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企業と法律 第32話「昨今のベンチャー業界~投資渋り~」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの森です。

今日は、アメリカ大統領選挙ですね。日本時間では、明日中には大勢が判明する予定です。この選挙では、誰が当選するかという点と同程度に、「無事に」選挙が終わるかという点に関心が集まっているように思われます。

「無事に」というのは、各候補の身の安全をはじめ、開票や当選に関連して混乱が起きないか、暴動等が起きないかということです。確率的には低いとは思いますが、万が一の事態になれば、相当な混乱もあり得ます。

アメリカ大統領選挙の他にも、今月は、ビッグイベントがあります。今月15日、金融危機対策のための国際会議G20金融サミットがワシントンで開催されます。この会議では、金融危機の処理をめぐり、世界20カ国の首脳や、国連、国際通貨基金(IMF)、世界銀行などのトップが集まり、金融危機への対応についての重要な議論が行われることになっています。新ブレトンウッズ体制とかブレトンウッズ2といわれる新体制構築に向けての議論になることも予想されており、ドルの基軸通貨性が相対的に低くなるような方向性が打ち出される可能性も高いようです。ドルに代わり、事実上の国際通貨として、国際引き出し権と訳されているSDRを導入することについての検討もあり得るようです。アメリカ大統領就任予定者も出席する予定の15日の会議は、21世紀の世界情勢に大きなインパクトを与えるものになるかもしれません。

さて、金融危機に関連して、私の周りでは、ベンチャーキャピタルの貸し渋りならぬ、「投資渋り」が起こりつつあるようです。景気の先行きが見えず、また、IPO市場が長期低迷になりそうであることも反映して、投資の目途がたたないことが原因のようです。

ベンチャー企業は、担保となる資産も少なく、事業継続のリスクも高いことから、基本的には多額の資金を銀行から調達することは困難です。そのベンチャー企業にリスクマネーを供給しているのが、ベンチャーキャピタルです。ベンチャーキャピタルは、株式の取得を通じて、ベンチャー企業に投資を行い、投資先を上場企業に育て上げ、取得した株式を市場で売って、キャピタルゲインを得ることで利益を生んでいます。

ベンチャーキャピタルがベンチャー企業に投資をする場合、一度に必要な資金すべてを投入するのでなく、何回かに分けて投資するのが一般的です。成長の進ちょく状況を見ながら、必要な資金を投入することによって、リスクを抑えるためです。

いま、ベンチャー投資で起こっていることの一つが、予定されていた追加投資が延期されるという事態です。しかも、当初の計画どおり、開発や設備投資が進んでいたとしても、追加投資の交渉が難航するケースが増えています。こうなると、ベンチャー企業の方では、新たに株主になってくれる人を探すしかなく、社長とCFOが出資候補先を走り回ることになります。

一般に言われる、貸し渋りによる倒産というのは、貸し渋りにあうことにより、運転資金として必要な現金が枯渇し、支払ができなくなる倒産を意味しますが、「投資渋り」の場合では、新規開発に必要な資金が不足し、開発が完成しないまま、開発中断を余儀なくされたり、開発途中の事業を譲渡せざるを得なくなったりすることになります。大きな負債がないベンチャー企業では、債務超過状態になっていないこともあるため、破産や民事再生ではなく、資金枯渇による「清算」となることも珍しくありません。

一昨日発売された日経ヴェリタスにも「狂う“起業メカニズム”」というタイトルで、シリコンバレーの大手ベンチャーキャピタルが投資先にリストラやコスト削減を求めている現状が報じられていました。

日本では、今回の金融危機の前からIPO市場の低迷が続いていました。ただ、その時は、まだ「またIPO市場は復活するだろう(なので、今は仕込み時だ)」という雰囲気がありましたが、今回の金融危機で、ベンチャー投資は一層冷え込みつつあり、「投資渋り」の雰囲気がベンチャー企業を覆いつつあります。もちろん、すべてのベンチャーキャピタルが同じような状況にあるわけではなく、またベンチャー企業によっては、大きく投資が行われているケースもありますので、一概にはいえませんが・・・

一方、M&Aは、それほど落ち込んではいないように思います。経営の効率化を目指す方向のM&Aは、不況時でも起こりますし(むしろ不況時こそ経済全体の効率化が進むのかもしれません)、買い手はプレミアムが低くすむ不況時こそ買収時期と考えているのかもしれません。

株式市場においても、同様の傾向になるのではないでしょうか。公募等の新株発行は数が減ると思われますが、MBOや完全子会社化を目的とするTOBは、今後も行われていくと思います。

2008年11月4日  M.Mori
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