板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  パートナーエッセイ >  By M.Mori  > 企業と法律 第22回「外国資本からの投資」

企業と法律 第22回「外国資本からの投資」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセーにお付き合いください。)

みなさん、こんにちは。板倉雄一郎事務所パートナーのMoriです。

連日、様々な裁判のニュースが話題となっています。このようなニュースを聞くと、司法が取り扱っているトピックは、本当に幅広いものだと実感いたします。

今日は、電源開発(J-POWER)とブルドッグソースの件について、考えてみたいと思います。

1.電源開発(J-POWER)

今回問題となったのは、TCIファンドという外国投資家が、日本の電源開発という電力事業を取り扱った会社の持株比率を増やそうとして、外為法上の投資の届出を行ったところ、所管の経済産業省から投資の中止を勧告されたというものです。

日本の外資規制については、以下の2つのタイプのものがあります。

・外為法による規制
・個別法による規制

の2つです。

外為法による規制は、国の安全を損なうこと、公の秩序の維持の妨げとなること、公衆の安全の保護に支障を来すこと、日本経済の円滑な運営に著しい悪影響を及ぼすこと等を理由として、外国投資家の日本への直接投資を規制することができます。

一方、個別法による規制は、放送法や電波法にあるように、直接、個別の法律で、外国人や外国投資家による免許取得や議決権行使を規制しています。

今回の経済産業省の判断に対しては、閉鎖的であるとか、場当たり的判断であるということで批判があるようです。ただ、アメリカを含めた諸外国でも同様の規制はあるようです。例えば、アメリカには、エクソンフロリオ条項という、すべての業種を対象に、国の安全保障を損なう外国投資家の対米投資を制限できる法律の条項があり、近年SWF等による買収の活発化を受け、この外資規制についても強化の方向で改正された模様です。

また、実際に、石油会社のユノカルや港湾運営会社であるドバイ・ポーツ・ワールドに対する外国資本(中国・UAE等)の買収を退けています(※1)。決して、他の国が日本より開かれた体制にあるとまでは言えないように思います。

私も、広く投資家が買える上場株式を買ってみたら、それ以上の購入は駄目といわれた投資家の無念は、理解できないわけではありません(※2)。しかし、外為法に対内直接投資規制があるのは明らかである以上、TCIファンドとしても、全くの予想外というわけではなかったと思います。今回の財務省及び経済産業省の判断が合理的であるか、国益にかなっていたかは、ともかくとして、このような外為法上の規制は、国を跨いだ買収には、つきものであり、やむを得ないものと考えます。ちなみに、独占禁止法等も事実上、外国資本からの防衛として活用されるケースもあるように思います(主に、ヨーロッパ等で)。

最後に、今回のケースについて、今後、予測される動向を考えてみたいと思います。外為法上、勧告を受けたものは、勧告を受けた日から10日以内に、応じるかどうかを通知しなければなりません。TCIファンドは、今月の25日までに、投資を中止するか、中止勧告に応諾しない旨を通知することになります。

TCIファンドが中止勧告に応諾しない場合は、経済産業省が中止命令を行い、TCIファンドがこの命令について、異議申立て又は審査請求を行い、これに対する裁決を仰ぐことになります。これでも決着がつかない場合(不服がある場合)は、行政訴訟という裁判を起こし、裁判所で決着をつけることになります。

外資規制については、このエッセイをご参照下さい。1ヶ月半前のエッセイですが、今の状況とほとんど変りません。

2.ブルドッグソース

先週末、4月18日(金)の日経新聞9面に、「米スティール ブルドック全株売却」という記事が掲載されていました。

外国資本がソースの会社をどれだけ買収しても国の安全を損なうとは言いがたいですので、(外国投資家の目からすると)外為法上のリスクはないケースでしたが、投資対象会社の買収防衛策がハードルとなった案件です。

スティールパートナーズによるブルドックソース買収と買収防衛策についてのエッセイは、こちらです。

 ITAKURASTYLE「スティールパートナーズ(1)」
 ITAKURASTYLE「スティールパートナーズ(2)」
 ITAKURASTYLE「スティールパートナーズ(3)」
 企業と法律 第4回「株主総会~ブルドック買収防衛策に寄せて~」
 企業と法律 第5回「ブルドック事件高裁決定」

また、買収防衛策自体については、こちらのエッセイも参考にしてください。

ブルドックの買収防衛策の件は、スティールがブルドックから直接現金を得ていますので、おそらく少し利益を出したものと思います。この法廷闘争は、スティールが大負けすることのない試合でしたが、法廷闘争で負けて、持株比率を減らした以上、買収することに固執する理由もなくなったということだと思います。

この事件以降、買収防衛策の方向性は、少し風向きがかわったように思います。買収防衛策を敢えて導入しないことを宣言する会社や、導入していた買収防衛策をやめる決断をした会社が現れてきたのは、この件によって、「買収防衛策って、誰のためのもの?」という議論がなされたことに影響を受けているかもしれません。

昨今の外国資本との付き合いの中で、「上場する」ことの意味や、株主の「資本コスト」を考えるきっかけが生じていると思います。こういった事件を通じて、これらの考え方について、意識され、議論されることが大切であると思います。そして、多くの投資家を含む企業関係者や私を含めた法曹関係者がこれらの事件について考えることにより、日本の金融市場がより成熟し、成長していくことを願っております。

※1
これらの案件では、エクソンフロリオ条項が活用されたわけではないようである。

※2
電源開発について、変な株主が紛れ込むのが嫌であれば、株式を売らないのが最大の防衛策です。売っていなければ、今回のような批判を浴びることもなかったでしょうから、責められるべきは、上場をするという過去の決断かもしれません。

2008年4月22日  M.Mori

ご意見ご感想、お待ちしています!





エッセイカテゴリ

By M.Moriインデックス