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企業と法律 第46回 「企業法務と刑事事件」

(毎週木曜日は、パートナーエッセーにお付き合いください。)

数日前、霞ヶ関の東京地裁界隈は、大賑わいでした。皆様も御存知の芸能人薬物事件の公判があったからです。少しすると判決期日がやってきますので、これまた大賑わいとなることでしょう。

なんといっても傍聴券に当れば、無料で某有名女優が刑事事件の被告人となっている裁判を傍聴できるのですから、並ぶ人の気持ちもわからないわけではありません。ただ、裁判の公開という制度は、本来、裁判を見世物にするためにある制度ではなく、裁判所が適切に裁判を行っているか国民が監視するための制度なんだけどな、と思わないでもありません。

また、この騒動を報道するメディアに対しては、世の中他にもっと伝えることもあるだろうに・・・と、思います。個人的にはインフルエンザの流行状況等の情報の方がよっぽど知りたいです。地下鉄サリン事件ならまだしも、覚せい剤取締法違反事件をここまで大々的に取り上げる必要が皆目理解できません。この某有名女優の事件がストーリーとして面白く、多くの人の興味を引くことについては、反論ができないのもまた事実ではあるのですが・・・・・・。

(ちなみに、もう一方の男性芸能人O氏のMDMA使用事件について、裁判中で空白の3時間に触れられなかった点が疑問視している報道がありましたが、この点が触れられないのはやむを得ないと思います。
というのも、この裁判は、被告人であるO氏がMDMAを使用したことについての裁判であって、一緒にいた女性への保護責任者遺棄致死罪についての事件ではありません。
刑事裁判の原則として、検察官が起訴状に記載した罪や事実に関係のない事柄については、裁判中に裁判官も弁護士も検察官も言及することはできません。O氏が3時間も女性を放置したことは、O氏がMDMAを使用した罪(この件では、女性は被害者ではない。)を裁くにあたっては無関係な事実なので、MDMA使用事件の裁判ではノータッチにせざるを得ません。
とはいえ、御遺族のお気持ちを察するに忍びないものがあります。保護責任者遺棄致死罪について、検察官に起訴してもらうよう訴えかけ、不起訴になった場合は、検察審査会に起訴を検討してもらうようにするしかありません。)



さて、企業法務をメインにしている弁護士への質問として、時折、「刑事事件はやっているのですか」という質問がきます。

私は、弁護士に成り立ての頃は真剣に取り組んでいましたし、今も、当番弁護の登録をしており、事件が来れば、対応するという体制をとっています。とはいえ、一般的な企業法務の弁護士が刑事事件で被告人の弁護を担当することはあまりないというのが実情かと思います。

ただ、企業法務が刑事事件と全く関わりがないかといえば、そうでもありません。

実際に担当したケースでは、「当社のビジネスにとってきわめて重要なポジションにある人が逮捕されたので、面会に行って、事情を聞いてきて欲しい」と頼まれ、本当にその人がその罪を犯したのかどうかを確認するために警察署に勾留されている被疑者に会いに行き、事情を聞いた後、そのビジネスをどうやって決着をつけるかを検討しました。
他にも、「○○(従業員や取引の相手方等)が逮捕されたのですが、どうしましょうか?!」と突如連絡が入って、善後策に苦慮したことは、一度や二度ではありません。

会社の従業員が、傷害、強制わいせつ、窃盗等の罪で逮捕されるケースは、少なくありません。このような場合、会社は、事実関係の迅速な把握、解雇するかどうかの決断、顧客やメディアへの対応等について、決断と行動が求められます。

事実関係の迅速な把握は、本人や家族、関係者に会うことによって、かなり把握できるようになることがほとんどです。解雇するかどうかの決断についても、それほど難しくないでしょう。一番難しいのは、顧客やメディアへの対応です。

会社が全く悪くないケースもあれば、会社に責任のあるケースもあります。会社が認めるべき責任と認める必要のない責任がありますので、顧客やメディアに誤解を与えることのないように適切に対処する必要があります。
大きくいうと、「バレないようにする方針」と「徹底的に開示し、謝る方針」があります。このうち、「バレないようにする方針」が有効に機能するケースもあります。

罪名が軽く、ビジネスに影響がほとんど無いケースで、さっと解雇したケースでは、顧客やメディアにリリースする必要が無い場合もあるでしょう。ただ、ビジネスに影響が大きい場合や、会社の責任が大きい場合は、隠蔽だと糾弾されて、報道でバッシングされるリスクもありますし、法的責任(善管注意義務違反等)に問われることもあるでしょう。
そうなると、早いうちに、徹底的に開示し、謝る方針の方が結果的に被害が少なく済むことも多いように思います。メディアへのリリースについては、タイミングや時間帯、フレーズ等いろいろポイントがあります。

上場企業の場合、その会社で粉飾決算等が行われているとか、ビジネスに影響のある情報について隠蔽体質があることが判明した場合は、直ぐに投資不適格の判断をされてもやむを得ません。ある意味、犯罪か犯罪的行為と全く無縁の会社は逆に少ないと考えられますので、そういう事態に会社がどのような対応を採るのかという視点から、投資を考えてみるのも一つの視点ではないでしょうか。

2009年10月29日  M.Mori
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