。

これまで個人投資家には注目されてこなかった債券市場ですが、これからは、国債を中心に注目を集めることになるかもしれません。

上の2つの事実からいえるのは、アメリカは、国家財政について、中国や日本に頼らざるを得ない部分が生じている一方、ヨーロッパは、東ヨーロッパの重しを西ヨーロッパ諸国が抱えきれるか不透明であるということでしょう。

インフレ懸念やアジアの台頭ということが急ピッチで進む可能性があります。ここ数ヶ月の株式市場の急騰ムードは、どこでひっくり返るかわかりません。債券市場がその引き金を引く可能性は、決して低くはないように思います。

P.S. 前回の記事について、知人から「The Economistの記事の”Decoupling”ってアメリカの景気と他の国(特に新興国)の景気の非連動性って意味で使われてるんじゃないでしょうか?」という質問を受けましたので、それへの私の回答を載せておきたいと思います。

The Economistの記事の”Decoupling”ってアメリカの景気と他の国(特に新興国)の景気の非連動性って意味で使われてるという意見は、そのとおりだと思います。
 
The Economistの記事の”Decoupling”というのは、「非連動」なのですが、個人的には、それは、例えば前年比・前日比で見た場合の「非連動」若しくは、(一緒ですが)チャートの上げ下げの「非連動」ではないかと思います。しかも、アメリカ目線でのチャートの上げ下げということではないかと。ただ、経済活動そのものを絶対値的にみると、連動度合いは強まっているように思うというのが趣旨です。

貿易がほとんど行われていない冷戦時代のソ連とアメリカは、decouplingだったと思います。実際、ソ連は、the Great Depressionの影響をほとんど受けなかったわけです。しかし、今は、有史以来最大規模で貿易が行われ、自由な市場が広がり続けています。そうすると、ある能力をもった者は、それがアメリカ人であろうインド人であろうと、あるいは、中国で行われようとインターネット上で行われようと、オランダの会社で行われようと日本の会社で行われようと、より近い価格で評価を受ける時代です。その時代では、景気の絶対値的な側面ではcouplingしていて(ますますcoupling度合いを強めていて)、その絶対値との乖離を埋める作用が中国・インド・ブラジルの急回復の背景にあるんじゃないか、ということです。
 
decoupling論は、アメリカの景気が悪くなっても、中国は影響を受けず景気がいいからオッケーというニュアンスを含んでいたと思いますが、景気の影響は、米中いずれにも同時に影響していくのではないでしょうか。中国とブラジルの間の貿易が進んだとしても、冷戦時代のロシアと東欧の貿易と比べると、はるかに影響を受けるだろうし、これからも関連度合いを深め、連動していくだろうということです。

couplingというのは、電車の連結をするときにも使うそうです。今の世界が、車両を切り離すような動きをしているのかな?というのが、そもそもの疑問の始まりでした。基本的な流れとしては、いろんな車両が連結する方向に動いていっているように思うということです。

2009年6月18日  M.Mori
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