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企業と法律 第12回「種類株式 Part1」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

みなさん、こんにちは。板倉雄一郎事務所パートナーのMoriです。

今回のテーマは、「種類株式 Part1」です。

「えっ?!種類株式なんて、聞いたことがない?!」
「そんなの今まで投資に関して、考えてこなかった」
という意見も多くきかれそうです。

実際に、現在の日本の株式市場に上場している多くの会社は種類株式を発行していません。ただ、種類株式を発行している会社が全くないわけではありません。過去には、種類株式を発行したまま上場した会社もありました。また、海外の企業では、種類株式を発行している上場企業はたくさんあります。

今日は、この耳慣れない「種類株式」を考えてみたいと思います。

1.種類株式とは・・・
種類株式とは、普通株式とは何らかの性質が異なる株式を意味します。
もちろん、普通の株式と同様「株式」の一種です。このエッセイでは、区別するために、普通の株式を「普通株式」、普通株式とは何らかの性質が異なる株式を「種類株式」と呼びます。

では、種類株式は、どのような点で普通株式と異なるのでしょうか。
実は、種類株式と一言で言ってもいろいろな設計ができます。

 ・配当
 ・残余財産の分配
 ・議決権
 ・譲渡制限
 ・取得請求権付
 ・取得条項付
 ・全部取得条項付
 ・拒否権付
 ・役員選任権付

このうち1つだけを普通株式と異なるものにすることもできますし、いくつかを普通株式と異なるものにすることもできます(※1)。
例えば、次のような設計ができます。

例1-1(※2)
配当の内容を変えた種類株式(配当優先株式:参加的)
・ 会社が配当をする場合は、まずA種種類株主(種類株式を持っている人)に50円/株を支払い、その後A種種類株主及び普通株主に対し、○円(取締役会で決定した金額)/株を支払うという内容。

例1-2
残余財産の分配について変更した種類株式
・ 会社が清算し、残余財産を分配した場合は、A種種類株式1株:普通株式1株=10:1にして、分配するという内容。

例1-3
議決権をなくした種類株式(無議決権株式)
・ A種種類株主は全ての株主総会決議事項について議決権がないが、毎年50円/株の配当が行われなくなった時から、議決権が復活するという内容。

例1-4
取締役選任権付の種類株式
・普通株主は取締役を4人、A種優先株主は取締役を1人、B種優先株主は、取締役を2人選べるという内容。
このようにいろいろな設計ができるため、最近では、上場企業でも、「トラッキングストック(特定事業連動株式)」、「買収防衛策」、「MBO」等に利用され、ベンチャー企業のファイナンスでも、利用されています。

2.種類株式の活用例
実際の活用例を見て見ましょう(※3)。
ベンチャー企業から多額の出資を受けた場合、設立時に社長が1株1万円で1000株分出資していたとします。すると、設立時には、株主構成は、
【設立時】
・普通株式
1,000株(100%):社長
となるわけです。

この後に、ビジネスが順調に発展し、新たに設備投資・研究開発の必要が出てきました。しかし、お金が必要になります。そこで、社長は、研究開発費として1億円をベンチャーキャピタルから出資を受けようと考えました。1億円の資金が必要だとすると、1株1万円では、10,000株になり、出資後の持株比率は、
【出資後の例1】
・普通株式
 1000株(9.09%):社長
 10000株(90.9%):ベンチャーキャピタル
となります。
これでは、ベンチャーキャピタルが過半数の株式を持っていますので、ベンチャーキャピタルの意向次第で、社長の地位を解任させられてしまうかもしれません。社長にしてみると、折角、立ち上げたビジネスなのに、事実上他人に支配されてしまうようなものです。

そこで、社長は、少なくとも1/2は維持したいと思い、株価を1株10万円にすることにしました。すると、出資後の持株比率は、
【出資後の例2】
・普通株式
 1,000株(50%):社長
 1,000株(50%):ベンチャーキャピタル
となります。

これで、万事上手くいくように思えますが、これでは、いろいろと問題があります。まず、ベンチャーキャピタルからすると、
「あなたの会社をバリュエーションしたのだけど、どう考えたって、10万円/株の価値はないよ」・・・((1))
とか、
「このままだと、投資後にいきなり活動停止されると、解散するしかなくなるが、仮に解散して清算すると、社長:ベンチャーキャピタル=1:1の割合で、残った財産を分配することになる。これは、とても損だ。そこまで信用できない。」・・・((2))
とか、言われて、そもそも出資してもらえなくなりそうです。

そこで、登場するのが種類株式です。
((1))については、株価を下げる代わりに、すぐに社長が首にならないように、取締役選任権について、普通株主は取締役を3人、A種優先株主は取締役を2人選ぶという内容にします。この形だと、社長が取締役会の過半数を支配することになりますので、社長がいきなり首になることはありません。

((2))については、ベンチャーキャピタルに対して、残余財産分配権を優先する内容の種類株式を発行します。

このような種類株式を8万円/株で発行することになるとすると、具体的には、次のようになります。
【出資後の例3】
・普通株式:取締役3人選べる
 1,000株(44.4%):社長
・A種優先株式:残余財産分配優先。取締役2人選べる
 1,250株(55.5%):ベンチャーキャピタル
* A種優先株式の残余財産分配の内容:会社が清算する場合は、まずA種優先株式1株につき8万円で分配し、その残りを普通株式に対して分配する。
このようにすると、上記の((1))や((2))の問題が解決します。

種類株式Part2に続きます。

(※1)
種類株式の設計は、会社法になって自由度が増しましたが、限界はあります。例えば、配当を全くもらうことができず、且つ残余財産の分配も受けることができないというような種類株式の設計は許されません。

(※2)
具体例は、内容の要約であり、実際の定款の規定は正確性を期すため、もう少し長く、厳密に規定します。ここでは、理解を容易にするため、簡略に書いています。

(※3)
このエッセイでの活用例は、少し現実的ではないところもありますが、わかりやすさを優先しています。実際はもう少し複雑な設計の種類株式が利用されることが多いです。

(注) 本エッセイは、具体的な案件についてのアドバイスではありませんので、現実の具体的案件については法律や会計の専門家にご相談下さい。

2007年11月13日  M.Mori
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