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企業と法律 第24回「アデランスホールディングス」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

みなさん、こんにちは。板倉雄一郎事務所パートナーのMoriです。

今日は、最近のアデランスホールディングス(以下アデランスHD)の株主総会を取り上げ、取締役の権利義務を考えてみたいと思います。

1.取締役の人数と会社法のルール

皆様もご存知と思いますが、株式会社アデランスHDの第39回定時株主総会決議において、取締役選任の議案が一部否決されました。

日本において、取締役が株主からクビにされてしまうこともあるという事例として、既に、多くの新聞記事やブログ等で取り上げられておりますが、改めて、今回の経緯を見ます。

<否決にいたる経緯>

・もともとアデランスHDには、9名の取締役がいた。
・今回の第39回定時株主総会決議では、9名の取締役の全員が任期満了になる予定であったが、うち2名は再任ではなく、退任することとなっていたため、2名の新任取締役の候補者を立てて、合計9名の取締役の選任を予定していた。
・しかし、実際の第39回定時株主総会決議では、2名が賛成多数で可決されたが、7名が賛成少数で否決された。
・その結果、「取締役の権利義務を有する者」として現取締役9名および新任取締役2名を加えた11名体制となった。

この経緯を理解するためには、次の会社法の原則を知る必要があります。

ルール1:取締役会設置会社においては、取締役は、3人以上でなければならない。
ルール2:法令・定款所定の取締役の員数が欠けた場合には、新たに選任された取締役が就任するまでの間、なお取締役としての権利義務を有する。

アデランスHDの定款には、役員の下限人数が定められていません。また、アデランスHDは、取締役会設置会社ですので、取締役は、3人以上でなければなりません。
しかし、今回の第39回定時株主総会決議では、既存の取締役について2名が退任、7名が再任否決となり、その結果、新任の2人の取締役では、取締役3人以上というルール1を満たすことができなくなりました。そこで、ルール2が適用され、退任予定だった2名の元取締役と再任否決された7人の元取締役が、会社法上の取締役ではないが、「取締役の権利義務を有する者」として、アデランスHDに残ることになりました。従って、現在は、アデランスHDの取締役会は、11名の体制で行われることとなったわけです。

2.取締役の権利義務

そもそも、取締役の権利義務とは、何でしょうか。

取締役会設置会社の場合、取締役の仕事は、基本的には、取締役会に出席して、各議案に賛否を表明し、業務執行の決定を行い、代表取締役を決め、代表取締役の業務執行を監督することにあります。

取締役の権利義務を有する者は、普通の取締役と全く同じ立場と考えてよいですので、それぞれ取締役に出席する義務があり、賛否を表明する必要があります。

3.取締役の権利義務を有する者

取締役の権利義務を有する者という地位は、辞めたくても、後任取締役が選任されるまでは、辞めることはできません。これは、「職業」ではなく、「法的責任」だからだと思います。

つまり、日本国憲法では、職業選択の自由が認められていますが、それにもかかわらず、取締役の権利義務を有する者という地位を辞めることはできないのは、取締役の地位にあったことに伴う法的責任だからと考えています(私見)。要するに、お金を借りた人の地位(債務者の地位)を辞めることができないのと一緒のようなものです。

従って、これからどこかの会社の取締役になろうとする人は、その会社の定数との関係で、自分が辞めたいときに辞めることができるかどうか、というのを考えておいた方がよいでしょう。特に、ベンチャーファンドを運営しているベンチャーキャピタルから投資先の会社の取締役になる際は、要注意です。

4.今後の展開

現在のアデランスHDの取締役は、株主と相談する等して、遅滞なく後任取締役を選任するようにする必要があります。従って、近いうちに、候補者が確定し、臨時取締役会が開催されるというのが最も可能性が高いといえるでしょう。

現在、「取締役の権利義務を有する者」としてアデランスHDに残ることになった者は、いずれもその地位を失い、以降、取締役会に出席することはできなくなります。

ただ、株主と現取締役会の間で意見が一致せず、なかなか候補者が決まらないような場合には、いずれかのサイドの申立により、裁判所が一時取締役を選任する可能性もあります。一時取締役は、その名の通り、一時的な取締役です。株主総会決議を経ていない取締役ではありますが、一時的に正式な取締役となりますので、一時取締役の選任によっても、現在、「取締役の権利義務を有する者」としてアデランスHDに残ることになった者は、いずれもその地位を失うことになります。

従って、現在の代表取締役が株主から駄目といわれている以上、現在の代表取締役は近いうちに代表の地位を退くことになり、新たな代表取締役が選ばれて、新体制が確立されることになるでしょう。今後のアデランスHDの舵取りは、株主も同意された新代表取締役のもとで行われることになるでしょう。

2008年6月10日  M.Mori
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