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企業と法律 第16回「5%ルール」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーのMoriです。

今回のテーマは、「5%ルール」です。

「5%ルール」とは、上場されている株券等の保有者が保有割合が5%を超えた場合は、5日以内に大量保有報告書を出さなければならないという金融商品取引法上のルールです。銀行法や独占禁止法にも5%ルールと呼ばれるものがありますが、今回の話とは全く関係がありません。

かなりの方はご存知かもしれませんが、今、「EDINET」を見ると、冒頭に、金融庁と関東財務局から平成20年1月27日付けで「テラメント株式会社に対する大量保有報告書の訂正命令について」という文書が出されています。

事件を振り返ると

1月25日(金) 市場が閉まった後、トヨタ自動車等日本を代表する大企業6社に51%を取得した旨の大量保有報告書が提出される。

1月27日(日) 金融庁・関東財務局から訂正命令が出される。

という事実の推移です(改めて振り返るほどの内容でもないかもしれませんが・・・)。

報道(日本経済新聞2008年1月27日朝刊等)によると、取引規模は約20兆円にもなり、提出者は、「訂正報告書を出すつもりはない」「(株式の発注は)リーマンの担当者に伝えた」「(資金については)分からない」と答え、「今は仕事がないため日雇い派遣労働に従事している」とのことです。諸事情を考え合わせると、99.9%の確率で虚偽であることが推定できます。

今回の事件ではトヨタ自動車をはじめとする6社への大量保有報告書が平成20年1月25日(金)の夕方に出されましたが、金融庁及び関東財務局から市場が開く月曜日の朝までに訂正命令が出されており、ほとんど市場に影響を与えずに済みました。

行政側の今後の課題としては、(1)刑事事件での立件、(2)訂正命令に従わない場合の対応、(3)防止策の検討ということになるでしょうか。今回の件で、実際の被害はほとんどなかったとはいえ、金融庁や財務局の担当官は、相当憤慨されていると思われます。このような悪戯で、休日出勤して対応する羽目になった挙句、EDINETの仕組みへの信用性が毀損されたり、何らかの対応策をせまられることになるとすると、相当なコストがかかることになるからです。

このような子供じみた行為は一見すると被害がなく、ただのおちゃめな悪戯のように思われる可能性もありますが、このような行為のために、余分なルールが増え、真っ当に行動している人が行動しづらくなり、社会全体の運営コストが上る(=価値創造以外に労力がかかる)のです(※1)。改めていう話ではないですが、法律で許されているからといって(※2)、何でもやっていいわけではないのです。

ところで、折角の機会ですので、そもそも5%ルールとは何かという点を確認してみたいと思います。

先にも述べましたように、5%ルールとは、上場されている株券等の保有者が保有割合が5%を超えた場合に、5日以内に大量保有報告書を出さなければならないというルールです(金融商品取引法第27条の23以下)。

また、大量保有者の保有割合が1%以上増加又は減少した場合(※3)には、変更報告書が必要です。

これらのルールは、保有割合が5%以上の株主の動向を知ることができるという点で、投資家に有益な情報をもたらしてくれます。特に、有価証券報告書の【大株主の状況】の欄とあわせてみると良いと思います。

大量保有報告書や変更報告書は、どのようにしてみるかといいますと・・・・・・もう大丈夫ですね。正式なものはEDINETに載っています。また、見やすく編集したウェブサイトや、役に立ちそうな大量保有報告書を集めたウェブサイトもあるようです。

なお、皆さんが5%を超えて取得しそうな場合は、事前に財務局、証券会社や弁護士と十分に相談されることをお勧めします。「5%」の計算は、通常の持株比率の計算を若干異なります。また、共同保有者の持分も考慮に入れる必要があるため、計算式が多少ややこしくなっています。

私個人としては、今回の事件は厳正に処罰され、一方、EDINETの仕組み自体は今まで以上に広く投資家が使いやすいものになって欲しいと思います。

※1 現に、再発防止や取引時間中に開示された場合の危機管理の対応を検討するチームを立ち上げるとのことです。

※2 今回の事件は、刑事事件として立件される可能性は高いです。虚偽の大量保有報告書を提出する行為は5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科することととなっている犯罪です。また、訂正報告書の不提出も刑事罰の対象です。

※3 保有割合が変っても、株券等の総数が変化しない場合(発行会社が第三者に第三者割当増資を行い、保有割合が下がった場合等)は、変更報告書は必要ありません。

(注) 本エッセイは、具体的な案件についてのアドバイスではありませんので、現実の具体的案件については法律や会計の専門家にご相談下さい。


2008年1月31日  M.Mori
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