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企業と法律 第43話「Decoupling 2.0 ?」

板倉雄一郎事務所パートナーの森です。

先日、『The Economist』の5月23日号を読んでいると、「Decoupling 2.0」と題した記事が目に留まりました。

サブタイトルは、「The biggest emerging economies will recover faster than America」です。The biggest emerging economiesというのは、主に中国のことを意味しています。

記事の要旨は、「アメリカ経済はまだ弱いのに、中国は、急速に回復しているよね。これって、新しいデカップリングじゃないかな。とはいえ、この新しいデカップリング(=Decoupling 2.0)は、前回より狭い範囲で起きている現象だよね。東欧とかメキシコとかまだまだ苦しんでいるし。・・・(中略)・・・まあ、デカップリング論は、今も生き続けているけど、大きな新興国の継続的な繁栄が既定路線ってことではないよね。」という感じです。

私は、これを読んで、逆ではないかと思いました。カップリングが進んでいるからこそ、アメリカと中国の距離や差が縮まっているのではないかと。

世界や概念の垣根は、どんどん低くなっています。国境を越えて移動する物・人・金・情報の動きは止まる気配がありません。これは、主義主張の問題ではなく、現象として捕らえるべきことだと思います。低くなるばかりの垣根に対して、もっと支えて低くならないようにすべきだとか、その中で生きていく力を身につけるべきだと考えるのは、主義主張の問題ですが、低くなるという方向そのものは、ある種の自然の摂理であるように思います。

アメリカの回復が遅く、中国の回復スピードが速いのは、関連性が薄い(=Decoupling)しているからではなく、垣根がなくなり、couplingすることにより、自由な経済のなか、中国が意志決定スピードの速さや人口の力等を活かして、より均等な状態に近づいてきたということではないのでしょうか。新興国の間で、回復スピードが違うのも、地力の差がそのまま現れているという方が現実には近いと思います。絶対値が近づきつつあるとでも言えるのかもしれません。カップリングしつつ、しかし、それは完全な同一化を意味するのではなく、実力や時の情勢により、それぞれの国や地域や企業がそれなりの特色をもって、それぞれのパワーに応じて活動を行うという時代に入ってきたのではないでしょうか。

ところで、この1、2週間米国債の話題をよく耳にしたように思います。

日本の国債の格上げは、米国債の格下げを下げるのを回避するためだったのではないかとか、Bill Grossという大物投資家(PIMCOの創設者)が米国債はいずれAAAの格付けを失うだろうといった話題です。実際に、米国債の利回りは上昇しているようです。そういえば、ある政治家が政権をとったら米国債は買わないと発言したとして話題にもなりました。

これまでのように、米国のみが圧倒的パワーをもって、世界情勢の様々な部分をコントロールしていた時代は、もはや維持できなくなったのかもしれません。これも、ある意味、世界が連動しつつある傾向を示しているのかもしれません。

米国債がこれまでの価値を維持できなくなるということは、金利の上昇を意味します。これはインフレーションの可能性を意味します。そのお金が商品に向かうのか、株式に向かうのか、他の通貨に向かうのか、それは、皆さんが各々で考えていただくべきことですが、米国債に対してこのような懸念を示されてはじめているということは、頭の片隅に置いても損はないと思います。

このような時代では、国に依存するのではなく、自分自身の特色を出し、自分から活動した者が、様々な事象をリードしていくことになるように思います。

2009年5月28日  M.Mori
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