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企業と法律 第41回「G20とある上場企業のMSCBの続き」

(毎週木曜日は、パートナーエッセーにお付き合いください。)

前回、ジャルコ社のMSCBについて、お伝えしました。その後のIRを追いかけていくと、

特別損失の発生+業績予想の下方修正(赤字幅拡大)

代表取締役の異動

取締役が辞任、取締役が3名に
(補足解説:取締役会を設置している会社の場合、取締役は3名以上(定款の規定があればその員数)でなければならず、仮に取締役の員数が3名の状態で取締役が辞任しても、取締役としての権利及び義務を負い続けることになる。)

監査役全員辞任

取締役会でMSCB発行決議:取締役3名のうち2名賛成、1名反対。弁護士の適法意見も得られていない。

JASDAQによる勧告:会社は、これを無視して発行を強行する模様。

新株予約権行使差止等仮処分命令申立を受ける

一部訂正・修正・追加

新株予約権行使差止等仮処分命令申立の取下げ

MSCBに関する補足説明

MSCBに払込みに関する説明:なお書として、「当社としましては市場への影響を鑑みた上で、割当先とは登記申請が受理されるまでは、本新株予約権の転換請求を当社が受理しないことで合意しております」とある。
(補足解説:個人的には、登記申請は、効力発生要件でも何でもなく、単に記録の申請であるため、転換請求の基準となる理由はよくわからない。)

MSCBに関する補足説明の訂正:「前代表取締役の友人をコンサルタントとして契約を結び投資家、ファンド、業務提携等色々な観点で外部資金の導入を検討してまいりましたが、構造改革に関する資金投下は成立しませんでした。その結果、当社としては貴重な資金をコンサルタントに支払っただけとなってしまいました。」とあるのを、「平成19年5月に前代表取締役(当時取締役)の紹介にてコンサルタントと契約を結び投資家、ファンド、業務提携等色々な観点で外部資金の導入を検討してまいりました。その結果、カタリスト株式会社との新株予約権の付与を前提とした1億5千万円の融資を得ることができました。これによって得た貴重な資金を当社は構造改革に使用してまいりましたが効果は現れず、資金は枯渇する状況に陥りました。」と訂正。

MSCBの登記申請受理に関するお知らせ

となっています。

正直なところ、これほど混迷したIRも珍しいのではないかと思います。そもそも、JASDAQの勧告の無視や役員の退任騒動、MSCBの発行の適法性にも問題はありますが、訂正が多い点や開示内容や訂正内容そのものといったIR体制そのものも相当問題であるように思います。

世の中に、上場企業の怪しいファイナンスというのは、いろいろあります。ある著名なサイトで知ったのですが、実際に監視当局の講演録で指摘されているものによりますと、「英領バージン諸島」、特に「「P.O. BOX 957」の英領バージン諸島に住所を持つSPCに対する第三者割当増資」は怪しいと言われています。今回のジャルコ社の件ではケイマンでしたが、EDINETやIR情報で、このようなファイナンスを行っている会社は要注意です。

さて、話は全く変わりますが、今日(4月2日)は、G20、主要20カ国・地域首脳会合(金融サミット)の開催日ですね。

これを書いている3月31日の時点で、私が入手できたG20声明草案(フィナンシャル・タイムズ(電子版)3月29日、ロイター(電子版)3月30日より)の中で、個人的に気になった点は"We have agreed a general SDR allocation of $[x] to strengthen global liquidity."として、流動性拡大のための特別引き出し権(Special Drawing Rights)の割当に言及している点です。これが現実の既存の通貨システムにどの程度インパクトを持つのか私にはわかりませんが、ガイトナー米財務長官や周中国人民銀行総裁がSDRに言及し、話題になっているところを見ると、今後の通貨システムに影響をもつ可能性があるのではないかと感じています。ただ、全く触れずにスルーされる可能性もあります。

他の箇所では、" we commit to conduct our economic policies responsibly with regard to the impact on other countries and to refrain from competitive devaluation of our currencies."として、通過の切下げ競争を控えることにコミットすると述べており、通貨の価値を下落させないように努力する姿勢を打ち出しています。かつて日本が行ったような大規模な為替介入は、いろいろな国が一斉にするとジリ貧になるからと思われます。

一方で、"We are taking unprecedented and concerted fiscal actions to support growth and jobs. Acting together we strengthen the impact of this fiscal expansion, which amounts to a stimulus of more than [$x trillion] this year and next and is expected to increase output by more than [2] percentage points and employment by over [20] million jobs."として、財政政策に数値目標を入れるようです。素人考えかもしれませんが、いくら通貨切下げを行わないとしても、大規模な財政政策を実行するために中央銀行からの借入を増やせば増やすほど、相対的には通貨の価値が下落するように思われますので、悪いインフレに陥らない方策を真剣に検討しなければならないように思います。

今回のG20では、総じて言えば、保護主義にならないようにしましょうということを主体にして、財政刺激策、金融緩和策を頑張り、新興国を救済し、国際的な金融機関や格付け機関への監督を強化しましょうということのようです。これ以上、実質的なものを期待するのは、少し難しいところがありますが、そもそもサミットは、集まることにも大きな意義がありますので、実質的な内容について大きな期待ができないのはやむを得ないように思います。ただ、通貨制度や通貨の価値は、いまのような国境を越えたマネーが飛び交う社会では、非常に重要であり、まだ流動的でもありますので、チェックが欠かせないように思います。

なお、今回のG20の結果、国際決済銀行のみに適用されるBIS規制の証券会社版やヘッジファンド版のような規制ができることになるかもしれず、こうなると金融機関や金融業務に大きな影響が生じるかもしれません。これはこれで、大きな影響が生じそうです。

 以上は、筆者の個人的見解です。また、本エッセイは、投資の推奨等をするものではありません。投資判断にあたっては、投資者の自己責任でお願いいたします。

2009年4月2日  M.Mori
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