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KISS 第126号「学習の方法(自社株買い)」

たとえば、「自社株買い」を辞書などで引くとこんなことが書いてあります。

「企業などが、過去に発行した自社の株式を市場の時価で買い戻すこと。自社株を消却することで、バランスシートを圧縮できる。
自社株買いとは、企業などが、過去に発行した自社の株式を市場の時価で買い戻すことを指します。」
(野村総合研究所のWEBより)

これで、何かわかりますか?

少なくとも僕は、このような辞書を読んでも、理解は得られません。
あくまで、理解のための導入、つまり言葉の定義に過ぎないと思うのです。

で、「自社株買いとは何だ?」と受講生や卒業生に質問をぶつけます。
漠然とした質問なので、答えられない場合には、
「誰が買うんだ?」と質問を具体化します。
すると、多くの場合、
「会社が買うんだ」とか、
「経営者が買うんだ」とか、
まあ、あまり深く考えていない答えが返ってきます。
で、僕は、その答えに対し、さらに質問する。
「会社って誰のことだ?」
「経営者が自分の財布から現金を出して買うのか?」と。
すると、皆さん初めて深く考え始めます。

僕なら、以下のような理解が得られるまで、「自分自身で」しつこく考えます。


自社株買いとは、
自社株買いに応じて株式を手放す既存株主の株主価値を、
自社株買いに応じず株式を保有する既存株主が、
企業という器を通じて、時価で買い受ける行為。
したがって、株主価値に対して割安な時価総額の時点での自社株買いは、
自社株買いに応じず株式を保有する既存株主が得をし、
その分自社株買いに応じて株式を手放す既存株主が損をする。
また、株主価値に対して割高な時価総額の時点での自社株買いは、
自社株買いに応じて株式を手放す既存株主が得をし、
その分自社株買いに応じず株式を保有する既存株主が損をする。
さらに、
自社株買いによって得られた「金庫株」を、
燃やしても燃やさなくても、当該企業の株主価値には変動が無い。
なぜなら、「金庫株」は、
そもそも既存株主が間接的に保有しているに過ぎないから。

経済とは、当たり前ですが、人間が作り上げたシステムです。
よって、少なくとも僕は、経済的な取引を認識する上で、
「一体、誰と誰がどのような取引を行ったのか?」
が判明するまで、じっくり考えるのです。
言葉や、その定義に惑わされ、取引の本質を見失わないためです。

このような解釈に勤めれば、たとえば・・・
「○×ファンドが、▲■企業を買収」というニュースを見ても、それだけで、「へぇ?」と納得したりしません。
僕は、「○×ファンド」のファンドマネージャが誰であるかはどーでもよく、「○×ファンドへの出資者が誰であるか」まで考えます。
で、それが判明すれば、このニュースは、少なくとも僕には・・・
「▲■企業の株主価値を、「○×ファンド」の出資者である、?さんが手に入れた。」と見えてくるわけです。
すると、「誰の経済価値が、誰に移転し、誰が得して、誰が損したのか」がわかるというわけです。

ファイナンスや経済のあらゆる「オペレーション」、あらゆる「現象」は、最終的に、
「誰かと誰かの取引」であったり、
「誰かが損して、誰かが得する」であったりするはずです。
その「誰」を突き止めるまで、(とはいっても、個人名とかそういうことではなく、どのような形で取引に参加している人かと言う意味)、僕は思考を止めません。
面倒に感じるかもしれませんが、僕は公認会計士の免許が欲しくて理解を深めているわけではなく、物事の本質をつかみたくて理解を深めようとしているわけですから、面倒なんて思いません。
僕は、『映像』で考えます。
リアルな映像として、その取引や現象を理解できなければ、少なくとも僕は理解したとは思えないのです。

皆さんも是非、「誰」を突き止めるように、思いをめぐらせてください。

それでは、問題です。

「WACC(=加重平均資本コスト)を求める際の、Ke(=株主資本コスト)は、そもそも何のために算出するのか?」

「将来キャッシュフローの割引率のためだよ」なんて、教科書どおりの回答ではダメですよ。

ヒントです・・・Kd(=有利子負債コスト)は、会計上の利益(=経常利益の段階)に影響を与えますが、Keは少なくとも会計上の利益には影響を与えず、Kdと共に、株主価値に影響を与えます。
ってことは、何のためにKeを求めるんでしょうか?

もう一つ問題です。

「企業のIR部門のミッションとは何だ?」

さらにもう一つ問題です。

「配当とは、誰の経済価値を、誰に配分するのか?」

これに解答できれば、「配当は株価を上昇させる」なんて馬鹿な理解をしなくて済みますし、急成長企業(=再投資対象が見つかるはずの企業の)大株主が経営者を勤める場合、「ああなるほど、(経営者が配当によって)自分のぽっぽにカネ入れたいのね」と理解できるわけです。

以上、回答をお寄せいただいても、頂かなくて結構です。
ご自身で「腹の底に落ち着く理解」が得られるまで考えてみてください。

2005年9月28日 板倉雄一郎

PS:
結局、当事務所の合宿セミナーは、2日間で21万円(消費税、宿泊費、食費込み)と表記していますが、その実、一回分の再受講無料ですから、4日間で21万円(+再受講の際の宿泊費、食費)なのです。
(再受講の2回目以降は、2日間で5000円+諸経費)

サーキットを車で走る場合、僕は「とりあえず一周」してみます。
そのうえで、感覚を掴み、さらにもう一周すると、多くのことを掴むことができます。
僕はこの考えに基づき、「とにかく2日間通しで受けてください。」と思っています。
で、再受講の際に「腹の底に落ちる」わけです。

また、このシステムは、予備知識や経験の違いによる理解の差を、追加の(大きな)価格支払無しに埋めることができるわけです。
基礎知識が十分にあれば、2日間の受講で「腹の底に落ちる理解」が得られるでしょうし、そうでない方も、何度も再受講すれば、同等程度の理解が得られるはずです。
(もちろん、最も大切なのは、本人の意思ですが)
結果、支払っていただいた価格以上の価値を、皆さんにご提供できると信じています。

なんだかセミナーの宣伝ばかりですが、以上の姿勢をどうかご理解ください。
(ってか、再受講の方々の目的は上記以外に、毎回取り上げる企業を変えていることと、懇親会目当てでの再受講だったりもしますが(笑))





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