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企業と法律 第14回「株式会社化する生命保険会社」


(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
みなさん、こんにちは。板倉雄一郎事務所パートナーのMoriです。

今回のテーマは、「株式会社化する生命保険会社」です。

皆さんは、生命保険に入ってますでしょうか。
保険と言うのは、一種の「賭け」ですよね。不謹慎を承知で申せば、一定期間内に、ある人が死ぬかどうかを賭けるのが「生命保険」であり、一定期間内に、事故にあったり、盗難等の事件に巻き込まれたりするかどうかを賭けるのが「損害保険」といえるかもしれません。

最近、ある大手の生命保険会社が株式会社になるというニュースがありました。
この生命保険会社は、今まで株式会社ではなかったとすると、何だったのでしょうか。

その答えが「相互会社」です。ちなみに、日本の「相互会社」は全て生保で、損保は、全て株式会社です。もう既に株式会社となっている生保もあります。

1.相互会社
この相互会社という種類の会社は、会社法をどこからどう読んでも出てきません。実は、保険業法という特殊な法律に出てくるのです。

保険業法に書いている「相互会社」の定義を読むと、
「保険業を行うことを目的として、この法律に基づき設立された保険契約者をその社員とする社団」となっています。

「社団」とは、「人の集まり」という意味です。「社員」とは、構成員(持分を持っている人)という意味くらいで考えていただいてかまいません。

株式会社と比べるとその違いが歴然としています。

【株式会社と相互会社の定義の違い】
 ⇒「株式会社」は、「株主」を社員とする社団
 ⇒「相互会社」は、「保険契約者」を社員とする社団

これを前提にすると、少なくとも法律上の建前では、株式会社は、「株主」の利益のために活動する法人ですが、相互会社は「保険契約者」のために活動する法人です。でも、保険契約者は、保険会社に利益を出して欲しいと望んでいるわけではありません。

何かあった時に、適切な保険金が支払われることを期待しているのです。保険契約者の望みは、「利益を出すくらいなら、保険料を下げろ(保険金を上げろor払え)!」というわけですね。

このことは、株式会社と相互会社の最大の違いに密接に関係しています。

【株式会社と相互会社の目的の違い】
 ⇒株式会社は、「利益」を目的とする会社。
 ⇒相互会社は、「相互扶助」を目的とする会社。

ただ、これも法律上の建前といえるかもしれません。現実には、相互会社の方が株式会社よりも遥かに立派なビルに入っていたりすることも多いわけです・・・・・・
さらに、近年では、保険金の未払い問題等、会社が保険契約者の利益に反することを行う事件も発生したわけです。

どうしてこのような事件が起きたのかということを考えているうちに、上記のような相互会社と株式会社の違いが注目されたわけです。すなわち、相互会社は、保険契約者が株式会社でいうところの「株主」の役割を果たすことになりますが、有価証券報告書のような開示書類もありませんし、保険契約者の人数が桁違いに多いわけです。当然、監視の目が行き届かなくなります。

そこで、相互会社を株式会社化して、監視の目を行き届かせようとした流れが先の大手生命保険会社が株式会社化というニュースになります。

今まで、「保険契約者」は、「株主」としての立場と「保険金を受け取る」立場の両方を兼ね備えていたわけですが、この二つの立場、すなわち「株主」と「保険契約者」を分離することでもあります。

でも、よく考えると、株式会社化した会社は株主の利益のために動きますので、会社としては、利益を出そうとすると、できるだけ保険料は高くする、保険金は支払わないという方向で動く可能性もあるわけで、結局、保険契約者にとっては、あまり変わりないじゃないかという気もしてきます。

結局、市場原理で、高い保険料の会社とは契約しないという機能が働けばよいのですが、そうでない限りは、仕組みを変えても、結局一緒ですよね。
「相互会社」がよいのか、「株式会社」がよいのか、結局は「仕組み」の問題ではなく、運営する「人」、そして契約する「人」の問題なのかもしれません。

2.保険価値評価
ところで、保険を価値評価することはできるでしょうか。
究極的には、社会において将来起こりうる出来事を全て予測して、それぞれの出来事が起こる確率等を計算して、現在価値に引き直せばできるでしょう。
この仕事を生業とする職業があります。

アクチュアリーと呼ばれる職業です。アクチュアリーは、「確率論・統計学などの数理的手法を駆使するプロフェッショナル」です。一説によると、アクチュアリーになるための試験は、昔の司法試験より難しいとか・・・。

保険会社は、生保であっても、損保であっても、取締役会で「保険計理人」と呼ばれるアクチュアリーを選任しなければならないことになっています。このアクチュアリーの主なお仕事が、保険会社等で保険料等を計算することです。社会に発生する様々な事象、リスクをできる限り含め、それを保険料という数字で評価していくという仕事です。現在の複雑化した社会では、アクチュアリーに対する要請は多く、その活躍分野は多岐にわたっているようです。

でも、これって、「企業価値評価」の将来業績予測に似ていませんか?
企業の将来の業績を予測して、企業の価値を評価するのが、企業価値評価。
社会の出来事を予測して、ある人が死ぬ確率やその損害額を評価するのが保険価値評価。

細かさや複雑さの程度は異なりますが、「企業価値評価」と同様の原理で成り立っています。ちなみに、「保険価値評価」は私の造語です。
逆に言えば、企業価値評価ができれば、少なくとも自分の入っている保険の価値もざっくりと計算できるはずです。

個人レベルでは、「自分勝手割引率」ならぬ「自分勝手確率」をそれぞれ設定すれば、できるのではないでしょうか。このまま普通に病気にならずに今の会社で勤め上げる確率が70%で、そのうち、かなりの出世コース・まあまあ出世コース・うだつが上らないコースがそれぞれ15%、30%、25%くらいで、それぞれの収入は○円くらいか、そして、それを現在価値に割り引くと・・・・・・等とやっていけば、ざっくりと計算できるでしょう。

じゃ、その企業価値評価ができるようになるためには・・・・・・

勘のよい皆さんなら、もうお分かりですね。

(注) 本エッセイは、具体的な案件についてのアドバイスではありませんので、現実の具体的案件については法律や会計の専門家にご相談下さい。

2007年12月7日  M.Mori
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